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【日本の病巣を斬る!】♯24 ホワイトプロパガンダ漫画家はすみとしこ見参!④ [政治]

【日本の病巣を斬る!】♯24 ホワイトプロパガンダ漫画家はすみとしこ見参!④

文化人サポーターズチャンネル
【日本の病巣を斬る!】
2017年12月19日収録
☆出演者☆
杉田水脈(衆議院議員)
千葉麗子(元アイドル・執筆家)
Marre(HEAVENESE)
はすみとしこ(ホワイトプロパガンダ漫画家)
孫向文(中国人漫画家)
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線香問題で茂木大臣追及も希望の党玉木代表にブーメラン発覚 KAZUYA [政治]

線香問題で茂木大臣追及も希望の党玉木代表にブーメラン発覚 KAZUYA

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「安倍首相がノーベル平和賞受賞者の面会断った」ってアレ、証拠ありませんでしたw 一方アメリカ大統領は不法移民に妥協案! KAZUYA [政治]

「安倍首相がノーベル平和賞受賞者の面会断った」ってアレ、証拠ありませんでしたw 一方アメリカ大統領は不法移民に妥協案! KAZUYA


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東西冷戦下の代理戦争【CGS 世界と日本の戦争史 第33回】 [政治]

東西冷戦下の代理戦争【CGS 世界と日本の戦争史 第33回】

1970年代前期に起こった世界各地での東西冷戦下での戦争・紛争を
その背景にある国と国との衝突や民族間での争いについてお話いただきました。高度成長期に沸く国内とは対象的に70年代前半の世界は争いが絶えず各地で起こっていました。
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【沖縄の声】投開票まで残りわずか!全国的な注目が集まる名護市長選挙[H30/2/3] [政治]

【2月3日配信】桜林美佐の国防ニュース最前線「尖閣接続水域に中国潜水艦・トランプの一般教書演説を読み解く」伊藤俊幸元海将【チャンネルくらら】

他人の庭に平気で入り込む中国軍には相互主義で対応せよ 金沢工業大学、虎ノ門大学院教授・伊藤俊幸http://www.sankei.com/column/news/180...
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【討論】日本の幸福って何?[桜H30/2/3] [政治]

【討論】日本の幸福って何?[桜H30/2/3]

パネリスト:
 上島嘉郎(元産経新聞社『月刊正論』編集長・ジャーナリスト)
 郡修彦(音楽史研究家)
 佐波優子(ジャーナリスト)
 saya(シンガー)
 髙清水有子(皇室評論家)
 馬渕睦夫(元駐ウクライナ兼モルドバ大使)
 三浦小太郎(評論家)
 水野久美(ライター)
司会:水島総
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山田宏 自民党参議院議員 9条1項2項はそのままで、3項に自衛隊の根拠規定を置く案。刑法の正当防衛と同趣旨。1項2項が残るので、「必要最小限度の自衛権」を認める最高裁砂川判決の9条解釈の範囲内での「自衛権」。シンプルでわかりやすい案だ。 [政治]

山田宏 自民党参議院議員 9条1項2項はそのままで、3項に自衛隊の根拠規定を置く案。刑法の正当防衛と同趣旨。1項2項が残るので、「必要最小限度の自衛権」を認める最高裁砂川判決の9条解釈の範囲内での「自衛権」。シンプルでわかりやすい案だ。

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長谷川幸洋 「憲法9条を絶対守れ」も「自衛隊は違憲だ」も甚だおかしい理由 [政治]

長谷川幸洋 「憲法9条を絶対守れ」も「自衛隊は違憲だ」も甚だおかしい理由

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上念 司 「平成元年から平成16年にかけて低下していましたが、平成21年以降上昇しています。これは、エンゲル係数が、世帯主が60歳以上の高齢の世帯では高い傾向があるため、高齢化に伴って高齢の世帯の割合が上昇していることなどが全体のエンゲル係数の上昇にも関係」 [政治]

上念 司 「平成元年から平成16年にかけて低下していましたが、平成21年以降上昇しています。これは、エンゲル係数が、世帯主が60歳以上の高齢の世帯では高い傾向があるため、高齢化に伴って高齢の世帯の割合が上昇していることなどが全体のエンゲル係数の上昇にも関係」

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上念 司 「高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。」 [政治]

上念 司 「高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。」

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渡邉哲也  [政治]

渡邉哲也

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高橋政治経済科学塾 【体験版】高橋政治経済科学塾講義2018_2月号特集ブロックチェーン技術とその応用~今後の経済社会に与えるインパクト(前編)(後編)を公開!色々騒がれる仮想通貨をはじめブロックチェーン技術の応用、経済社会にもたらす影響を両先生が語ります。 [政治]

高橋政治経済科学塾 【体験版】高橋政治経済科学塾講義2018_2月号特集ブロックチェーン技術とその応用~今後の経済社会に与えるインパクト(前編)(後編)を公開!色々騒がれる仮想通貨をはじめブロックチェーン技術の応用、経済社会にもたらす影響を両先生が語ります。

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余命三年時事日 2361 ら長野弁護士会 [余命三年]

余命三年時事日 2361 ら長野弁護士会
http://yh649490005.xsrv.jp/public_html/2018/02/03/2361-%e3%82%89%e9%95%b7%e9%87%8e%e5%bc%81%e8%ad%b7%e5%a3%ab%e4%bc%9a/ より

決議・意見書
ttp://nagaben.jp/publics/index/101/#page101_242

少年法の適用年齢引き下げに改めて反対する会長声明
2018年(平成30年)1月30日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

長野県教委「学校における働き方改革推進のための基本方針」についての会長声明
平成29年12月9日
長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝

長野家庭裁判所佐久支部に関する総会決議
2017(平成29)年11月25日
長野県弁護士会臨時総会

平成29年司法試験合格発表についての会長声明
平成29年10月20日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

地方消費者行政の一層の強化を求める意見書
2017年(平成29)年9月2日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

民法の成年年齢引下げに関する会長声明
2017年(平成29)年8月5日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

平成29年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
平成29年7月8日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

適正な弁護士数に関する決議
平成29年6月24日
長野県弁護士会総会

いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に強く抗議し,その廃止を求める会長声明
2017年(平成29)年6月26日
長野県弁護士会 会長  三 浦 守 孝

いわゆる共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに抗議する会長談話
2017年(平成29)年5月24日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

司法修習生に対して修習給付金を支給する制度創設にあたっての会長声明
2017年(平成29年)5月22日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

70回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2017(平成29)年5月3日
長野県弁護士会  会長 三 浦 守 孝

信州大学大学院法曹法務研究科の閉校にあたっての会長談話
平成29年3月27日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

いわゆる共謀罪法案を国会に提出することに反対する会長声明
2017(平成29)年3月13日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明
2016年(平成28年)12月27日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長談話
平成28年12月8日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

長野県子どもを性被害から守るための条例の処罰規定について慎重な運用を求める会長声明
平成28年11月1日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明
2016(平成28)年10月3日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話
平成28年6月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

ヘイトスピーチ対策法律案に関する会長声明
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に関する会長声明
平成28年5月23日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣

69回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2016年(平成28年)5月3日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣

熊本地震に関する会長談話
2016年(平成28年)4月28日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣

労働審判の実施支部拡大に関する会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明
平成28年2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受け,民法の差別的規定の早期改正等を求める会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明

司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016年(平成28年)1月20日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明
2016年(平成28年)1月9日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

面会室内での写真撮影等に関する会長声明
平成27年11月10日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長談話
平成27年9月25日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
2015年(平成27年)8月8日
長野県弁護士会 会 長 髙 橋 聖 明

安全保障関連法案の衆議院採決に抗議し廃案を求める会長談話
平成27年8月8日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」における罰則の強化等に反対する意見書
2015年8月8日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

安全保障関連法案に反対し,衆議院本会議における強行採決に抗議する声明
2015年(平成27年)7月16日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

少年法の適用年齢の引下げに反対する会長声明
2015年(平成27年)7月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

災害対策を理由とした「国家緊急権」の創設に反対する会長声明
2015(平成27)年7月4日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の締結に反対する総会決議
平成27年6月20日定期総会決議
長野県弁護士会

労働時間規制を緩和する労働基準法等の改正に反対する会長声明
2015(平成27)年5月27日
長野県弁護士会 会長 髙橋 聖明

憲法記念日に当たっての会長談話
平成27年5月3日
長野県弁護士会 長 髙 橋 聖 明

商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明
2015年(平成27年)3月14日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代

本年の日本国憲法を巡る状況を振り返る会長談話
平成26年12月25日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

東京入国管理局における被収容者死亡事件に関する会長声明
2014年12月17日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
平成26年11月8日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

司法試験予備試験の受験資格制限に反対する会長声明
平成26年9月13日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

司法予算の大幅増額を求める会長声明
平成26年9月13日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

集団的自衛権を容認する閣議決定がなされたことに抗議する会長声明
平成26年7月7日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

法務省東日本入国管理センターにおける2件の被収容者死亡事件に関する会長声明
平成26年6月7日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書を受けて発表された「基本的方向性」に対する会長声明
平成26年6月5日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代

商品先物取引における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明

2014年(平成26年)4月25日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代

集団的自衛権行使容認の動きが強まる中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話
平成26年5月3日
長野県弁護士会  会 長 田 下 佳 代

淫行処罰条例の制定に反対する意見書の提出について
平成25年7月16日会長声明を発しましたが平成25年12月14日提出

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護に関する法律等の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
2014年(平成26年)4月5日
長野県弁護士会 会 長 田 下 佳 代

袴田事件の再審開始決定に関する会長声明
2014(平成26)年4月5日
長野県弁護士会 会長 田 下 佳 代

信州大学法科大学院の新入生募集停止に関する会長声明
平成26年2月13日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

「特定秘密の保護に関する法律」の成立に強く抗議する会長声明
「特定秘密の保護に関する法律」の成立に強く抗議し,
同法の廃止と憲法改悪阻止のための幅広い行動を呼びかける会長声明
2013年(平成25年)12月16日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する総会決議
2013(平成25)年11月30日
長野県弁護士会臨時総会決議

「特定秘密の保護に関する法律案」の衆議院可決に強く抗議する会長声明
2013年(平成25年)11月29日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

改正生活保護法に反対し速やかな廃案を求める会長声明
2013年(平成25年)11月15日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

京都弁護士会所属会員に対する傷害事件に対する会長声明
2013年(平成25年)11月9日
長野県弁護士会会長 諏 訪 雅 顕

「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する会長声明
2013年(平成25年)10月22日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への交渉参加の秘密保持契約が国民主権・国会の最高機関性等に反することを懸念する会長声明
平成25年10月12日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

公契約条例の制定を求める意見書
2013年(平成25年)10月11日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

長野県暴力追放県民センターに対し必要な財政的支援を講ずることを求める会長声明  平成25年7月22日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕

淫行処罰条例の制定に反対する会長声明
平成25年7月16日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕
生活保護法改正案に反対し廃案を求める会長声明
平成25年6月10日
長野県弁護士会 会長 諏 訪 雅 顕

憲法第96条の憲法改正発議要件緩和に反対する会長声明
平成25年5月16日
長野県弁護士会 会 長 諏 訪 雅 顕

法曹養成制度検討会議の中間的取りまとめに対する意見書
平成25年5月13日

法科大学院の地域適正配置と地方法科大学院に対する支援を求める会長声明
2013(平成25)年2月9日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

法科大学院の地域適正配置についての6弁護士会会長共同声明
2013(平成25)年1月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

給費制復活を含む司法修習生への経済的支援を求める会長声明
2013年(平成25年)1月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

生活保護基準引き下げに反対する会長声明
2012年(平成24年)11月10日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

改正貸金業法等の見直しに反対する会長声明
2012年(平成24年)8月6日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

子どもの権利条例制定の要望書
平成24年7月9日

地域司法の充実を求める総会決議
平成24年6月24日

「マイナンバー法」の制定に反対する会長声明
平成24年6月14日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

秘密保全法の制定に反対する会長声明
平成24年5月12日
長野県弁護士会 会 長 林 一 樹

国の原子力政策の転換等を求める総会決議
平成23年11月26日
長野県弁護士会総会

少年鑑別所の増設を求める決議
平成23年11月26日
長野県弁護士会総会

法曹養成に関する意見書
平成23 年8 月6 日
長野県弁護士会 会長徳竹初男

全面的な国選付添人制度の実現を求める決議
平成23年6月25日
長野県弁護士会 会長徳竹初男

「布川事件」再審無罪判決に関する会長声明
2011年(平成23年)6月1日
長野県弁護士会  会 長 德 竹 初 男

長野地家裁飯田支部、飯田簡裁の実質的な裁判官の減員措置についての要請
平成23年3月16日
長野県弁護士会 会長 小 林 正

(会長声明)司法修習生貸与制施行延期に関する裁判所法一部改正にあたって
2011年(平成23年) 2月24日
長野県弁護士会 会長 小 林 正

適正な法曹人口に関する決議
平成22年11月20日臨時総会決議
長野県弁護士会

秋田弁護士会所属弁護士刺殺事件に関する会長声明
平成22年11月8日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正

横浜弁護士会所属弁護士刺殺事件に関する会長声明
平成22年7月10日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正

全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明
平成22年6月18日
長野県弁護士会 会 長 小 林 正

憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明
2010年(平成22年)5月3日
日本国憲法の施行から63年目の日に
長野県弁護士会 会長 小 林 正

民法(家族法)の早期改正を求める会長声明
平成22年4月30日
長野県弁護士会 会長 小 林 正
―――――•―――――•―――――
少年法の適用年齢引き下げに改めて反対する会長声明
第1 声明の趣旨
当会は、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることに改めて反対する。
第2 声明の理由
1 はじめに
すでに、当会は、2015年(平成27年)7月6日に少年法の適用対象年齢を引き下げることに反対する会長声明を発しているところである。
しかし、現在、法務省の法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることの是非を審議していることから、同部会の議論状況に鑑み、改めて本会長声明を発するものである。
2 法制審議会における議論状況
法制審議会において少年法の適用対象年齢の引き下げの是非に関して交わされたこれまでの審議の結果、現行の少年法が18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において有効に機能していることについては各委員の間においても格別の異論がないものと解される。
 一方、今後、民法の成年年齢が18歳に引き下げられた場合には、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢が異なることは法的な整合性という観点から問題があるのではないかという指摘がなされてもいる。
そして、同審議会は、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえ、少年法の適用対象年齢の引き下げの是非についてさらに検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議をしているところである。
3 民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係
当会としては、民法の成年年齢を18歳に引き下げること自体に反対をする会長声明(2017年(平成29年)8月5日)を発しているところであるが、仮に民法の成年年齢が18歳に引き下げられたとしても、そのことを理由として少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げなければならないものではない。
すなわち、ある法規範の適用対象年齢をどのように定めるかということは、当該法規範の趣旨や目的に照らして個別具体的に検討されるべき問題であり、民法の成年年齢から他の法規範の適用対象年齢が一律に定められるべきものではない。
このことは、現行法上も、婚姻可能年齢(男性18歳、女性16歳)、喫煙・飲酒可能年齢(20歳)、被選挙権年齢(衆議院25歳、参議院30歳)といったように、法規範ごとに適用対象年齢が異なっていることを見ても明らかである。
そして、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係についても、戦前の旧少年法においては適用対象年齢を18歳未満と定めており、民法上の成年年齢(20歳)とは一致していなかったことを見ても両者が必ずしも一致しなければならない性質のものではないことが分かる。なお、その後、少年法の適用対象年齢が20歳未満に引き上げられたが、それは少年法が果たすべき役割の重要性からして18歳及び19歳の者に対しても少年法を適用することが望ましいという理由によるものであって、民法上の成年年齢と合致させるべきであるとの理由によるものではなかったと理解されている。
 一方、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することは過度なパターナリズム(保護主義)であるとの指摘もある。
しかし、少年法上の処遇はパターナリズムという観点のみではなく、少年の健全な育成を通じて再犯の防止を図ることなども含めた総合的な刑事政策的観点に基づいて理解されるべきものであり、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することが過度なパターナリズムに当たるものであると単純に解することはできない。
 現行法上も、婚姻により成年擬制がされていても20歳未満であれば少年法が適用されているが、これが過度なパターナリズムによるものであるとして特に問題とされているものではない。
4 少年法の適用対象年齢を引き下げる立法事実がないこと
少年法の適用対象年齢を引き下げるか否かという問題は、少年の健全な育成と更生を図るという少年法の目的を達成する上で適用対象年齢を引き下げることが有効か否かという観点から検討されるべき問題である。
そして、現行の少年法は18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において極めて有効に機能しているということができる。
すなわち、現行の少年法においては、いわゆる全件送致主義のもと、20歳以上の者であれば微罪処分や起訴猶予処分にされてしまうような比較的軽微な事件についても家庭裁判所による調査の対象として、心理学や社会学などの専門的知見を有する家庭裁判所調査官が行動科学(医学、心理学、教育学、社会学、社会福祉学等)の知識や技法を活用して、非行の経緯、動機、態様のみならず、少年の生育歴、家庭環境、生活状況、交友関係、心身の状態等を総合的に調査し、少年が非行に至った原因とその背景(非行メカニズム)を科学的に解明するとともに、再非行に至る危険性の予測をした上で、少年の更生と健全な育成を図り、再非行を防止するための教育的な働きかけを行っているところである。
また、一定の場合には家庭裁判所裁判官の観護措置決定に基づいて少年を一定期間少年鑑別所に収容し、専門家である法務(心理)技官や法務教官及び医師が、24時間体制での行動観察や面接、心理検査、検診等を行って少年の性格や資質などの鑑別をしている。
さらに、弁護士が少年の付添人に選任された場合には、付添人の立場からも非行の原因や背景を調査するとともに少年の更生と立ち直りを図り、再非行を防止するため、少年に寄り添いつつ少年自身の内省が深まるように働きかけをしたり、家庭環境や生活環境の改善を図るために被害者や少年の親をはじめとする関係者との調整を行ったりしているのである。
これらの多面的で重層的な調査、鑑別と働きかけがなされることによって、これまでに多くの少年がそれぞれに抱えてきた問題を認識し、それを克服しようと努力をして立ち直っていくことができ、その結果として再非行も防止されてきたということができる。
このように、現行の少年法は、18歳及び19歳の者を含む少年の健全な育成と更生を図るという同法の目的を達成する上において極めて有効に機能してきたのであって、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げて18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外しなければならない事情(立法事実)が存在しないことは明らかである。
むしろ、18歳及び19歳の者が少年法上の処遇から除外されることによって更生をする機会が失われて再犯のリスクが高まることが容易に予想され、社会の安全にとっても深刻な悪影響をもたらしかねないことは2015年の前記会長声明においても指摘したとおりである。
5 厳罰化すべき必要性がないこと
以上に対して、18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外することによって、これらの者の大人としての自覚を促し、その結果としてこれらの者の健全な育成と犯罪の抑止が図られるとする意見も見られる。
しかし、2015年の前記会長声明でも指摘したように、現行の少年法においては、故意の犯罪により人を死亡させた重大事件については、原則として裁判員裁判を経て刑事罰を科すものとされ、行為時に18歳以上の少年については死刑判決を選択することも可能とされているほか、平成26年には、少年に適用される刑の上限を引き上げる法改正もなされたばかりである。
このように、現行の少年法を前提としても、少年に対し、その犯した罪に応じた刑事罰を科すことは十分に可能なのであって、上記法改正の効果についての然るべき検証もなされないままにさらなる厳罰化をすることは立法事実を欠くものであって適切ではないと言わざるを得ない。
6 刑事政策的措置について
前記のように、法制審議会では、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえた上で、さらに少年法の適用対象年齢引き下げの是非についての検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議を進めている。
もとより、現行法制上における刑事政策的措置については20歳に達した途端に少年法に基づく調査や教育的処遇を受けられなくなるなどの点で、改善・充実すべき課題が少なくないことはたしかである。
しかし、これらの課題については、本来、少年法の適用年齢対象を引き下げるか否かという問題とは切り離して、十分な時間をかけて慎重に検討されるべきものであり、少年法の適用対象年齢を引き下げるための手当てという観点からこの問題を議論するのであれば、それは引き下げという結論ありきの議論であると言わざるを得ない。
7 結論
以上のとおりであるから、当会は、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに改めて反対するものである。
以上
2018年(平成30年)1月30日
長野県弁護士会会長 三 浦 守 孝

長野県教委「学校における働き方改革推進のための基本方針」についての会長声明
1 本年11月15日,長野県教育委員会は,「学校における働き方改革推進のための基本方針」(以下,「方針」という。)を決定した。
 方針は,公立小中学校の教員において,質の高い授業を実現すること,教員の長時間勤務(長時間労働)を改善することを目標としており,当会は,特に教員の過労状況の改善という観点から,方針の示した取組について賛成する。
 当会は,このような意欲的な取組を長野県教育委員会が方針として掲げたことを高く評価し,子どもらの教育を担うべき志の高い有為な人材が,安心して教員を目指すことができるような環境整備の点からも,その速やかな実現を期待するものである。
2 その上で,当会は,方針に関し,以下の各点にも十分な留意が払われ,方針の掲げる目標に照らし,真に実効的な取組がなされることを期待する。
(1)教員の時間外労働時間について
方針でも指摘されているとおり,教員の長時間勤務の実態は深刻である。相当数の教員が,いわゆる過労死認定ラインとされる1ヶ月80時間超(発症前2か月間ないし6か月間における時間外労働)の時間外労働時間の負担にさらされている現状は,直ちに改善されなければならない。そのために,方針が1ヶ月の時間外労働について年間を通じて,原則45時間以下とするとの目標を掲げたことは,大いに評価されるべきところである。そして,そのためには,方針でも触れられているとおり,教員が本来的に担うべき業務を精選し,スリム化,効率化を図ることが必要不可欠である。
また,方針でも指摘されているとおり,教員の労働時間が客観的かつ適切な方法で把握されることも必要不可欠である。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」及び「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては,原則として使用者が自ら現認するか,タイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として労働時間を把握することを求めており,自己申告制については客観性の担保が十分でないため,例外的なものとされている。教員についても,上記同様に,タイムカード等の機械的,客観的な記録方法によって教員の労働時間を把握すべきであり,自己申告制は採用すべきではない。
また,教員についてはいわゆる持ち帰り残業が少なくないことも指摘されており,表面的な時間外労働時間が短縮されたとしても,その分自宅等での持ち帰り残業が増えるだけとなる,といった方針の趣旨に反する事態が起らないよう,十分に留意する必要がある。仮に持ち帰り残業を行わざるを得ない場合には,その時間も含めて労働時間を算定することで,適正に労働時間を把握すべきである。
(2)部活動指導の負担軽減について
業務の分業化について,方針では,部活動指導員やスクールサポートスタッフの活用が指摘されているところ,その場合に必要な予算措置を確保することが重要であると考えられるため,予算面での裏付けが実効的になされるべきである。また,朝練廃止を含めた部活動指導の負担軽減については,保護者の理解も必要であるところ,教員もひとりの労働者であるという観点が保護者側においても十分共有されることを期待したい。なお,部活動に関する取組として,方針において中長期的な取組として指摘されている総合型地域スポーツクラブの設立や部活動の学校合同チームによる練習環境の整備,地域の指導者の育成などの地域の取組への支援についても,子どもたちの部活動への意欲に応えうるような仕組み作りを期待したい。
(3)教員の労働実態についての調査検証
今後も教員の労働実態については,適切な調査を継続的に行い,その結果を踏まえた検証を行うとともに,調査・検証の結果を,適時に県民に向けて公表されたい。
平成29年12月9日
長野県弁護士会   会 長 三 浦 守 孝

長野家庭裁判所佐久支部に関する総会決議
( 2017-12-05 ・ 338KB )
2017年(平成29)年11月25日、当会は、「長野家庭裁判所佐久支部において、調査官の常駐、少年審判の取扱い、及び庁舎の建替えを求める総会決議」を採択致しました。
決議の趣旨は、下記の通りです。

近年の家事事件の増加、家庭裁判所の役割の重要性に鑑み、地域の司法制度が地域の住民にとって「より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」となるよう、どの地域の住民であってもあまねく共通の司法サービスを受けることができるように、当会及び当会会員が一丸となって活動を継続していくことを決意するとともに、裁判所及び国に対して以下の施策の実現を求める。
1 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに家庭裁判所調査官を常駐させること。
2 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに少年事件を取り扱うこと。
3 長野地方・家庭裁判所佐久支部・佐久簡易裁判所庁舎を早期に建て替えること。
4 全国の裁判所における人的物的基盤の充実にともなう支出に対応するため、司法予算を大幅に増額させること。
決議の理由は、上記PDFファイルをご覧下さい。

平成29年司法試験合格発表についての会長声明
1 9月12日、司法試験の最終合格者が発表された。当会は、新たに法曹となる合格者を歓迎し、今後の司法修習、実務でのOJTを通じて、法律実務家として大きく成長されることを期待する。
2 司法試験は、法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は市民の権利義務と社会正義に深く関わるものであるから、司法試験を適切に運営して法曹の質を確保することは、市民に対する国の重大な責務である。
法曹養成制度改革推進会議も、平成27年6月、司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが、その際、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との重要な留保を付している。
3 司法試験の在り方について、当会は、弁護士の急増政策に基づく急増現象により、弁護士業務の過度の商業化やOJT不足が危惧されること、法曹志願者激減に伴う司法試験の機能不全が懸念されること、弁護士制度の国家資格制度としての安定性と確実性が損なわれていることを指摘して、弁護士増加ペースを緩めるべく、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議を行った(平成29年6月24日)。また、本年の合格発表に先立ち、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うよう求める会長声明を発した(同年7月8日)。
4 ところが、本年の司法試験合格者数は1543人とされた。長年にわたり裁判官及び検察官の採用人数が抑制されている現状では、司法試験合格者の大多数が弁護士登録を行うこととなるが、今後も現在のペースで弁護士数の増加が進む場合、当会が総会決議で指摘した諸弊害は、一層増大するおそれがある。
5 さらに、たとえば、直近3年間に比較すると、合格率は平成26年が22.58%、平成27年が23.08%、平成28年が22.95%と推移してきたところ、本年の合格率は25.86%となって約3%上昇した。
また、合格点は、平成26年が770点、平成27年が835点、平成28年が880点、本年が800点であるのに対し、全受験者の総合点について、各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値を見ると(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は中央値より低い総合点であったと擬制している。)、平成26年が604点、平成27年が679点、平成28年が725点、本年が659点であって、合格点と前記中央値の差が、本年は直近3年間に比較して14点~25点縮減している。
これらの数値的変化は、各年の受験者全体の得点状況との対比において本年は合格ラインが下がったことを示すが、法曹志願者が激減している現状等からは、本年の受験者全体の試験の解答能力が昨年までに比べて急に上昇したものとは考えにくいことからすれば、本年の合格ラインは、絶対評価としても低下した可能性が高い。そして、かかる現象は、司法試験の受験者数が大幅に減少している状況下で、合格者数は昨年並みの1500人台としたために生じたものと言わざるを得ない。
 以上からすれば、本年の司法試験の合格判定は、上記法曹養成制度改革推進会議の取りまとめとしての「1500人程度以上」に拘泥し、合格ラインを意図的に引き下げた可能性が高い。
 政府が、法曹の質の確保という市民に対する国の重大な責務を軽視し、「法曹の質の確保」という上記取りまとめの重要な留保を無視したのではないかとの疑義を免れない。
6 よって、当会は、本年の司法試験合格判定の適切性に懸念を表明するとともに、引き続き政府に対し、司法試験合格者数の更なる削減と厳正な合格判定の実施を求める。
平成29年10月20日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

地方消費者行政の一層の強化を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領について、2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用対象を限定している点を、2018年度(平成30年度)以降の新規事業に適用対象を含めるよう改正するとともに、消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業を適用対象に含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。
2 国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
3 国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け、実効性ある施策を講ずべきである。
第2 意見の理由
1 地方消費者行政推進のための交付金の継続について
平成21年の消費者庁の創設及び「地方消費者行政活性化交付金」等の交付措置により、消費生活センターの設置数は501箇所(平成21年度)から799箇所に増加し(平成29年版消費者白書252頁)、平成27年末までにすべての地方自治体が何らかの消費生活相談窓口を設置するに至るなど、地方自治体の消費生活相談体制が整備されてきた。この間、地方消費者行政活性化交付金は、地方消費者行政推進交付金に変更して継続され、消費生活相談体制の整備・拡充に寄与してきている。
現在の地方消費者行政推進交付金の実施要領は、2017年度までの新規事業を適用対象事業として限定的に定め、かつ、対象となる推進事業ごとに活動期限を設定しており、地方において事業を継続するためには、期限が切れる事業から順次、自主財源化していく必要がある。ところが、ほとんどの地方公共団体の政策判断は消費者行政重視に向けて転換しておらず、また、地方財政の実情の厳しさから、財源を捻出することは容易ではない。地方自治体にとって、地方消費者行政推進交付金に代わって、地方消費者行政の体制整備・拡充を支えるだけの自主財源を確保することは困難である。このような状況下では、年々、新たな消費者問題、とりわけ高齢者の消費者被害が深刻さを増す現状に対応することはできなくなる。
 以上を踏まえると、地方消費行政推進交付金の実施要領を改正し、2018年以降の新規事業も適用対象に加えるべきである。
さらに、消費生活相談体制の充実・強化とともに被害防止のための出前啓発講座等の啓発活動や悪質業者排除の法執行が一層重要となっていることに鑑み、消費生活相談員の増員及び専門性向上等の人的基盤強化についても、適用対象に位置付けるべきである。そして、これまで、8年間の地方消費者行政に対する交付金の給付によっても最低限の体制整備が未達成であることに鑑み、少なくとも同交付金を今後10年間は継続する必要がある。
2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担について消費生活情報のPIO-NET登録、重大事故情報の通知、法令違反業者への行政処分、適格消費者団体の差止関係業務などは、国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり、消費者被害防止のために全国的な水準を向上させる必要がある。そこで、これら国と地方公共団体相互に利害関係がある事務については、地方財政法弟10条を改正し、国が恒久的に財政負担する事務とすべきである。
なお、適格消費者団体の活動への国の財政支援は、地域の民間団体の実情に応じて支援する必要があるため、基本的に、都道府県を通じた支援として実施することが相当である。
3 地方消費者行政職員の増員と資質向上について
今後の地方消費者行政の役割は、地方公共団体内の他部署との連携による高齢者見守りネットワークの構築や官民連携によるきめ細やかな消費者啓発・見守りの実施が重要課題とされている。また、違法な事業活動に対する法執行件数が減少している現状や、商品事故に関する原因究明や商品テスト担当職員が減少している現状に鑑みれば、消費者行政担当職員の配置と専門性向上の施策も重要な課題である。
 国は、地方消費者行政の担当職員の職務が、法執行部門、啓発・教育分野、地域連携の企画推進分野、他部署・他機関との連携調整など、多様な課題を担う必要があることを踏まえ、職員の増員及び資質向上に向け、具体的な政策を検討すべきである。
2017年(平成29)年9月2日
長野県弁護士会会長 三  浦  守  孝

民法の成年年齢引下げに関する会長声明
1 現在,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げようとする動きが具体化しているが,その必要性や消費者被害をはじめとする引下げに伴う諸問題に対する施策が十分に検討されているとは言い難く,当会は,成年年齢引下げを内容とする民法改正に反対する。
2 若年者は社会経験の不足等から,契約に必要な知識又は経験を十分に有しているとは言い難く,様々な消費者契約の被害者となっている。
現行民法は,20歳未満の未成年者の保護を図るため,未成年者が法定代理人の同意なく締結した契約等の法律行為については,契約を取り消すことができると規定する(民法第5条第2項)。
 民法上の成年年齢を18歳に引き下げることは,18歳,19歳の若年者に行為能力を付与し,法定代理人の同意なく単独で有効な法律行為を行うことを可能にする反面,未成年者を保護するための上記取消権を失わせるものである。
民法の成年年齢の引下げについて,法制審議会が平成21年10月28日に採択した「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」は,若年者の消費者トラブルの現状について,①消費生活センター等に寄せられている相談のうち,契約当事者が18歳から22歳までの相談件数は,全体からみると割合は少ないものの,20歳になると相談件数が急増するという特徴があること,②悪質な業者が,20歳の誕生日の翌日を狙って取引を誘いかける事例が多いこと,③携帯電話やインターネットの普及により,若年者が必要もないのに高額な取引を行ってしまうリスクが増大していること,④若年者の消費者被害は学校などで連鎖して広がるなどの特徴があり,特に上記①及び②の事情からすると,未成年者取消権の存在が悪質業者に対する大きな抑止力になっていると考えられることから,民法の成年年齢が18歳に引き下げられ,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を失えば,悪質業者のターゲットとされ,不必要に高額な契約をさせられたり,マルチ商法等の被害が広まるおそれがあるなど,18歳,19歳の若年者の消費者被害が拡大する危険があると指摘している。
3 民法の成年年齢の引下げには,かかる重大な問題が存在する以上,引下げを行うには,未成年者取消権に代わり,悪質業者に対して抑止効果を持ち,消費者被害に遭ったとしても容易に被害回復することを可能とする消費者保護ルールの構築等を十分に検討し,実現することが必要不可欠である。
 上記最終報告書も,成年年齢の引下げは消費者被害拡大等の問題があり,消費者被害が拡大しないよう消費者保護施策の更なる充実を図る必要があると指摘し,消費者保護施策や消費者関係教育の充実等の具体的な施策を求めているうえ,消費被害拡大防止のための有効な施策の充実が成年年齢の引下げを行う条件であるとしている。
しかし,現状では,消費者保護ルールの構築やその他の有効な施策は実現しておらず,このような状況下で,成年年齢を18歳に引き下げれば,18歳,19歳の若年者の消費者被害拡大を招く危険があり,若年者の十分な保護は図られない。
4 また,消費者被害のほかにも,離婚の際の未成年者の養育費が早期に打ち切られてしまうおそれや,未成年者に不利な労働契約の解除権(労働基準法第58条第2項)の喪失により若年労働者の保護の範囲が狭められてしまうなどの,成年年齢の引下げに伴う様々な問題点も指摘されているが,これらの問題点についても十分な検討や対策がなされているとはいえない。
5 よって,成年年齢を18歳に引き下げた場合に生じる上記問題点に対し,十分な検討や有効な施策が実現されていない以上,民法の成年年齢を引き下げることに反対するものである。
2017年(平成29)年8月5日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝

平成29年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 司法試験をめぐる志願者減少が著しい。
平成29年度の法科大学院志願者数(延べ人数)は8,159名(前年度比119名減),入学者数は1,704名(同153名減)に,同年の司法試験出願者数は6,716名(同1,014名減),受験者数は5,967名(同932名減)にまで落ち込んだ。
ピーク時には,法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数),司法試験出願者数が11,892名(平成23年)であったことを考えると,上記のとおりの法曹志願者の減少は激減というべき状況にあり看過できない。
このような法曹志願者激減の原因については,法科大学院修了を受験資格要件としたことで多額の学費や時間的コストを要することになった反面,司法試験合格者の多くが進路として選択する弁護士について,現実の法的需要を無視した弁護士数の過剰増員による就職難や,弁護士の職業的魅力の低下等が生じていることが背景に存在するものと考えられる。多くの時間的,経済的コストを課しておきながら将来に不安がつきまとうといった現在の制度設計では,有為な人材が法曹という職業を敬遠することは必然的な現象である。
2 司法は国民の権利義務や社会正義に深く関わるものであり,その司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な課題・要請である。現状のように法曹志願者の母数が激減すれば,その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり,法曹の質の確保にも懸念が生じる。
 法曹養成制度改革推進会議は,平成27年6月,司法試験の合格者数を年間1500人程度以上とする検討結果を取りまとめた。しかし,司法試験出願者が激減している現状の下で,単に上記方針通りの合格者数を確保するために合格ラインが下げられてしまうなら,司法試験に本来要請される選抜機能は大きく損なわれ,合格者の質を制度的に担保できない事態も想定される。このような事態は,上記取りまとめにおいて示されている「輩出される法曹の質の確保を考慮す」べき,との方針にも反することとなる。
したがって,今後の司法試験の合格判定は,目標とされた数ありきでなされてはならず,従前にも増して,司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ,厳正に行われなければならない。
3 以上から,当会は平成29年司法試験の合格判定にあたって,1500人程度以上とされる合格者数の確保が優先されるべきではなく,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを求める。
平成29年7月8日
長野県弁護士会   会長 三 浦 守 孝

適正な弁護士数に関する決議
第1 決議の趣旨
当会は、政府に対し、平成29年度以降、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める。
第2 決議の理由
1 弁護士数が過剰となったこと
(1)弁護士数の増加状況
政府は、平成14年3月、今後法的需要が増大し続けるとの予測のもと、「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」とする司法制度改革推進計画を閣議決定した。
この結果、司法試験合格者数は年々増加し、平成19年から平成25年には2000人を超えた。平成26年、平成27年には1800人台となったものの、平成14年当時1万8838人であった弁護士数は、平成29年5月1日現在で3万9011人と倍増した。
この間、裁判官の数は平成14年時点で2288人、平成28年時点で2755人と約20%の増加、検察官の数は平成14年時点で1484人、平成28年時点で1930人と約30%の増加であるのに対し、弁護士の数は約106%増加した。
(2)法的需要予測の見込み違い
 ところが、法的需要が増大するという政府の予測は大きく外れ、平成18年度以降、裁判所の全新受事件数は、過払訴訟の影響を考慮しても明らかに減少傾向にある(平成18年-約500万件、平成22年-約430万件、平成26年-約350万件)。法律相談件数も、平成18年から平成25年まで年間約60万件と横ばいで推移し、増加傾向は全く見られない(弁護士会法律相談センター、法テラス、自治体の弁護士相談の総計)。
たしかに、弁護士の増加に伴いゼロワン地域が解消されたこと、刑事国選事件や民事扶助事件への対応の充実が見られることについては、一定の評価がなされるべきである。
しかし、現在では、仮に弁護士過疎地が一部残っているとしても、過疎地開業支援等の施策により対処すべきであって、弁護士数の単純増により対処すべき性質のものではないし、新たな分野で弁護士が必要とされていく可能性が皆無でないとしても、不確かな憶測を含むものであって、現在のような急激な増員を要するほどの実例が存在しているとはいえないから、これらを理由に更に弁護士を増加させる必要性は見いだせない。
(3)弁護士数の過剰
かかる状況に鑑み、富山県議会、佐賀県議会をはじめ各地の地方議会が、弁護士数はすでに過剰であるとの認識を明示したうえ、法曹人口政策の早期見直しを求める内容の決議等をなしており、長野県議会においても、昨年、弁護士人口は飽和状態にあるとして同様の決議を行っているところである。
 弁護士が倍増しても訴訟や法律相談の件数が増えず、新たな分野で必要とされる実例も特段確認されていないということは、もともと社会は、これほどに多くの弁護士を必要としていなかったことに他ならない。
 平成14年の閣議決定以降の推移と現状を踏まえる限り、各地の地方議会が指摘するとおり、現在、弁護士は、利用者たる市民が必要とする数を明らかに超えて増え続けており、それによる弊害を直視した対応が検討されなければならないのである。
2 弁護士数の過剰により弊害が生じていること
(1)弁護士の使命の達成が危うくなること
弁護士は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)。しかしながら、弁護士数の過剰は、弁護士間の過当競争を招き、事務所経営や生活防衛のために目先の利潤を追求する傾向を強め、事件漁りや無用な訴訟への誘導、過度に高額な費用請求などが生じて市民が害される事態が危惧される。
また、弁護士には、その使命の達成のために職務の自由と独立が要請され、依頼者の「正当な利益」を実現すべきであるとされ、ときに依頼者に対しても公共的・公益的見地からの説得を試みる役割が期待される(弁護士職務基本規程第2条、第21条)。しかしながら、顧客獲得競争が激化して目先の利潤を追求する傾向が強まれば、昨今、恫喝や報復を目的として法外な請求を行なう「スラップ訴訟」の実例が報告されるように、依頼者の要求に無批判に迎合し、人権擁護や社会正義を無視した業務遂行を生みかねない。
そして、弁護士の使命を達成しようとすれば、国家権力から独立し、ときには対峙してでも市民の側に立つことを要することから、我が国では、弁護士の資格審査や懲戒を行政官庁等の監督に服させず弁護士の自律に委ねる弁護士自治が採用されている。しかしながら、弁護士業務が過度に商業化し、公共的・公益的性格が失われれば、「国家権力からの独立」は実際上の意義を失い、弁護士自治の存立基盤を危うくすること必至である。
かように、弁護士数過剰の状況は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命の達成を危うくし、我が国の弁護士制度を根底から揺るがしているのである。(2)若手弁護士の研鑽の機会が失われていること
弁護士数の過剰を背景として、弁護士登録後に勤務弁護士として研鑽を積むことを望みながら即独やノキ弁に甘んじ、十分なOJT(on the job training)の機会を得られない新人弁護士は後を絶たない。(新人弁護士の就職難の状況は、司法修習修了後の一括登録時点の未登録者割合に顕れると言われている。平成19年度には3.3%であったものが、平成22年度に11%、平成23年度に20.1%、平成24年度に26.3%、平成25年度に28%、平成26年度に27.9%となっている(いずれも現行司法試験合格者の数値)。) 法律専門家としての技能や倫理を会得する機会を十分に持たない弁護士が実務に当たれば、市民に深刻な影響を与えることが危惧されると言わざるを得ない。
(3)法曹志願者が激減していること
弁護士数の過剰を背景として、近年、法曹志願者は目に見えて激減している。法科大学院志願者は、以下のとおり、減少傾向が顕著である。大学受験生の法学部離れも顕著であり、法曹界が有為な人材を確保することは困難となっている。
さらに、現在では大半の法科大学院が深刻な定員割れを起こし、現行の法曹養成制度が掲げる育成機能の充実は期待しがたいうえに、法科大学院入学者数が司法試験合格者数に接近しつつあり、このような状況下で、後述の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめが示唆するように1500人以上の合格者数を墨守した場合、試験制度としての正常な選抜機能が働かない事態が危惧される。
年度 法科大学院全志願者数(延べ人数) 入学者数
平成16年度 72,800 5,767
平成19年度 45,207 5,713
平成22年度 24,014 4,122
平成25年度 13,924 2,698
平成27年度 10,370 2,201
平成28年度 8,278 1,857
平成29年度 8,159 1,704
 今後もかかる事態が続けば、裁判官、検察官、弁護士の平均的な質が、長期的かつ慢性的に低下していくことが憂慮されざるを得ないのである。法曹三者が、憲法をはじめとする法の運用、解釈を通じて、市民の人権を直接的に取り扱う職責を担っていることに鑑みれば、このような法曹三者の平均的な質の低下は、回避しなければならない。
(4)国家資格制度としての安定性・確実性を損なうこと
 そもそも我が国が弁護士について国家資格制度を採用するのは、市民の人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の重大な使命に鑑みて、高度な専門性や技術、見識を担保する必要があることによるものであり、利用者たる市民においては、必ずしも弁護士の技能や適性を十分に判断しえないことから、国家の責務としてその資格付与の条件を適切に整備し、誰もが安心して弁護士に相談・依頼できる状況を維持するためである。
 特段専門的な情報や判断力を持たない一般市民においても、安心して弁護士に相談、依頼できる資格制度を構築し維持することが重要であり、一般市民の権利利益の保護に資するものである。
ところが、弁護士急増政策は上記の各弊害を生み出し、市民が本来的に国家資格制度に求める安定性と確実性を損ねる事態を招いているのである。
 公認会計士についても、過剰な増員による弊害が生じ、国家資格の安定性・確実性が維持できない事態を招いたため、公認会計士試験の合格者数が政策的に減員されたとおり、国家資格の安定性等を合格者数の調整によって回復することは法曹界に特有の事態でもない。
3 当会が改めて総会決議を行なう理由
(1)平成22年度総会決議後の経緯
 当会は、平成22年11月20日の臨時総会において、「政府に対し、司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策について直ちに見直し、司法試験合格者数を段階的に削減し、弁護士人口が4万人に達した以降、これを維持するため、司法試験合格者数年間1000人程度とする法律制度の運用を求める」との総会決議をなした。
この決議は、当時すでに現われていた若手弁護士のOJT不足その他の弁護士急増の弊害を挙げたうえ、弁護士総数を約4万人で均衡させるべく、増員ペースの緩和を求めるものであった。
しかるに、政府は、平成25年7月、司法試験合格者数3000人を目指す方針は撤回したものの、平成27年6月30日の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめにおいて、「法曹人口は、全体として今後も増加させていくことが相当である」とし、司法試験合格者数について、今後も「1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきであるとした。
 政府はこのように、当会の平成22年総会決議後も弁護士の急増ペースを抜本的に見直すことをせず、その結果、弁護士数は3万9011人に増加している(本年5月1日現在)。
(2)弁護士数の将来予測
 平成28年度の司法試験合格者は1583人であったが、今後も同様に約1500人の合格者数を維持すれば、弁護士数は1、2年のうちに4万人を超え、平成55年には推計6万人を超える(弁護士白書2016年版)。そうなれば、我が国の人口減少傾向とあいまって、弁護士数の過剰による上記各弊害が一層拡大することは目に見えており、基本的人権の擁護や社会正義の実現という弁護士の使命は見失われ、弁護士業務への信頼は失墜し、弁護士自治を崩壊させていくおそれすらある。
司法試験合格者が本年度以降毎年1000人で推移するとしても、弁護士数は今後も増加し、平成53年におよそ4万9500人になると推計され、我が国の人口減少傾向を考慮すると、弁護士一人当たりの国民数は、現在より約1000人少ない約2100人となると推計されるものであるから(弁護士白書2016等に基づくシミュレーション)、本決議の趣旨が実現された場合、弁護士急増による弊害が緩和されこそすれ、市民にとって弁護士が不足するとの懸念は皆無である。
4 むすび
以上のとおり、我々弁護士が、基本的人権の擁護と社会正義の実現という本来の使命を果たし、弁護士資格制度の安定性と確実性を維持し、そして弁護士自治を維持して市民の権利利益を護り続けるためには、弁護士数が適正に維持されることが絶対不可欠である。我々弁護士が、国家権力から独立し、ときには対峙してでも、市民の側に立つべきその足場の崩壊を招くおそれある弁護士の過剰増員は、このような観点から改められなければならない。
したがって、平成29年度以降、司法試験の年間合格者を1000人以下とすべきである。
平成29年6月24日
長野県弁護士会総会

いわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法の成立に強く抗議し,その廃止を求める会長声明
いわゆる共謀罪法案(共謀罪の創設を含む組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)が,2017年6月15日,参議院本会議で可決され,成立した。当会は,これに強く抗議するとともに,成立した共謀罪を速やかに廃止することを求める。
我が国は,個人の尊厳を究極の価値として,基本的人権の尊重,国民主権(民主主義),恒久平和主義を基本的な原理とする日本国憲法を制定した。
 民主主義の健全な発展にとって,国家権力を監視し,その在り方を自由に批判することは必要不可欠な要素である。市民が自由に国家権力を批判するには,立憲主義や三権分立などの制度と並び,市民に対して思想・良心の自由や表現の自由,集会・結社の自由などの精神的自由権及びプライバシーの権利が保障されることが最低限の条件となる。
 今回成立した共謀罪は,日本国憲法が保障するこれらの重要な自由権を市民から奪うおそれがあり,市民活動に著しい萎縮効果を与え,民主主義の重大な脅威となる。当会は,そのことを危惧し,既に本年5月24日に会長談話を発表するなどし,強く訴えてきた。また,全国の弁護士会,数多くの学者や市民団体等が訴えてきたように,共謀罪は既遂の処罰を原則とする近代刑法の前提を大きく逸脱し,一般市民の内心の意思を処罰する監視社会を招来し,市民の日常生活を萎縮させる危険がある。すなわち,共謀罪が成立したことにより,捜査機関は共謀罪の捜査を名目に,実際に犯罪に着手して法益が侵害される遥か以前から捜査を行う根拠を獲得し,昨年12月1日から施行されている通信傍受の対象犯罪の拡大と相まって,電話,メール,SNSなど市民の日常生活をターゲットにした早い段階からの捜査を行うことが可能となった。さらに,司法取引制度が施行されれば,自己の処罰減免を得る目的で,他人との共謀を認める虚偽自白を誘発する危険性も高まるおそれがある。このような捜査権限の拡大により,市民の正当な政治活動や労働組合活動,その他の活動が萎縮し,ひいては捜査機関による監視対象となってプライバシーの権利が侵害されるという懸念から市民の日常生活までもが萎縮する,深刻な監視社会が到来する。
また,繰り返し指摘されてきたように,共謀罪の「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」などの規定は,文言上極めて曖昧であるがゆえ,権力により拡大解釈される危険性があり,市民の自由を保障するために処罰の範囲をあらかじめ明示する罪刑法定主義にも反するおそれの高いものである。
そして,政府が共謀罪を導入する目的として,国際組織犯罪防止条約の締結とテロ対策を掲げてきた。しかし,前者については,同条約の立法ガイドが,各締結国の国内法の基本原則に基づいて必要な措置を取ることを許容しており,立法裁量が広いことは明らかであり,同条約を締結するにあたって我が国が共謀罪を制定する必要はない。後者についても,国際組織犯罪防止条約の目的にテロ対策が含まれないことは,同条約に関する国連の立法ガイド26パラグラフが明確に規定し,同ガイドを作成した国際刑法の専門家であるニコス・パッサス教授もこのことを明言している。また,我が国では公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律によってテロ行為の計画段階は既に犯罪化されており,銃器や刃物の所持を規制する銃砲刀剣類等処罰法等の実体法が存在するだけでなく,13ものテロ防止に関連する条約を締結しており,テロ対策についてはすでに立法的な手当がなされていることから,テロ対策のために新たに共謀罪を制定する必要はない。
このように数多くの問題を抱えた共謀罪は,その問題点に関する疑問や市民が抱く不安を解消するために慎重に審議されなければならなかった。特に衆議院法務委員会で審議時間の形式的な経過後に強行採決されたことを踏まえ,良識の府たる参議院ではより一層慎重に審議しなければならなかった。しかし,参議院では,法務委員会における審議を合計18時間弱で打ち切り,6月15日未明の本会議において「中間報告」を行った上で,法務委員会の採決を行わず,本会議で強行採決に踏み切った。参議院でも市民から出された数多くの疑問が何一つ明らかにならないまま採決されたということに加え,かかる手続は,国会法56条の3において定められた中間報告を求める要件である「特に必要があるとき」(第1項),及び中間報告を受けての本会議での審議の要件である「特に緊急を要すると認めたとき」(第2項)のいずれの要件も満たさず,明らかに手続上の瑕疵がある。これは,二院制の存在意義を参議院が自ら踏みにじる行為である。
さらに,立法の必要性そのものに重大な疑いがあり,かつ立法過程において既に憲法上の問題点が指摘されている共謀罪について,市民に対する充分な説明がなされないまま,また付託した法務委員会の採決を経ることなく参議院本会議で強行採決するという強硬な手段により可決されたことは暴挙と言わざるを得ず,我が国の民主主義を制度面から支える議会制民主主義の否定である。
 以上のとおり,当会は,共謀罪法案が参議院本会議で可決され成立したことに強く抗議するとともに,今後も国会において共謀罪を速やかに廃止させるよう全力を挙げて取り組んでいく。
2017年(平成29)年6月26日
長野県弁護士会  会長  三 浦  守  孝

いわゆる共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに抗議する会長談話
いわゆる共謀罪法案が,2017年5月23日,衆議院本会議で可決された。当会は,これに強く抗議する。
 民主主義の健全な発展にとって,市民が国家権力を監視し自由に批判することは必要不可欠である。このように市民が自由に国家権力を批判することができるためには,立憲主義や三権分立などの制度と並び,国家からの自由たる思想・良心の自由や表現の自由などの精神的自由権が市民に対して保障されることが最低限の条件である。共謀罪は,日本国憲法が保障するこれらの重要な自由権を市民から奪うおそれがあり,市民に著しい萎縮効果を与えることになる。共謀罪は,民主主義に対する重大な脅威である。
 当会も繰り返し指摘してきたとおり,共謀罪法案は,既遂の処罰を原則とする近代刑法の前提を大きく逸脱するうえ,「組織的犯罪集団」「計画」「準備行為」などの規定の曖昧さは,市民の自由を保障するために処罰の範囲をあらかじめ明示する罪刑法定主義に反する。
 政府は,共謀罪を導入する目的として,2020年の東京オリンピックにおけるテロ対策と国連越境組織犯罪防止条約を批准するための国内法の整備の必要性を掲げている。
しかし,そもそも国連越境組織犯罪防止条約の目的は,マフィアや暴力団等が金銭的・物質的利益を得るために行うマネーロンダリング等の越境的組織犯罪の防止にある。同条約に関する国連の立法ガイド26パラグラフは,経済的な利益の獲得を目的としないテロリスト集団が,同条約の規制の対象となる組織的犯罪集団に該当しないことを明確に規定している。同条約がテロ対策を目的としていないことは,同ガイドを作成した国際刑法の専門家であるニコス・パッカス教授もこのことを明言している。今国会における審議過程も,憲政史上大きな禍根を残した。共謀罪法案は,前述のとおり,市民の精神的自由権を奪うおそれが強い以上,これらの疑問や市民が抱く不安を解消するために慎重に審議されなければならなかった。しかし,衆議院法務委員会における審議では,共謀罪法案を所管する法務大臣の答弁が二転三転し,これら数多くの疑問は何一つ明らかにされず,なお一層深まるばかりであった。それにもかかわらず,政府・与党は,自ら設定した審議時間である30時間を形式的に消化したとして採決に踏み切った。これでは,共謀罪法案の成否を決するに足る程度に審議が成熟したとは到底評価できない。
 以上のとおり,当会は,共謀罪法案が衆議院本会議で可決されたことに強く抗議するとともに,共謀罪法案を廃案とすることを求める。
2017年(平成29)年5月24日
長野県弁護士会 会長  三 浦  守  孝

法修習生に対して修習給付金を支給する制度創設にあたっての会長声明
2017年(平成29年)4月19日,司法修習生に対して修習給付金を支給する改正裁判所法(以下,本法という。)が成立した。これにより,2017年(平成29年)の司法修習生から基本給付金として月額13万5000円,さらに必要に応じて住居給付金(上限3万5000円)及び移転給付金が支給される見込みとなっている。  本来,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ市民の権利を実現する社会的インフラであり,これを担う法曹となる司法修習生は,公費をもって養成されるべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し,給与が支払われてきた(給費制)。
しかし,この給費制は,2011年(平成23年)に廃止され,司法修習のために必要な資金を貸与する制度に変更された。これ以後の司法修習生は,大学・法科大学院での奨学金債務に加えて,貸与金として数百万円の負債を負担せざるを得ない状況になるなど,重い経済的負担を強いられていた。近年,法曹を目指す者は激減しているが,こうした重い経済的負担がその一因となっていることが指摘されている。
 当会は,司法修習生の重い経済的負担を解消し,本来どおり法曹養成が公費により行われるよう,そして有為の人材が経済的な理由によって法曹となることを断念することがないよう,司法修習生への給費制復活のための活動を行ってきた。本法は,この活動の確かな前進として評価できるもので,当会は,本法の成立を歓迎する。なにより,この間,当会の活動に賛同しご尽力いただいた多くの国会議員や県議会議員,市民,諸団体の方々に対し,あらためて深く感謝申し上げる。
もっとも,本法によりすべての問題が解消されたわけではない。
 本法による給付金額は,司法修習のための資金として必ずしも十分ではなく,司法修習の意義・実態を踏まえて,その適正額についてさらなる検討が必要である。
さらに,より重要な問題は,本法は,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に司法修習生となった人らに対し何らの措置もなされていないということである。これらの司法修習生と,2010年(平成22年)以前に司法修習生となった人及び本法による給付を受ける司法修習生との間で,司法修習の意義・実態は何も異ならないにもかかわらず,受ける経済的支援だけが大きく異なり著しい不公平が生じることになる。
そして,2011年(平成23年)に司法修習生となり貸与金の支給を受けた人らは、早くも2018年(平成30年)7月から貸与金の返還を迫られ、経済的負担が顕在化することになるため,同世代への給費制に代わる是正措置の整備は早急に取り組むべき切迫した問題である。
よって,当会は,本法の成立をこれまでの活動の確かな前進として評価するとともに,今後も上記問題解消のため,引き続き活動に取り組む所存である。以上
2017年(平成29年)5月22日
長野県弁護士会  会長  三 浦 守 孝

70回目の憲法記念日に寄せる会長談話
1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今日、70回目の憲法記念日を迎えた。
 日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と国民主権を高らかに謳っている(前文第1項)。
そして、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と平和的生存権を謳い、恒久平和主義を宣言し(前文第2項)、戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定している(第9条)。
さらに、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。」(第11条)と基本的人権の尊重を保障する。
この70年間、私たちの社会や、わが国をとりまく国際情勢は大きく変わったが、国民は、一貫して日本国憲法を支持してきた。日本国憲法は、厳しい政治の現実にさらされながらも、国の最高法規として、強い規範力を発揮してきた。日本国憲法は、徹底した恒久平和主義に基づきわが国が一度も他国と戦火を交えることなく平和と繁栄を築き、国際社会で高い信頼を得るために、大きな役割を果たしてきた。
しかし、近年、日本国憲法をとりまく状況は大きく変わろうとしている。2013年(平成25年)12月、取材・報道の自由に委縮的効果をもたらし、国民の知る権利を侵害するおそれのある「特定秘密の保護に関する法律」が成立した。
 2015年(平成27年)9月には、日本国憲法の立憲主義や徹底した恒久平和主義に違反する集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊に対する後方支援を拡大し、自衛隊の海外における武器使用権限を拡大する、いわゆる安全保障関連法が制定された。
そして今、思想・良心の自由を侵害し、市民生活に深刻な影響を及ぼすおそれのある、「テロ等準備罪」いわゆる「共謀罪」を新設する法案が国会に提出された。
さらに今後、憲法改正が政治課題にのぼる可能性があり、「災害対策等を理由とする緊急事態条項」の創設や9条の改正も取りざたされている。
 日本国憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される」こと(第13条)を究極の価値としている。そのために、国家権力の行使は、憲法による統制の下におかれる(立憲主義)。私たちは、憲法の意義をあらためて認識するとともに、これらの動きがどのような国づくりを指向しているのか、その結果何がもたらされるのか、今一度考えなければならない。
 日本国憲法の掲げる国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重という基本理念は、時代を超えた普遍的な価値である。日本国憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定している。
 70回目の憲法記念日にあたり、日本国憲法に込められた崇高な理念とそれを守ってきた先人の努力に思いを致すとともに、これから私たちが未来にどのような社会を引き継ぐのか、深く考える機会としたい。
そして、私たち弁護士は、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする者として(弁護士法第1条第1項)、基本的人権が尊重され、法の支配が貫徹される社会を実現するため、法律制度の改善に一層の努力を続けていきたいと思う(弁護士法第1条第2項)。
2017(平成29)年5月3日
長野県弁護士会   会 長  三 浦 守 孝

信州大学大学院法曹法務研究科の閉校にあたっての会長談話
本日、信州大学大学院法曹法務研究科(以下、「信大ロースクール」という。)の閉校式が行われる。信大ロースクールは、平成17年4月に開校したが、当会は、「自らの後継者を自らの手によって育成し、地域の司法水準を向上させる」という地域司法充実の理念のもと、関係機関に対する働きかけや市民に対する大規模な署名活動を行うなど、その構想段階から主体的に設立運動を担った。また、当会は、信州大学との間で、平成16年6月30日に「信州大学大学院法曹法務研究科に関する協定」、平成19年3月7日に「ロークリニックに関する協定」を締結するとともに、当会内に法科大学院バックアップ委員会を設置し、多数の実務家教員の派遣や、模擬裁判への講師派遣、ロークリニック・事務所訪問の受け入れ、講演活動、課外指導等を継続的かつ積極的に行ってきた。
 派遣した実務家教員や、法科大学院バックアップ委員会に所属する若手会員らによる献身的な指導の甲斐もあって、信大ロースクールの修了生から、これまでに合計36名が司法試験に合格し、現在、その内の22名が当会に弁護士登録し(当会の会員の1割程度が信大ロースクールの出身者となる。)、地域に貢献する弁護士として活動している。
 自らの後継者を自らの手によって育成するという理念は、相当程度は達成することができたといえる。もっとも、地域の司法水準を向上させる活動に終わりはなく、法曹養成の地域の拠点である信大ロースクールがこの3月末日をもって閉校となることは、誠に残念というほかない。
 一方で、平成28年4月、信州大学には新たに経法学部が誕生し、同学部内に総合法律学科(学士課程)が新設された。長野県内において、法学分野の学士課程が設置されたのは、初めてのことである。当会の理念は、今後も息づいていく。
 当会と信州大学とは、平成28年2月24日付で「信州大学と長野県弁護士会との包括連携に関する協定」を締結している。当会は、今後も、法律系人材の育成や法的実務に関する研究へ寄与する等、地域司法の充実に資する活動に邁進する所存である。
平成29年3月27日
長野県弁護士会会長    柳  澤  修  嗣

いわゆる共謀罪法案を国会に提出することに反対する会長声明
1 2017年2月28日,政府が「テロ等準備罪」と名称を変更して第193国会(通常国会)に提出することを明言していた共謀罪法案(以下「新法案」という。)の内容が公表された。
 過去3回廃案となった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)と新法案の主な違いは,適用の対象を「組織的犯罪集団」としたこと,処罰の対象を「共謀」から「二人以上で計画した者」に変更し,処罰条件としてその計画をした者により「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」(以下「準備行為」という。)に処罰できるとしたこと,対象となる犯罪を676から277に減らしたことである。政府は,新法案の制定目的として,国連越境組織犯罪防止条約の締結と,旧法案を提案した際には挙げていなかったテロ対策を挙げている。
さらに,新法案の内容が公表された後,新法案に「テロ」の文言がないことを強く批判されたことを受け,同年3月7日,政府は「組織的犯罪集団」を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とする修正を行った。
当会は,それでもなお,新法案を本国会に提出することに強く反対する。
2 新法案は,旧法案と同じく,既遂の処罰が原則であり未遂と予備の処罰を例外とする近代刑法の前提を大きく逸脱し,一般市民の内心の意思を処罰する監視社会を招来し,市民の日常生活を萎縮させる危険がある。
(1)政府は,新法案の対象団体を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と限定したことにより,テロ対策という目的が明らかとなり一般市民は対象にならないと説明している。
しかし「組織的犯罪集団」という概念自体が極めて曖昧な概念であるうえ,その認定は捜査機関が行う以上,恣意的な運用の危険性を払拭できない。
また,「一定の犯罪目的を有する団体が組織的犯罪集団である」という構造上,犯罪目的の認定を先行しなければ団体性は認定できず,捜査機関によって犯罪目的を有する団体であると事後的に認定された人の集まりは全て「組織的犯罪集団」とされる余地がある。現に政府は,適法な目的で設立されていた団体が犯罪目的を有するに至った際は「組織的犯罪集団」となり得る,と明言してきた。「テロリズム集団」と明示した点も,「その他」という文言によって例示に過ぎないことになり,「その他」に該当するとして処罰範囲が拡大する余地は消えない。
このように「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」という文言は何ら処罰範囲の限定に役立たない。
(2)また,「計画」とは「犯罪の合意」に他ならないところ,合意は内心と区別がし難いので思想や良心の自由を侵害する危険性が高い。「計画」は共謀共同正犯理論における共謀と同じとされるので,概括的,黙示的,順次的な「計画」が認定されうる。合意の手段も限定しないとされることから,例えば市民に広く利用されているLINEなどのメッセージアプリによる「計画」の認定もあり得る。
(3)さらに、準備行為は予備罪等の準備行為とは異なるから,事実上無限定である。また処罰条件に過ぎない以上,準備行為が行われない時点で既に捜査の対象となる。これは,市民社会に対して著しい萎縮効果をもたらす。
(4)新法案において対象となる犯罪数は,昨年8月に報じられた「テロ等組織犯罪準備罪」の676から277にまで限定された。
しかし,政府の説明は破綻している。国連越境組織犯罪防止条約を締結するためには対象犯罪を限定することは不可能であるとこれまで政府が主張してきたことと矛盾するうえ,テロ対策と関係がある犯罪は277のうち110と4割にも満たず,児童福祉法における児童淫行罪,保険業法における株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為罪など,経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止を目的とする同条約やテロ対策とは何ら関係が見出せない犯罪も数多く含まれるからである。
そもそも,対象犯罪を限定したとしても,新法案が市民社会に与える影響が甚大であることに変わりはない。新法案の存在自体が,捜査機関により市民の内心に手を入れ,捜査・処罰する余地を生むことになるからである。
(5)以上のような問題点を抱える新法案が成立した場合,捜査機関は共謀罪の捜査を名目に犯罪が実際に着手され法益が侵害される遥か以前から捜査を行う根拠を獲得する。
2016年12月1日から施行されている通信傍受の対象犯罪の拡大と相まって,電話,メール,LINEなど市民の日常生活をターゲットにした早い段階からの捜査が行われることになる。さらに施行を控えている司法取引制度が施行されれば,共謀罪への引き込みの危険性も急激に拡大する。これらの結果もたらされるのは,国民の正当な政治活動や労働組合活動,その他の活動の萎縮であり,ひいては,捜査機関による監視対象となるかもしれないとの懸念による国民の日常生活の萎縮をもたらす深刻な監視社会の到来である。 我々は,日本の社会がそのような危険な社会に変貌してしまう危険を看過できない。3 当会も,マフィアや暴力団等による越境的組織犯罪を防止するために同条約を締結する必要性は認める。もっとも,同条約は経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止が目的であって,テロとは何ら関係がない。
政府は,同条約は参加罪か共謀罪のいずれかの制定を義務付けているとしている。しかし,同条約を締結するにあたり,共謀罪を制定する必要はない。同条約に関する国連の立法ガイド51パラグラフは,共謀罪や参加罪などの法的概念を持たない国においては,これらの概念を強制することなく,組織犯罪集団に対する実行的な措置をとることも条約上認められる,としているからである。
4 我が国は,航空機内の犯罪防止条約(東京条約),航空機不法奪取防止条約(ヘーグ条約),民間航空不法行為防止条約(モントリオール条約),国家代表等犯罪防止処罰条約,人質行為防止条約,核物質及び原子力施設の防護に関する条約,空港不法行為防止議定書,海洋航行不法行為防止条約,大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書,プラスチック爆弾探知条約,爆弾テロリズム防止条約,テロ資金供与防止条約,及び核テロリズム防止条約の合計13のテロ対策を目的とした条約を締結している。さらに,テロを防止するための法律も多数整備されているほか,テロリストの大多数が使用する銃や刃物は銃砲刀剣類所持等取締法や軽犯罪法により所持が禁じられている。これらの現行法によって,テロは未然に防止できる。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,テロ等準備罪を新設する必要はない。
なお,昨今世界各地で拡大しているテロの多くは国内出身者が国内で引き起こすという点でホームグロウンテロと呼ばれるが,その大多数は単独で行われる。共謀罪は単独犯に適用できない以上,このテロに対する抑止力になり得ない。
5 以上のとおり,当会は,新法案を本国会に提出することに強く反対する。
2017(平成29)年3月13日
長野県弁護士会 会長  柳  澤  修  嗣

司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明
1.日本弁護士連合会は,本年3月の臨時総会決議(以下,「日弁連臨時総会決議」という。)において,現行の法曹養成制度の下で,法曹志望者が毎年大幅な減少を続けており,こうした状況が続くなら我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし,平成27年度司法試験合格者数が1850人であった状況の中で,「まず,司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を,可及的速やかに実現すべき緊急の課題として,全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。
2.制度発足後,現実の法的需要を大幅に超える2000人前後の合格者(法曹有資格者)が毎年供給される反面,裁判所の新受件数に現れているとおり,法曹に対する従来型の需要は増加するどころか近年減少を続け,新しい活動領域の拡充も,供給の増加を吸収する規模には至らなかったため,有資格者の過剰供給の弊害は年々顕在化してきた。
 司法試験を合格し,司法修習を終了しても,法曹として就職・就業できない者が12月の一括登録時で400人を超え,その1ヶ月後でも200人を超えているという異常事態が,平成23年12月(一括登録時464人,1ヶ月後326人)から昨年(一括登録時468人,1ヶ月後225人)まで続いてきた。また,新人法曹が抱える貸与型奨学金や修習中の貸与資金は,利用者平均で350万円にのぼることも判明している。
こうした中で,法曹の魅力,司法試験の魅力は,年々確実かつ急速に失われてきた。その結果として,法科大学院適性試験の受験者数は,試験が開始された平成15年には5万4千人であったものが,昨年3621人,本年3286人にまで激減し,司法試験受験者も,平成16年には4万3千人であったものが,昨年は8016人となり,さらに本年は6899人にまで激減するに至っている。現状は,法曹志望者の減少傾向に歯止めが利かなくなっている状態にあり,政府の法曹養成制度検討会議が平成25年6月26日取りまとめで指摘した,「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機」は,現実化するに至っている。
 多様で有為な人材が法曹を志望せず,試験の選抜機能が働かず,就職環境や法曹に就いた後のOJTの環境も厳しいとなれば,新規法曹の質が低下することも必定である。
 日弁連臨時総会決議が,昨年の1850人の現状に対し,まず1500人へと合格者数を減員することを緊急課題としたのも,現行の法曹養成制度がこのような深刻な危機の状態にあるとの認識を反映したものである。
3.法務省は,本年9月に,本年度の司法試験合格者数は1583人であると発表した。数字だけを見ると,日弁連総会決議が緊急課題とした1500人への減員に結果として近づいたともいえる。しかし,昨年度も本年度も受験者数に対する合格者数の割合(合格率)は同一の23%であるから,本年度の合格者の減少は,昨年度と比べ法曹志望者が大幅に減少した結果もたらされたという見方をする意見もあり,政策的な減員がなされたか否か明らかでない状況にある。
 日弁連臨時総会決議は,「更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきもの」としているところ,現行の法曹養成制度は,法曹志望者の激減に合わせて,法科大学院適性試験や司法試験の受験者が上記の通り著しく激減した結果,制度の成熟の前提となる多様で有為な人材の確保そのものが危機に瀕する実態にある。また,現実の法的需要が,平成15年以降,倍近くに増えた法曹有資格者の過剰供給を吸収できる状態から程遠い実態にあり,そのことの弊害がますます顕在化していることも,すでに明瞭である。
この間に,法曹有資格者が,既に何年にもわたり,登録年度ごとに供給過多が発生し,そのもとで法曹界に様々な困難が積み重なっていることを考慮すれば,政府が,次年度以降に向け,さらに大幅な減員を行う方針を速やかに採用しなければ,供給過剰による弊害の進行を食い止めることはできず,社会に法曹界の魅力ある将来像を提示することは困難となり,結果として人材の法曹離れの傾向を止めることもおぼつかず,さらに法曹養成制度の危機を深めるという悪循環が繰り返されることになる。
4.法曹は司法を担う人的基盤であって,司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。いま,供給過剰による弊害の進行を食い止め,法曹を目指すことの魅力を保持することは,司法制度存立の基礎を維持するために不可欠な事柄である。
そこで,われわれは,共同で,政府に対し,次年度以降の司法試験合格者数を,さらに大幅に減員する方針を,速やかに採用することを強く求めるものである。以 上
2016年(平成28年)12月27日
埼玉弁護士会  会長  福  地  輝  久
千葉県弁護士会 会長  山  村  清  治
栃木県弁護士会 会長  室  井  淳  男
群馬弁護士会  会長  小 此 木     清
山梨県弁護士会 会長  松  本  成  輔
長野県弁護士会 会長  柳  澤  修  嗣
兵庫県弁護士会 会長  米  田  耕  士
三重弁護士会  会長  内  田  典  夫
富山県弁護士会 会長  山  本  一  三
山口県弁護士会 会長  中  村  友 次 郎
大分県弁護士会 会長  須  賀  陽  二
仙台弁護士会  会長  小 野 寺  友  宏
福島県弁護士会 会長  新  開  文  雄
山形県弁護士会 会長  山  川     孝
秋田弁護士会  会長  外  山  奈 央 子
青森県弁護士会 会長  竹  本  真  紀
札幌弁護士会  会長  愛  須  一  史

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長談話
平成28年12月8日
長野県弁護士会  会長 柳 澤 修 嗣

当会は,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」,以下「本法案」という。)に対して,反対の立場を表明し,同法案の廃案を求める。
 本法案は,カジノ施設を含む特定複合観光施設が,「観光及び地域経済の発展に寄与するとともに,財政の改善に資するものである」として,かかる施設の推進を「総合的かつ集中的に行うことを目的」とし(第1条),一定の条件のもと民間業者がその設置運営をすることを認めるというものである。
 本法案については,平成26年11月の衆議院解散で一旦廃案となったが,平成27年4月に再提出され,本年12月2日に衆議院内閣委員会において採決され,同月6日の衆議院本会議で可決され,自民党は今国会での成立を目指しているとのことである。
 当会は,既に平成26年11月8日付で会長声明を出し,カジノ解禁によるギャンブル依存症及び多重債務問題の悪化,暴力団の資金源となるおそれ,青少年への悪影響等が懸念されることから,本法案に強く反対し,廃案を求めていたところである。しかしながら,今回,前記各弊害に関する十分な議論がなされないまま,拙速に本法案を通過させようとしている。
よって,当会は,本法案の成立に改めて強く反対し,廃案にすることを求める。

長野県子どもを性被害から守るための条例の処罰規定について慎重な運用を求める会長声明
1 本年7月1日,県議会において,長野県子どもを性被害から守るための条例(以下,「条例」という。)が可決成立し,同日,規制項目(第17条から20条まで)以外の規定が施行された。そして,本日,処罰規定を含む規制項目が施行された。
2 子どもを性被害から守ることは重要かつ喫緊の課題であり,条例が,県全体で総合的・恒久的に取り組んでいくことを宣言し,具体的な施策を根拠付け,推進していることは評価できる。
 特に,性教育の重要性は各方面から指摘されてきたところ,条例にこれが明示された意義は大きいと考える。学習指導要領の制約を超えて,子どもにとって真に必要な性教育,人権教育,情報モラル教育を徹底すべきである。
また,被害者支援の取り組みについても,県が本年7月27日開設した「性暴力被害者支援センター(りんどうハートながの)」を,子どもの救済という観点から実効的なものにしなくてはならない。同センターは,大人と子どもの区別なく性被害者を対象にしているが,子どもの特性への配慮は不可欠であり,この点についての更なる検討を求める。
その他,相談窓口の充実,県民運動・啓蒙活動の推進についても,これまでの活動を踏まえつつ,新たな施策を策定し,早急に取り組みを開始すべきである。
3 他方,処罰規定については,これまで当会がその問題性を繰り返し指摘してきたところであるが(平成25年7月16日付「淫行処罰条例の制定に反対する会長声明」,同年12月14日付「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」,平成28年2月6日付「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」,同年6月28日付「子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話」),問題性が解消されたとはいえず,また,それを正面から捉えた議論が十分に尽くされたとも言い難い状況のまま,条例に規定され,本日施行日を迎えた。
4 最も懸念される問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できるのかという点である。これができなければ,処罰範囲は不当に拡大し,また,子どもの恋愛は過度に制約され,萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定は,真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)の線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるといった事態が懸念される。
5 深夜外出の規制についても,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。これも,子どもの真摯な恋愛を除外せず,子どもの自由を過度に制約するものであり,問題である。
6 捜査機関は,処罰規定のこうした問題性を十分に認識し,運用に際しては,子どもの真摯な恋愛関係に介入したり,子どもの自由を過度に制約することのないよう,特に慎重を期すべきである。
7 また,処罰規定の運用を検証する仕組みが不可欠である。個人の名誉やプライバシーに関わる情報を扱うことから,非公開の第三者機関を設置し,起訴不起訴に関わらず,本処罰規定違反の容疑で捜査権を行使した全ての事案について,その内容に踏み込んで,処罰規定の濫用がないかをチェックすべきである。 8 条例により,長野県は,子どもの性被害の根絶へ向けて新たな一歩を踏み出した。これをスタートラインとして,種々の実効的な施策が速やかに策定され,各所で具体的な取り組みが始まることを切に期待する。 それとともに,処罰規定が子どもの真摯な恋愛への介入に繋がらないよう,捜査機関に対し,その慎重な運用を強く求める。また,県に対し,処罰規定の運用を十分に検証するための仕組みを整備するよう求める。 平成28年11月1日
長野県弁護士会 会長  柳 澤 修 嗣

いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明
~内心を広範に処罰し,監視社会を招く共謀罪に断固反対する~
1 政府は,過去に3回廃案になった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)に関し,テロ対策の必要性
新たな提出理由に加え,「共謀罪」という名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した組織犯罪処罰法改正案を今後の国会に提出する方針であると報じられている(以下「提出予定新法案」という。)。
2 提出予定新法案における旧法案からの主な変更点は,以下のとおりである。
(1)適用の対象について,旧法案が「団体」としていたものを,「組織的犯罪集団」とした。
(2)処罰の対象については,旧法案が単に「共謀」としていたものを「二人以上で計画した者」に変更し,かつその計画をした者が「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を追加した。3 政府は,これらの変更点につき旧法案に対する批判に配慮したものであるとしている。
しかし,提出予定新法案は,行為を処罰し,思想や内心の意思を処罰しないという近代刑法の基本原則に反するとして廃案になった旧法案とその本質において全く異ならない。
(1)提出予定新法案の「計画」とは「犯罪の合意」であるから,従来の「共謀」と事実上同じである。
新たに追加された「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」によっても,何ら処罰の対象行為は限定されない。この「準備行為」は,現行法上の予備罪の予備のようにそれ自体が一定の危険性を備えている必要はなく,犯罪の成立要件の限定としてはほとんど無意味である。例えば,預貯金口座から生活資金を引き出す行為も,捜査機関によって犯罪実行に向けた資金の準備行為と認定されれば立件されうることになる。
このように,内心の意思が処罰されるという点で旧法案と全く違いはない。
(2)「組織的犯罪集団」も極めて曖昧な概念であるうえ,捜査機関が認定し立件することになるため,捜査の対象となる団体が際限なく拡大される危険性は払拭できず,単なる「団体」を処罰するとした旧法案と変わりがない。
(3)対象となる犯罪も,政府はテロ対策を理由とした上で,旧法案と同じく長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪等としているため,600を超える。その結果,偽証罪(刑法第169条),虚偽通訳罪(同法第171条),虚偽告訴罪(同法第172条),賭博場開帳等図利罪(同法第186条第2項),背任罪(同法第247条),貸金業法における無登録営業の罪(貸金業法第47条)など,テロ対策とはおよそ無関係と考えられる罪の共謀までも処罰の対象となる。
4 通信傍受制度の対象犯罪の拡大が2016年12月までに施行されることにより,捜査機関が「計画」つまり「共謀」を捜査対象とする環境は既に整っている。
 多くの問題点を含む共謀罪が新設されれば,捜査機関によってテロ対策の名の下に電話やメールなど市民の会話が監視され,思想信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由など憲法上の基本的人権が脅かされることになる。自由主義社会の基盤となる自由な表現活動が委縮し,市民社会の在り方が大幅に変容する可能性が高い。
5 政府が挙げていた旧法案の主な提出理由は,マフィア等の越境的組織犯罪の抑止を目的とする国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「条約」という。)批准のために必要というものであり,テロ対策は挙げられていなかった。条約は経済的な組織犯罪を対象とするものであり,テロ対策や東京オリンピック開催とは本来無関係である。
 我が国には,重大な犯罪については既に60を超える陰謀罪及び共謀罪並びに予備罪・準備罪などが規定されているほか,共謀共同正犯理論もある。テロ組織等の組織犯罪集団が行う犯罪行為の大多数は銃器や刀剣など武器の事前準備を伴うことが想定されるが,それらの犯罪行為は,銃砲刀剣類所持等取締法によって未遂以前に取り締まることが可能である。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,共謀罪を新設する必要はない。
6 よって,当会は,共謀罪を内容とする提出予定新法案の提出に強く反対する。
2016(平成28)年10月3日
長野県弁護士会 会長  柳  澤  修  嗣

子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話
1 現在,長野県議会6月定例会において,子どもを性被害から守るための条例案(以下,「条例案」という。)が審議されている。
条例案は,平成27年9月の「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書」(以下,「条例モデル報告書)という。)の内容に沿ったものである。県は,同報告書を受けて,本年2月1日に条例制定の基本方針を明らかにし,同月12日に骨子案を,本月10日に条例案の骨子と概要をそれぞれ公表し,16日開会の6月定例会に条例案を提出した。
2 当会は,本年2月6日に「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」を発し,県に対し,規制項目については慎重な検討を求めつつ,子どもを性被害から守るための教育,被害者支援その他の施策については条例を制定して積極的に推進することを求めたところである。
 同声明で指摘したところは,条例案にもそのまま当てはまる。特に規制項目の問題性については,その後十分な議論が尽くされたかは疑問であり,県議会に対しては,慎重な検討を強く要望する。
3 条例案の骨子「7 子どもの性被害に関する行為の規制」(規制項目)についての問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できているのか,という点にある。これができていなければ,子どもの恋愛は過度に制約され,また萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定について,県は,あくまでも「威迫」「欺罔」「困惑」という要件の有無が判断されるのであって,真摯な恋愛の有無を問うものではないと説明する。
しかし,真摯な恋愛においても,見方によっては「威迫」「欺罔」「困惑」と捉えられるような行為が伴いうる。すなわち,そのような行為が真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)という評価がどうしても求められるところであって,その線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるおそれが類型的に高いのである。
4 深夜外出の規制についても,例えば,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。すなわち,17歳と18歳が真摯な交際をしているが,親が交際に反対している場合,この2人が深夜に外出するだけで,18歳が処罰される。これも,子どもの真摯な恋愛を除外できておらず,子どもの自由が過度に制約されているとみるべき問題である。
5 規制項目のうち,特に上記の罰則を伴う規制については,これらの懸念を正面から取り上げ,それをどのようにクリアするのか,できるのかといった議論が不可欠である。その際には,当事者である子どもの意見も十分に聴取して行われるべきである。
6 条例案は,長野県として,子どもを性被害から守るための総合的で恒常的な取り組みを宣言するものであり,上記規制項目を除いては,積極的に評価しうるものである。
そのような取り組みを一刻も早く開始すべく,上記規制項目については適宜の修正削除のうえ,条例としては早期に成立させて,前進すべきである。
平成28年6月28日
長野県弁護士会  会長  柳 澤 修 嗣

ヘイトスピーチ対策法律案に関する会長声明
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」に関する会長声明
平成28年5月23日 長野県弁護士会 会 長  柳 澤 修 嗣
1 我が国では,近年,日本国内に居住する外国籍の人々や外国にルーツを持つ日本人等に対するヘイトスピーチ等の深刻な人種差別が横行しており,これらの行為に対する抜本的な対策が求められている。
このような観点から,平成28年5月13日に参議院で可決され衆議院に送付された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」(以下,「本法案」という。)は,人種差別全般を対象としておらず,「不当な差別的言動」(第1条),いわゆるヘイトスピーチに対象を限定している点で充分とはいえないものの,国会がそれらの「不当な差別的言動の解消が喫緊の課題である」(第1条)との問題意識を有し,その対策に乗り出したこと自体は大いに評価する。
2 一方で,本法案には,規制の対象となる「不当な差別的言動」を,専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身者である者又はその子孫であって,かつ「適法に居住するもの」(第2条,以下「適法居住要件」という。)に対する言動に限定しているという問題がある。
3 すなわち,すべての人間は生まれながらにして自由であり,かつ,尊厳と権利において平等であり,いかなる事由による差別をも受けることなく,所定の権利及び自由を受ける権利を有する(世界人権宣言第1条,第2条)。ヘイトスピーチ等の人種差別は誰に対しても許されず,在留資格の有無でその結論が異なるわけではない。
4 「適法居住要件」を定めることになれば,ヘイトスピーチを行おうと意図する者に対し「在留資格を有しない外国籍の人々や難民申請者に対するヘイトスピーチは許される」といった誤ったメッセージを送ることになりかねない。そうなれば,これらの人々に対するヘイトスピーチが増加することはおろか,かえって「不当な差別的言動」そのものの増加を招くおそれすらある。
 我が国も加入している「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(以下,「人種差別撤廃条約」という。)の解釈基準である「市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30」が,「人種差別に対する立法上の保障が,出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されること,及び立法の実施が市民でない者に対する差別的な効果を持つことがないよう確保すること。」と規定していることを踏まえれば,在留資格のない者に対する人種差別も対象とするべきである。
5 野党側は,不法滞在者に対する差別を助長するおそれがあるとして適法居住要件の削除を求めてきたが,与野党は,同年4月27日,「第2条が規定する『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば,いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり,本法の趣旨,日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に鑑み,適切に対処する」との文言等を附帯決議に盛り込むことで合意し,同年5月13日,参議院本会議で可決され衆議院に送付された。
しかし,附帯決議には法的拘束力がない以上,不十分であり,目的達成のためには端的に「適法居住要件」を削除した上で本法案を成立させるべきである。
6 よって,当会は,本法案から「適法居住要件」を削除した上での今国会での成立を求める。 以 上

69回目の憲法記念日に寄せる会長談話
2016年(平成28年)5月3日
長野県弁護士会 会 長 柳 澤 修 嗣

昭和22年5月3日に施行された日本国憲法は、今年、69回目の憲法記念日を迎えた。日本国憲法は、わが国が平和的に繁栄し、国際社会から高い信頼を得るのに重要な役割を果たしてきた。しかし、今、日本国憲法は、大きな試練にさらされている。
 昨年9月19日、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(いわゆる「安全保障関連法」)が成立し、本年3月29日から施行された。安全保障関連法は、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊に対する後方支援を拡大し、自衛隊の海外における武器使用権限を拡大するものである。安全保障関連法は、憲法の定める恒久平和主義に反し、違憲無効である。さらに、安全保障関連法の審議に先立ち、閣議決定により憲法9条の解釈を変更し、国会においても、十分な審議を尽くすことのないまま、多くの国民が反対する中で、拙速にこの法律を成立させたことは、立憲主義に反するものであって、政府の姿勢は、まさに憲法を蹂躙するものである。当会は、安全保障関連法の運用・適用に反対し、その廃止を強く求めるものである。
さらに最近、政府関係者からは、緊急事態条項や憲法9条の改正に向けた発言もなされ、今や、憲法改正が、政治課題にのぼろうとしている。
 先の大戦により、わが国は、国民が存亡の危機に陥った。国土は焦土と化し、310万人を超える国民が犠牲になった。戦争の生々しい傷跡が残る中で制定された日本国憲法は、「日本国民は、・・われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言した(憲法前文)。戦後、70余年を経て、戦争を経験した世代は少なくなり、またわが国をとりまく国際情勢も変化しているが、私たちは、憲法に込められたこの崇高な理想を心に刻む必要がある。
さらに、憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定している(憲法13条)。私たちが、自分の信ずるところにしたがい、豊かで幸福な人生を全うするためには、私たち一人ひとりが個人として、最大限尊重されなければならない。
 立憲主義は、人類が多くの過ちを繰り返し、苦難の歴史を経た結果、確立した近代憲法の基本理念である。憲法は、国家権力のあり方を規定するものであり、そのあり方を決めるのは、主権者である私たち国民である。私たちは、歴史を知り、わが国を取り巻く情勢を正確な情報に基づき冷静に分析し、そして、どのような国を目指すのか深く考えなければならない。憲法に何を託すのか、問われているのは、私たち自身である。
 本日の憲法記念日を、憲法の意義について改めて認識するとともに、これからの国のあり方を考える機会としたい。
また、憲法が施行された翌々年(昭和24年)に制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定し(第1条第1項)、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と規定している(同条第2項)。私たち弁護士は、憲法から負託されたこの使命を改めて自覚し、その職責を果たすため、誠実に努力しなければならない。
 言うまでもなく戦争は、国民の尊い命を危険にさらし、その生存を脅かすものであり、最大の人権侵害である。当会は、弁護士の使命を果たすため、これからも日本国憲法の基本理念を堅持し、戦争のない平和な社会を守るための取組に全力を尽くす所存である。 以 上

熊本地震に関する会長談話
去る4月14日及び同日以降に発生した熊本地震におきまして、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様方、そのご家族の方々に心よりお見舞いを申し上げます。
この度の地震は、前震が最大震度7・マグニチュード6.5、本震が最大震度7・マグニチュード7.3という規模を記録し、その後も大規模な余震が多発しており、家屋の倒壊等により多数の死傷者が発生し、今なお大勢の方々が避難生活を余儀なくされている状況にあります。
 日本弁護士連合会は、地震発生日である4月14日に緊急対策本部を立ち上げ、過去の震災における支援活動で培ってきた経験を活かし、熊本県弁護士会、九州弁護士会連合会及び各地の弁護士会、さらには自治体や日本司法支援センターなど関係諸機関と連携し、被災された方々の支援に全力で取り組んでいく旨の方針を表明しました。
 長野県弁護士会としては、既に、会員に対して「熊本地震に係る義援金」を募集する等の活動を開始しておりますが、今後も、日本弁護士連合会や各地の弁護士会と連携して、被災地への法的支援と被災された皆様方の権利回復のために、できる限りの支援をしていく所存です。
 被災者の皆様の生活再建をはじめとする被災地の復旧が、一日も早く叶いますよう、心よりお祈り申し上げます。
2016年(平成28年)4月28日
長野県弁護士会 会長  柳  澤  修  嗣

労働審判の実施支部拡大に関する会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
1 最高裁判所は、平成28年1月15日に行われた日本弁護士連合会との間の民事司法改革に関する協議会において、平成29年4月から長野地方裁判所松本支部、静岡地方裁判所浜松支部及び広島地方裁判所福山支部の3支部において労働審判の取扱いを開始すべく準備を開始すること等を明らかにした。
2 労働審判は、個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を、原則3回の手続において、迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的として、平成18年から導入された制度であったが、これまでは各地方裁判所の本庁のほか、支部では東京地方裁判所立川支部及び福岡地方裁判所小倉支部において実施されるのみであった。
3 この間、当会は、平成24年6月23日の総会において「地域司法の充実を求める総会決議」を行い、長野地方裁判所各支部において労働審判手続の取扱いを可能とすること、とりわけ長野地方裁判所松本支部においては、早急に労働審判手続の取扱いを開始することを求めてきた。また、長野県議会においても平成24年11月30日「長野地方裁判所各支部における労働審判事件の取扱いの開始を求める意見書」が採択されたほか、平成26年7月までに、松本市議会を含む47の中南信地域の全ての市町村議会(一部広域連合議会を含む)において、同趣旨の意見書・請願が採択されている。国民に対する司法サービスの提供は、地域間で格差があってはならないのであり、身近で利用しやすい司法の基盤整備の観点からは、支部において労働審判を実施する必要性は明らかであった。
4 この度、最高裁判所が、長野地方裁判所松本支部を含む3支部で新たに労働審判の取扱いを開始する準備を開始したことは、身近で利用しやすい司法の実現に沿うものであり、歓迎するものである。当会としても、長野地方裁判所松本支部において、平成29年4月から労働審判が円滑に実施することが可能となるように協力する所存である。
5 しかしながら、本来、個々の労働者と事業主との間に生じる民事に関する紛争は、全ての支部管内において生じるものであり、その解決に当たっては、身近な裁判所支部において解決すべきものである。今回、労働審判の実施予定支部として長野地方裁判所松本支部を含む3支部が追加されたが、全国的にも労働審判を扱える支部は、従前から労働審判を扱っている2支部と合わせてもわずか5支部にすぎない。長野地方裁判所には、松本支部のほかに、上田支部、佐久支部、諏訪支部、伊那支部及び飯田支部があるが、これらの支部において、労働審判が実施される目処は立っていない。
6 よって、当会は、地域における司法制度が「真の意味で住民にとってより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」となるように、労働審判の実施支部のさらなる拡大を求めるものである。以 上

子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明
1 県は、平成25年5月に「子どもを性被害等から守る専門委員会」を設置して、子どもを性被害から守る施策の検討を始め、平成26年3月同専門委員会による報告書の提出、同年8月長野県青少年育成県民会議による報告書の提出を経て、同年11月「子どもを性被害から守るための県の取り組み」をとりまとめた。そして、条例制定の是非について建設的な議論をする材料としての条例のモデルを作成するとして、平成27年2月「子どもを性被害から守るための条例のモデル検討会」を設置し、以後6回の会議を経て、同年9月同検討会より「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書」(以下、「条例モデル報告書」という。)が提出された。これをもとに、県は、各地で県民や関係団体との意見交換を実施し、本月1日条例モデル報告書に基づく条例の制定が必要との基本的方針を示した。
2 子どもを性被害から守ることの必要性、重要性については論を俟たない。性被害は子どもの尊厳を傷つけ、その健全な成長発達を著しく阻害するものであり、子どもが誰一人として性被害に苦しむことのないよう全ての大人が全力で取り組むべきことに異論はないと思われる。
 昨今のインターネットの進展により、子どもは親を始めとした周囲の大人の目の届かないところで外の世界と繋がることが容易になった。様々な情報に触れ、世界が格段に広がることが子どもの成長発達に資する側面がある一方、悪意を持った大人と直接繋がってしまう危険を孕んでいる。
 性被害という結果の深刻さと現代の子どもを巡る社会環境を考えると、子どもを性被害から守る取り組みは急務であり、県下一丸となって必要十分な施策を実施していくことが求められる。
3 その意味で、県が子どもを性被害から守るために種々の施策を検討し、その条例化を模索していること自体は評価に値するものである。
 予防の観点で最も重要なのは、子どもに対する性教育、情報リテラシー教育である。ここでいう性教育とは、子どもの性的な自己決定の力を育むための教育と捉えるべきである。その内容は、人間の体や性のしくみを科学的に理解することにとどまらず、性が人間の営みの根源であり人間の存立にとっていかに重要であるかを知り、自己や他者の性、生命を大切にする気持ちを育むこと、性犯罪や性産業、インターネットの世界の実態など性をめぐる社会的事象について考え学ぶことをも含むものである。また、性は相手の存在を前提とするものであるから、相手との関係を形成する力も必要である。相手に対して自分の思いを伝え、相手の思いを受け止めて自分の考えや行動を変えること、相手と対等の立場で、受け入れるか断るかを主体的に判断できることも必要である。その前提には、子ども自身に十分な自尊感情や自己肯定感が備わっていなくてはならない。
 平成27年3月26日付で長野県警察本部が発表した「平成25年・26年中における17事例説明資料」(現行法で対処できなかったとされる性被害の事例。以下、「17事例」という。)には、このような教育が明らかに不足している子どもの現状が浮き彫りにされている。SNS越しの相談相手が、もしかしたら自分が想定している人格とはまったく異なる人格であるかもしれないという可能性に思い至らない。そのような相手と2人だけで会い、密室という状況下に身を置くことについて事前にその危険性を感じとることもない。性的な誘いに対して、家に帰れないとか相談相手を失うといった理由で、安易に応じてしまう。あまりに無防備で、流されやすく、性の大切さに無頓着な子どもの姿がそこにある。このような子どもが現実社会で生きていくための成長発達を遂げるためには、前述の性教育や情報教育が不可欠である。
もちろん、能力等で教育の効果が発揮されない子どもや、家庭環境等教育とは別の問題を抱える子どもがいる。教育により全てが解決するというわけではない。
しかし、前者については、子どもの特性に応じたきめ細やかな教育を施すことは可能である。また、後者についても、教育の必要性自体を否定するものではない。この点、17事例の多くについて、その背景には、子どもを取り巻く環境にも問題があるように見受けられる。適切な居場所や相談相手がおらず、周囲の大人によるサポートが欠如している。突き詰めれば、周囲の大人が、子どもの主体性を認めその成長発達を支援し見守っていくという子ども観に立っていないことが原因と考えられるところであり、そのような大人の意識改革が本来的には必要というべきである。子どもに対しては、このような子ども観に立ち、子どもが主体的に性的自己決定をできるようその力を育む教育を十分に施すべきであり、それこそが大人の責務である。
このような教育は、子ども自身が性被害に遭わないためだけでなく、将来、加害者にならないためにも重要である。加害者に対する罰則を設けるということは、表面的な効果はあるのかもしれないが、加害者自身の性に対する考え方が変わらない限り、被害はなかなか減らないと考える。子どもは将来の大人である。現在問題とされている性被害の予防には、このような教育こそが最も効果的な方策であると考える。
 現状行われている性教育は、上記の意味で内容的に不十分であり、また、発達段階のより早い時期からなされる必要がある。例えば、CAP教育は、自己肯定感を高める効果があり、かつ生きた人権教育でもあり、性的自己決定力を育む上でも極めて有効である。
 県は、このような教育を小学生以上の全ての子どもに向けて実施するよう働きかけるなど、より踏み込んだ施策を講じるべきである。県は、条例の規定として、以上述べてきた性教育・情報教育の必要性を明示し、具体的な内容を掲げ、その実施を宣言するべきである。
4 被害者支援(ケア)も極めて重要である。
子どもを性被害等から守る専門委員会の第5回会議において、過去に性被害に遭った女性は、周囲の大人の無理解もあり、長年苦しんできた心情を吐露した。周囲の大人が当時この女性に対して適切な支援をしていれば、現在の心境も違ったのではないかと考えられるところである。
 性被害に遭った子どもに対しては、あらゆる側面から支援が必要である。県が現在検討している性被害者のためのワンストップ支援センターを実効性あるものにしなくてはならない。また、司法面接の手法を導入するなど、二次被害の防止に努めることも重要である。
5 他方、規制項目のうち、威迫等による性行為等の禁止として罰則を制定することについては、相当慎重な検討を要する問題であり、安易に賛成できない。
 当会は、平成25年7月16日に「淫行処罰条例の制定に反対する会長声明」を、同年12月14日に「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」をそれぞれ発出し、安易な刑罰法規の制定に警鐘を鳴らしてきた。
 条例モデル報告書に明記されている処罰規定「何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならない」(罰則2年以上の懲役又は100万円以下の罰金)は、従来の淫行概念を排除した限定的な規定であり、その問題性は相当程度払拭されている。
しかしながら、捜査機関が真摯な恋愛感情による行為か否かの判断を行うことには変わりなく、捜査機関がそれを適切に行うことができるのかは疑問であり、過度に広汎な規制につながるおそれを否定できない。特に「困惑に乗じて」という類型については、行為者に積極的な働きかけの言動がなくても、被害者の「困っていた」という申告だけで処罰の対象とされる可能性がある。
 性や恋愛は人間の根源的な営みであり、その有り様は人それぞれであって、個人の高度なプライバシーに属し、その選択と自己決定に任されるべきものである。そこに踏み込むおそれのある刑事罰であることに鑑み、謙抑性を重視し、必要性及び相当性の判断は厳格になされなければならない。
また、現在、法制審議会の刑事法(性犯罪関係)部会において性犯罪に係る刑法改正の議論がなされており、その中で、地位・関係性を利用した性的行為に対する罪の新設等が検討されている。これにより、例えば知的障害を有する子どもの監護者による性被害に対する処罰はカバーされる可能性がある。本処罰規定の必要性に関わる議論であり、この議論の経過も踏まえる必要がある。
 子どもを性被害から守るための条例に淫行処罰規定を盛り込むべきかどうかについては、賛否両論がある。県は、拙速にならず、相当に慎重な検討のうえ、県民全体の十分な議論を経て、その是非を判断するべきである。
6 深夜外出の制限については、保護者の委託等正当な理由なく深夜に子どもを連れ出す等の行為を禁止することの必要性は理解しうる。
しかし、それ以外の規定は、子どもが深夜に外出することそれ自体を原則として認めないという前提に立つものであり、子どもの行動の自由に対する制約の度合いが大きい。当該子どもの帰宅できない事情を一切考慮することなく、一律に帰宅を促すというのも問題である。これらについても、慎重な検討が必要である。 7 その他、条例モデルに示された相談体制の充実、保護者を含む大人に対する啓発活動、人材育成の取組に対する支援は、いずれも重要な取り組みであり、着実に実施される必要がある。また、県民運動の活性化の方策も欠かすことはできない。
これらの諸施策及び子どもに対する教育、被害者支援については、施策の継続性を確保するという観点から、全てを条例化すべきである。間違っても、規制項目のみを条例化して終わりということはあってはならない。
8 以上のとおり、当会は、県に対し、規制項目については慎重な検討を求めつつ、子どもを性被害から守るための教育、被害者支援その他の施策については条例を制定して積極的に推進することを求める。
平成28年2月6日
長野県弁護士会 会長  髙 橋 聖 明

夫婦同氏の強制及び再婚禁止期間についての最高裁判所大法廷判決を受け,民法の差別的規定の早期改正等を求める会長声明
2016年(平成28年)2月6日
長野県弁護士会  会 長  髙 橋 聖 明

1 最高裁判所大法廷は,平成27年12月16日,女性のみに6ヶ月間の再婚禁止期間を定める民法第733条について,「100日超過部分」は「過剰な制約」として憲法に違反している旨判示する一方,夫婦同氏を強制する民法第750条については同制度が合理性を欠くとは認められないとして憲法に違反しないとの判断を下した。
2 当会は,これまで平成22年4月30日付「民法(家族法)の早期改正を求める会長声明」において表明し,上記両規定の改正を求めてきた。この度の民法第733条違憲判決は,当会の主張に沿うものであり,その限りで妥当なものと評価することができる。しかしながら,下記の通り,100日以内を合憲とした点は,依然合理的な制約とは言えず反対である。また,夫婦同氏制を規定する民法第750条につき合理性を欠くとは言えず合憲とした点も,合理的な理由によるものとは評価できず,反対である。

(1)民法第733条につき,多数意見は,婚姻をすることについての自由は憲法第24条1項の趣旨に照らし,十分に保障されるべきものなので,本件規定が再婚をする要件に関し男女の区別をしていることに対しては,立法目的に合理的な根拠があり,かつ,その区別の具体的内容が立法目的との関連において合理性を有するものであるか否かという観点から憲法適合性の審査を行うのが相当であるとした上で,本件規定の立法目的は,嫡出子について出産の時期を起点とする明確で画一的な基準から父親を推定し,父子関係を早期に定めて子の身分関係の法的安定を図ることにあって合理性が認められるが,かかる立法目的を実現し父子関係の重複を回避するためには,計算上100日の再婚禁止期間を設ければ足り,それを超える部分については上記立法目的との関連において合理性を欠くものである,と判断している。
しかしながら,婚姻の自由は,家族の形成・維持に係わる事柄として自己決定権の中核をなすものであるから,かかる自由に対する制限や区別に対する合憲性については,立法目的の合理性や手段の合理的関連性に関しより厳格な審査を行う必要がある。本件規定に関しては,仮に,上記多数意見が指摘するような立法目的の合理性が認められるとしても,父性推定の重複回避のために再婚禁止期間を設けなければならない場合は極めて例外的である上,父子関係については,立法当時とは異なりDNA検査により極めて正確に確定することができるようになっているのであるから,そのような科学技術の発達の状況を踏まえれば,上記目的を達成するために再婚禁止期間を設ける必要性・合理性は既に失われているものと言わざるを得ない。
(2)民法第750条につき,多数意見は,氏名は,人が個人として尊重される基礎であり,個人の人格の象徴であって人格権の一内容を構成するものであるが,氏に関しては,夫婦やその子が同一の氏を称することにより,社会の構成要素である家族の呼称として一体性を確保する意義があり,氏が婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることはその性質上当然に予定されているのであるから,婚姻の際に氏の変更を強制されない自由は人格権の一内容とまでは言えないとし,夫婦が同一の氏を称することは,家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し識別する機能を有しており,子においても夫婦の共同親権に服する嫡出子であることを示すことができ,いずれの親とも氏を同じくすることによる利益も享受しやすくなること,他方,夫婦同氏制といっても婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではないから,個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度とは言えない,と判断している。
しかしながら,氏は、家族(夫婦と子という身分関係)の一体性を確保するためにあるだけでなく,個人が自己実現を図るためのアイデンティティとして,社会において個人の尊厳の基礎である個人識別機能を実現するものであって,このような氏を尊重しその変更を強制されない権利は,重要な人格権を構成するものと言わなければならない。殊に,女性の社会進出が進んでいる現代社会においては,この意義はより一層尊重されなければならないと確信する。氏が家族という社会の基本的な集団単位の呼称であり,家族を構成する一員であることを公示し識別する機能があるとしても,夫婦のあり方や家族の形態の多様化の下に,一片の例外も許さずに一律に同氏を強制しようとすることには合理性が存するとは到底言えない。又,通称使用についても,あくまで便宜的かつ例外的な対処であり,公的文書には用いることができない等極めて不安定・不確実なものであるから,夫婦同氏を認める合理的な根拠には到底なり得ない。
4 日本弁護士連合会及び他の連合会並びに当会をはじめとする多くの弁護士会においてこれまで再三再四主張してきたとおり,民法第750条は,憲法第13条,14条及び24条に反するのみならず,女性差別撤廃条約第16条第1項(b)が保障する「自由かつ完全な合意のみにより婚姻をする同一の権利」及び同項(g)が保障する「夫及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」にも反するものである。また,我が国の法制審議会からの法改正の答申及び国連の女性差別撤廃委員会から再三の法改正勧告があったにもかかわらず,「家族の一体感が損なわれる」などの抽象的な理由で,国会は現在まで頑なに法改正を拒否してきた状況がある。
5 以上の状況を踏まえ,当会は,国に対し,改めて民法第733条の廃止及び同第750条の改正を速やかに実施するよう強く求めるものである。以 上

司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明
2016年(平成28年)1月20日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明

司法修習生への給付型の経済的支援(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会をはじめ,当会を含む全国の各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられているが,今般,賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数の過半数を超えた。メッセージを寄せていただいた国会議員の皆様に心より感謝申し上げる。
 司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであり,これを担う法曹になる司法修習生は,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかし,この給費制が、2011年(平成23年)11月から貸与制(修習期間中に費用が必要な修習生に対して修習資金を貸与する制度)に変更された。この修習資金の債務に加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている修習生も多く,その合計額が多額となる者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが指摘されている。
こうした事態の中で,昨年6月30日に政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」とされた。これは,それまでの貸与制を前提とする支援から,給費型の経済的支援の実現に向けた大きな一歩と評価することができる。これは,賛同いただいた国会議員,市民,諸団体の皆様との運動の成果である。
 法務省,最高裁判所等の関係機関は,有為の人材が経済的な理由によって法曹となることを断念することがないよう,司法修習生に対する経済的支援策について直ちに検討を開始し,司法修習生が安心して修習に専念できるような給付型の経済的支援(修習手当の創設)を実現すべきである。
 当会は,国に対し,国会議員の賛同メッセージが過半数を超えたことを踏まえ,早期に給付型の経済的支援(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の改正を求めるものである。以 上

消費者庁・国民生活センター・消費者委員会の地方移転に反対する会長声明
016年(平成28年)1月9日
長野県弁護士会 会長 髙 橋 聖 明
政府は,「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置して,政府関係機関の地方移転を検討しているところ,現在,徳島県からの提案を受け,消費者庁,国民生活センター(相模原事務所を含む全体),消費者委員会を同県に移転することが具体的に審議されている。
しかしながら,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会の地方移転は,これら機関の機能を低下させ,我が国の消費者行政の推進を阻害することになるから,当会は,これらの地方移転に強く反対する。
 有識者会議は,道府県等からの提案のうち「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」や「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」については受け付けないものとしているが,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会の地方移転は,受け付けられない提案の典型である。
すなわち,消費者庁は,食品偽装問題や中国産冷凍餃子への毒物混入事件などの重大な消費者問題の発生を受け,従来の消費者行政が各省庁による縦割りであったことによる弊害が問題視された結果,消費者行政を一元化し,安全安心な市場の確保を図るため,政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担うべき機関として創設され,重大事故の発生時には,官邸と一体となった緊急対応を行うこととされたのである。現に,一連の偽装表示事案においては官房長官の下で,冷凍食品からの農薬検出事案においては担当大臣の下で,関係省庁と連携しその司令塔となって速やかに対応しているところである。
 消費者問題は国民生活のあらゆる場面に関わることから,消費者庁は,政府全体の消費者行政にかかる消費者基本計画の策定,消費者被害防止のための消費者安全法に基づく他省庁が所管する法律の権限発動の働きかけ,所管法・所管大臣がない隙間事案への対応,新規立法や法改正の作業など,日常的にほぼ全ての政府関係機関と連携し一体となった業務を行っている。今後,消費者庁が地方移転することになれば,その業務の実効的な遂行は阻害されかねない。
また,国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,消費者庁と連携して,諸問題を検討して関連省庁に意見を述べ,地方消費者行政を支援し,消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。これを切り離して地方移転することは,消費者行政全体の機能の低下をもたらすことになる。
さらに,消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問を受ける場合も建議等の監視機能を行使する場合も,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取や協議が頻繁に行われており,地方移転となれば他省庁との関係は希薄化し大幅な機能低下が懸念される。
 以上,消費者庁,国民生活センター,消費者委員会は,いずれも,有識者会議の示す地方移転の提案を受け付けない機関の典型であり,これらの機関が地方に移転すれば我が国の消費者行政の推進を大きく阻害することは明らかであるから,当会は,これらの地方移転に強く反対するものである。以上

面会室内での写真撮影等に関する会長声明
平成27年11月10日
長野県弁護士会会長  髙 橋 聖 明

第1 意見の趣旨
刑事収容施設において,弁護人による写真撮影等について不当な制約がなされることのないよう強く要請する。
第2 意見の理由
1 接見交通権は,憲法第34条が保障する被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける権利の中核であり,刑事手続上最も重要な権利である。このような権利が保障されてこそ,弁護人は,被告人等の刑事手続上の諸権利を実現すべく,被告人にとって,誠実にして最善の弁護活動をすることができ,ひいては,適正な刑事裁判が実現することができる。
2 弁護人が,東京拘置所で勾留中の被告人と面会室で接見していた際に,被告人の様子を写真撮影したところ,拘置所職員がこれを制止し,接見を中断させた事件があった。
この事件に関して,拘置所職員の行為が接見交通権や弁護活動の自由を侵害するとして国家賠償を求めたところ,平成26年11月7日,第一審の東京地方裁判所は,接見交通権の重要性から,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)第117条,第113条第1項1号ロ及び第2項に基づき弁護人の接見を中止することができるのは,具体的事情の下,未決拘禁者の逃亡・罪証隠滅のおそれ,その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られるとして,拘置所職員による撮影制止・接見中止行為は違法であり,国家賠償を認める判決を言い渡した。
3 ところが,平成27年7月9日,その控訴審である東京高等裁判所第2民事部は,原判決を破棄し,請求を棄却するとの判決を言い渡した。
同判決は,まず,写真撮影等の禁止について,刑事訴訟法39条1項にいう「接見」は,「面会」と同義に解されること,刑事訴訟法が制定された昭和23年7月10日当時,カメラやビデオ等の撮影機器は普及しておらず,弁護人等が被告人を写真撮影したり動画撮影したりすることは想定されていなかったことなどを理由に,接見時の様子や結果を弁護人が音声や画像等に記録化することは「接見」には本来的に含まれないと判断した。
その上で,情報の記録化のための行為のうち,メモ以外の行為が許されるか否かは,記録化の目的及び必要性,その態様の相当性,立会人なくして行えることからくる危険性等の諸事情を考慮して検討されるべきであり,広範囲な制約が及ぶとしながら,メモ以外の情報の記録化をするためには,刑事訴訟法第179条の証拠保全を行えば足りるから,弁護活動を不当に制約することにならないとした。
そして,接見を中止させたことについては,「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」(刑事収容施設法第117条,第113条第1項1号ロ及び第2項)があれば,弁護人の接見に対して,その行為の制止,面会の一時停止及び終了などの措置をとることができ,違法となるものではないとした。
4 周知のとおり,科学技術は飛躍的な発展を遂げており,市民の生活環境は大きく変化しているのであって,それに即した刑事訴訟法の解釈・適用がなされるべきであることはいうまでもない。しかるに,前記東京高裁判決は,あくまで刑事訴訟法制定当時の事情にこだわり接見交通権の内容を限定的に解釈するものであって,接見交通権が憲法に由来する権利であることを否定するに等しい。
接見時の写真撮影や録音録画は,弁護人のメモやスケッチに準じるものであることはもちろん,主観を差し挟む余地のない客観的な証拠の保全方法であることに鑑みれば,メモやスケッチ以上に重要な手段と位置づけることができる。
したがって,弁護人が弁護活動の一環として接見室内で写真撮影等を行うことは,具体的な事情の下において逃亡のおそれ等が生ずる相当の蓋然性がない限り,弁護人の弁護活動の一環として当然に認められるべきものである。
5 前記東京高裁判決を契機に,今後,刑事収容施設において,写真撮影等をすることが不当に制約され,弁護人の弁護活動に支障が生じ,ひいては,被疑者・被告人の防御権の保障が損なわれる結果となることが憂慮される。
そこで,当会は,刑事収容施設において,弁護人による写真撮影等について不当な制約がなされることのないよう強く要請するものである。以 上

安全保障関連法案の採決強行に抗議する会長談話
平成27年9月25日
長野県弁護士会会長  髙  橋  聖  明

9月19日、参議院本会議において、安全保障関連法案の採決が強行された。
 当会は、この間、再三、本法案の制定に強く反対することを表明してきた。同様に、国内全ての各地の弁護士会や日本弁護士連合会も反対の意見表明を行ってきた。
その主たる理由は、本法案が、第1に、「存立危機事態」の名のもとに集団的自衛権の行使を容認し、わが国が攻撃を受けていないにもかかわらず、自衛隊が海外で戦闘行為・武力行使を行いうるとしているからである。第2に、「重要影響事態」「国際平和支援」の名のもとに、自衛隊が世界中どこでも地理的制限なしに広範に米国軍その他の外国軍の「後方支援」を行うことができるようにするものであって、いかなる事態に対しても「切れ目のない」対応を可能にするとして、なし崩し的に自衛隊が戦闘行為に参加することを認めるものであり、自衛隊の武力行使や集団的自衛権行使への道を一層広げるものであるからである。これらは、いずれも憲法の定める恒久平和主義に反すると言わなければならない。
さらに、本法案の国会審議が始まってからは、衆議院憲法審査会における3名の参考人をはじめとする多くの憲法学者、歴代の内閣法制局長官、さらには元最高裁長官を含む最高裁判事経験者からも、本法案の違憲性が指摘されるに至った。
これに対し、国会において、政府による十分な説明がなされたとは到底言えない状況である。この間の世論調査によれば、国民の多数がこの法案に反対しており、また少なくともこの国会での成立には圧倒的多数が反対している。このことは、本法案に対する国民の理解が深まらなかったことを示している。
それにもかかわらず、国会での議席が多数であることに依拠し、本法律を成立させることは、国民の意思に反するものであって、「多数者の専制」とも言うべき暴挙と言わなければならない。
 当会は、このように、十分な審議も尽くさないまま、参議院が採決を強行したことは、立憲民主主義国家として許されないことであるとの立場から、強く抗議するものである。
しかし、忘れてはならないことは、本法律は、可決成立したとしても、いずれも憲法違反であって、国の最高法規である憲法に反する法律、命令、条例、国務に関するその他の行為は、効力を有しない(日本国憲法98条)ということである。
 今後、政府が本法律に基づく様々な措置を実行すれば、それらは全て憲法に反する無効な行為であり、国民に重大な人権侵害を生ぜしめるおそれがある。
 日本国憲法の下で制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」とし、その使命に基き、「誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」としている(弁護士法1条)。
 当会は、この使命を果たすべく、本法律の条項の適用及び運用に反対し、さらに廃止に向けた取組を進めていくとともに、本法律の施行によって生ずるであろう人権侵害の救済の取組も行っていく決意を表明するものである。以 上

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書
2015年(平成27年)8月8日
長野県弁護士会 会  長  髙  橋  聖  明
第1 意見の趣旨
特定商取引に関する法律を改正し、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘禁止制度(訪問販売について「Do?Not?Knock制度」、電話勧誘販売について「Do?not?Call制度」)を導入することを求める。
第2 意見の理由
1 現在、内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会では、特定商取引に関する法律(以下、「特定商取引法」という。)の改正へ向けた検討が行われており、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘を禁止する制度の是非が議論されている。
2 現行の特定商取引法では、訪問勧誘・電話勧誘を受けた消費者が、勧誘にかかる契約を締結しない意思表明をした場合に、継続した勧誘や再勧誘をする行為のみが禁止されている(特定商取引法第3条の2第2項、第17条。継続勧誘・再勧誘の禁止)。
 他方、消費者が、例えば「訪問勧誘お断り」のステッカーを玄関ドア外側に貼るなどして、予め、包括的に勧誘を拒絶する意思を表示していても、このような行為は、前記勧誘にかかる契約を締結しない意思表明とは認められていない(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針?再勧誘禁止規定に関する指針?」)。
すなわち、消費者は、現行法上、訪問勧誘・電話勧誘を事前に拒絶・回避する手段を有しておらず、事業者による突然の訪問や電話にその都度応答した上で、それぞれの事業者に対し、個別に拒否の意思を伝えなければならない現状にある。
しかし、これでは、望みもしない事業者からの勧誘に伴う迷惑自体を免れることができず、生活の平穏やプライバシーを十分に確保することができない。
また、いったん事業者による巧みな勧誘が開始されてしまうと、消費者の側でこれを拒絶することは容易でなく、消費者が不本意な契約や不当な契約を締結させられる事例も多発している。
3 全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO?NET)のデータによれば、2008年の特定商取引法改正以降の相談件数は、訪問販売全体では近年やや減少傾向にあるが、家庭訪販については増加傾向にあり、電話勧誘販売についても増加傾向にある(内閣府消費者委員会特定商取引法専門調査会(第4回)における消費者庁からの配付資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」)。
さらに、60歳代以上の高齢者が契約当事者である相談の割合は、訪問販売で53.6%、電話勧誘販売で70.8%を占めており、店舗販売や通信販売と比較して、極めて高い割合を示している(国民生活センター「2013年度のPIO?NETにみる消費生活相談の概要」)。長野県内でも、同様の傾向である(長野県「平成26年度の消費生活相談の状況」)。
 高齢者は、自宅にいる機会が多く、認知症等により判断力が低下している場合が少なくないところ、上記のデータは、そのような高齢者を狙って、不意打ち的な訪問勧誘・電話勧誘が広く行われている実態を表していると考えられる。
 今後も、高齢者の独居あるいは夫婦のみの世帯が増加していくことが見込まれる中、現行の特定商取引法で定める継続勧誘・再勧誘の禁止の規制だけでは、訪問勧誘・電話勧誘による消費者被害の発生を十分に防止できないことは明らかである。
4 そもそも、事業者からの勧誘を受けるかどうかは、消費者の自己決定権の下に位置づけられるものである(「消費者基本計画」2015年3月24日閣議決定)。すなわち、事業者の営業活動において、「勧誘を望まない」という消費者の意思は当然尊重されなければならない。
とりわけ、近時の調査によれば、消費者の96%以上が訪問勧誘・電話勧誘を「全く受けたくない」と回答しているのである(消費者庁「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」2015年5月)。
このような現状をみれば、予め勧誘を拒否する意思を表明した消費者に対し、事業者があえて勧誘することを認める正当性・合理性はまったくないといわざるをえない。
5 以上より、現行の特定商取引法の規制だけでは、消費者被害の発生を十分に防止できず、また、消費者の生活の平穏等を確保することもできないことから、特定商取引法を改正し、事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することが必要である。
 具体的には、訪問販売については、訪問勧誘を望まない消費者が、勧誘を受ける意思がない旨を表示したステッカーを門戸に表示した場合には、事業者は勧誘を行ってはならないとする制度(Do?Not?Knock制度)を導入すべきである。
この点、事前拒否の方式については、ステッカー方式の他に、登録簿への登録による方式もあるが、既に多くの自治体においてステッカーを配布する取組が重ねられていること、登録簿の管理のためコストがかかることから、前者の方式によるべきである。
また、電話勧誘販売については、電話勧誘を受けたくない消費者が電話番号の登録を行い、登録者への電話勧誘を法的に禁止する制度(Do?not?Call制度)を導入すべきである。
この制度における事業者による登録者の確認方法については、事業者が保有していない情報を新たに取得することを防ぐため、いわゆるリスト洗浄方式(事業者が電話番号等のリストを登録機関に開示し、登録機関がそこに登録者の情報があるかを確認する方式)によるべきである。
これらの制度は、既に欧米各国、オーストラリア、韓国等の諸国で採用され、実績を上げているところであり、「Do?Not?Knock制度」に関しては、日本国内でも条例を設けている自治体があり、これに法律上の根拠を与え、全国に拡大する意味を有するものである。
6 これに対し、訪問販売及び電話勧誘販売を行う事業者から、「営業の自由」に対する過剰な制約であるとの反対意見が出されている。
しかし、営業の自由も、人が嫌がることを行うことを正当化するものではありえない。事前拒否者に対する勧誘は、住居等の管理権ないしは私生活の平穏を本人の意に反して侵害する行為に他ならず、「営業の自由」として保障される行為とはいえないものである。
また、事前拒否者への勧誘禁止制度は、営業活動についての時・場所・方法の規制にすぎない。すなわち、同制度の下であっても、事業者は、消費者から承諾を得た勧誘や、勧誘を拒絶してない者に対する勧誘を行うことはできるし、訪問・電話以外の方法による勧誘を行うこともできる。
さらに、電子メール広告については事前の同意がある場合のみ送信できるというオプト・イン方式を採用しているが(特定商取引法第12条の3、同第36条の3,同第54条の3、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第3条)、これと比較してもより緩やかであり、管理者の管理権や私生活の平穏を求める権利を保護するための最小限の規制といってよいものである。
したがって、事前拒否者への勧誘禁止制度は、営業の自由を過剰に制約するものではない。
7 以上のとおりであるから、当会は、特定商取引法を改正し、訪問販売及び電話勧誘販売について、事前拒否者への勧誘禁止制度を導入することを強く求める。以 上

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余命三年時事日記 2360 ら兵庫県弁護士会⑦⑧⑨⑩ [余命三年]

余命三年時事日記 2360 ら兵庫県弁護士会⑦⑧⑨⑩
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兵庫県弁護士会
ttp://hyogoben.or.jp/index.html

2016年1月6日付兵庫県警察本部及び垂水警察署宛意見
兵庫県内にある警察署内の留置施設には、机や机の代わりになる物がありません。
本件は、申立人が垂水警察署の留置施設に勾留されていた間、机がないため食事を床に直接置いて食べる生活を強いられた等を理由として申立があったものです。
 机がないことによる生活上の支障については、食事の際の衛生面の問題のほか、書類の作成、記録や書籍の閲読の際の不便さも考えられます。
このような状況は、いずれも、食事をしたり、手紙を書いたり、本を読んだりすることを直接的に制限するものではありませんが、一般的に考えられる生活環境の水準を下回っていると考えられることから、収容されている人が小机やその代わりとなる物を利用出来るよう、意見を表明しました。
なお、警察署の留置施設と同じく、未決被拘禁者(逮捕による身柄拘束後、裁判による有罪判決が確定していない人)が収容されている拘置所では一般的に居室内には小机が常備されているほか、他の都道府県では、警察署内の留置施設において収容されている人に小机を貸与しているところもあるようです。
2015年6月23日付法務省、同大阪矯正管区及び加古川刑務所に対する勧告
 申立人は、戸籍上は男性ですが、女性としての性自認を持ち、かつ性適合手術を受けて女性としての身体的特徴も備えている被収容者(申立当時)です。
 同人からの申立については、既に当会から2012年2月23日付けで、法務省等に対し、同様の受刑者は女性用の施設へ移送するよう勧告していますが、当会からの勧告後も申立人は女性用施設には移送されることなく、反則調査の際に単独室内で男性刑務官から着衣の検査をされる等の処遇を受けていました。
 当会としては、先の勧告同様、本件のような女性としての性自認及び女性としての身体的特徴を有する者は女性として処遇すべきと考え、このような被収容者に対する身体、着衣の検査は女性の被収容者と同じ扱いとするよう、また、男性刑務官が身体、着衣検査をすることを許容している現行の運用については速やかに改めるよう勧告したものです。

2014年11月16日付神戸刑務所宛勧告
本件は、刑務所における処方薬の変更及びその説明が問題となった事案です。
 申立人には、相手方刑務所に入所する前から、パニック障害等の持病があり、投薬等の治療を受けていたところ、相手方刑務所は、同所入所後の申立人の治療について、一部の薬の処方中止を含む投薬の変更を行い、その後申立人の症状が悪化しました。
 調査の結果、当会としては、この時それまでの処方薬を漸減中止ではなく突然中止したことは厚生労働省研究班が作成した「パニック障害の治療ガイドライン」や処方薬の添付文書における禁忌に照らして不適切な処置であり、症状悪化もその突然の中止による離脱症状であった可能性も考えられると判断しました。また、相手方神戸刑務所では、この処方変更について申立人にほとんど説明がなされていませんでした。
このような刑務所側の処遇は、申立人の適切な医療処遇を受ける権利(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第56条参照)を侵害していることから、再び同様の行為がなされないよう勧告しました。

2014年7月31日付加古川刑務所宛勧告
刑務所内で雑誌の閲読制限が問題となった事案です。
一般的に、刑務所内では、刑務所が所蔵する官本の貸し出しのほか、自費で私本を購入して書籍・雑誌を閲読出来ます(冊数制限があります。)。
本件は、加古川刑務所に収容中の複数の受刑者が、それまで自費で購読していた雑誌(成人向けの月刊誌)について、平成24年12月頃から急に閲読できなくなったというものです。
 憲法21条1項は表現の自由を保障しています。表現の自由は、本来、表現の受け手を抜きにしては考えられない権利ですから、表現の自由には、知る権利(国家の妨害を受けずに自由に情報を受取る権利)が含まれます。書籍や雑誌の情報に自由に接することは憲法で保障された重要な権利です。
ただし、受刑者の場合、「刑事施設の規律秩序を害するおそれ」や「受刑者の矯正処遇の実施に支障を生じるおそれ」がある場合に限り、必要かつ合理的な範囲で制限できることが法律で認められています(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律70条1項)。
そこで刑務所は、受刑者が読む前に雑誌を検査し、問題ある箇所を黒塗りしたり(抹消)、ページを切取ったり(削除)、雑誌そのものを閲読禁止したりできます。
しかし、本件受刑者は、詐欺や薬物事件により服役中で、罪名からは性犯罪傾向は認められず、それまで閲読できていた成人雑誌の閲読を、禁止する必要性が認められません。また、禁止された雑誌は、一般書店やインターネットで市販されているもので、わいせつ物にあたるものでもありません。
こうした雑誌を丸ごと閲読禁止とすることは、行き過ぎた制限と判断し、今後は抹消や削除など部分的な閲読制限で対応するよう勧告したものです。

2014年3月25日付加古川刑務所宛勧告
本件は、受刑者の刑務作業における刑務所側の安全性の確保が問題となった事案です。
 申立人は、受刑者として相手方加古川刑務所に収容されていた間、刑務所内の工場において、生産目標額が記載されたホワイトボードの付け外し作業を数回行いました。この際、申立人は踏み桟の高さが1.45メートルの脚立に登り、さらに床から2.33メートルの高さにある鉄鋼に足をかけて作業をすることがありました。
 労働安全衛生規則は、高さが2メートル以上の高所で危険な作業を行う場合には、危険を防止する措置を講じるよう定めています。この規則は、刑務所と受刑者との関係において直接適用されるものではありませんが、受刑者の刑務作業における安全のためには、尊重されるべきものと考えられます。
 申立人の行った作業は、高所での危険な作業に該当するものでしたが、刑務所側は、申立人に対して、鉄鋼に足をかけることを制止することなく、また、ヘルメットや安全帯を着用させる等の措置も講じていませんでした。
そこで、今後は受刑者の安全を確保するため必要な措置を講じるよう勧告したものです。

2014年2月6日付兵庫県警察本部宛警告
警察が警察官に対して実施する水泳訓練において、訓練対象者への安全配慮義務の履行を怠ったことを問題とする事案です。
本件の申立人は、50歳で機動隊に配属された警察官です。申立人は、新隊員訓練の一環としての水泳訓練の対象者となりました。
 水泳訓練中に、申立人は疲労により二度にわたりプールの縁に掴まりましたが、指導員らは二度とも申立人に事情も聴かずに、訓練を再開させようとプールの縁から手を離させました。その結果、申立人は水中に沈み、呼吸停止及び心停止の状態となりました。
 申立人は訓練対象者の中では高齢でしたし、他に同訓練の約2週間前までは傷病休暇を取得していた、水泳訓練前日の別の訓練では熱射病で倒れていた、という事情もありました。
このような申立人の年齢や健康状態からすれば、指導員らは申立人が溺水しないよう十分に配慮すべきでしたが、基本的な安全への配慮を怠り、申立人の生命・身体に重大な危険を生じさせました。
これは重大な違法行為であり、二度と起きてはならないことですから、警察内部の諸訓練について、対象者の生命身体の安全確保のため十分な措置を講じ、再びかかる危険を生じさせることのないよう警告しました。

2013年11月15日付法務大臣宛勧告及び神戸刑務所宛要望
本件の申立人は申立当時神戸刑務所に収容されている受刑者でしたが、収容時、反則行為による懲罰の審査期間中及び懲罰(閉居罰)期間中に、何十日にもわたり昼夜間、単独室に他の収容者と2名で収容されました。
 単独室というのは、その名前のとおり、本来は1名を収容するための居室です。部屋の中は3畳ほどの生活空間の奥に洗面台と便座が設置されており、合わせて4畳ほどの広さ、また、トイレは腰の高さほどのついたてで仕切られているのみで、個室にはなっていません。
このような狭い空間に他人の成人男性を2名収容すれば、お互いの距離が非常に近く、さらにトイレでの用便も同室者の目前でするような生活を強いられることになり、多大な精神的ストレスを受けることは想像に難くないことと思います。
 刑務所側はやむを得ない場合に了解を得て行っていると主張していますが、平成18年5月には神戸刑務所において単独室に2名収容されていた受刑者が同室の受刑者を暴行し死亡させるという事件も起きており、この処遇が引き起こす人権侵害性に鑑みれば、いかなる場合でもこのような処遇が許されるべきではありません。
したがって、全国の刑事施設においてこのような処遇が行われないような措置を講じるよう法務大臣に対して勧告すると共に、神戸刑務所にもこのような運用を改めるよう要望しました。
なお、日本における昼夜間独居拘禁の人権侵害性については国際的にも懸念されており、国連の拷問禁止委員会は、平成25年5月、日本政府に対し、「(a)独居拘禁が、厳しい監督の下で最小限の期間、司法審査が可能な状況で最終手段として用いられるよう法改正し、独居拘禁の明確かつ具体的な基準を確立すること」、「(b)独居拘禁中、被拘禁者の心身の状態につき医師が定期的に監視・ 検査するシステムを確立し、その医療記録を被拘禁者とその弁護士に開示すること」などを勧告しました。この勧告を受けた日本政府の対応が注目されます。

2013年7月31日付神戸刑務所宛勧告
本件は、受刑者(申立人)が、刑務所(相手方)に対して訴訟に関する書面及び人権救済申立書を作成したいと願い出たところ、閉居罰中であることを理由に認められなかったという事件です。
たとえ受刑者であっても、訴訟に関する書面を作成することは、裁判を受けるにあたって必要不可欠な準備行為であって、理由なく拒否されてはなりません。
また、弁護士会等に対する人権救済申し立ては、裁判と直結しなくとも、その前提となる法的援助を受ける権利の一環として、理由なく拒否されてはなりません。
そのため、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律152条1項6号では、閉居罰中においても、受刑者は「弁護人等との間で信書を発受する場合及び被告人若しくは被疑者としての権利の保護又は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる場合」は、信書を「発受」することができることが規定されています。
「発受」が許されている以上、その前提となる「作成」が制限される理由はどこにもありません。
 法の趣旨を踏まえて当弁護士会で検討した結果、本件において、申立人の裁判を受ける権利および十分な法的援助を受ける権利の侵害があったとの結論に達しました。
そこで、相手方に対し、今後は訴訟の準備その他の権利の保護に必要と認められる書類の作成を妨げないよう勧告しました。
弁護士 小川 政希 弁護士 園田 洋輔

2013年7月31日付明石区検察庁宛要望
勾留延長の必要性が疑われる事案です。申立人は、図書館において館長と口論になり、体当たりなどの暴行を加えたとして現行犯逮捕されました。その後、相手方明石区検察庁の検察官によって勾留請求がなされ、明石簡易裁判所は勾留決定を行いました。さらに、10日目の勾留満期日に同じ検察官によって勾留延長請求がなされ、裁判所は勾留延長決定を行い、結果として19日間にわたる勾留がなされた後、申立人は不起訴処分となって釈放されました。
 本件は軽微な暴行事件であり、関係者らの供述によれば容易に事件の終局処分をすることができ、申立人が早期に釈放されてしかるべき事案でした。しかし、本件で勾留延長請求がなされた時点において、相手方明石区検察庁は、被害者取調べ、参考人事情聴取、実況見分、被疑者取調べのいずれも行っていませんでした。これは、適切な捜査を行うことなく漫然と勾留を延長して申立人を身柄拘束したものに他ならず、人権侵害に当たるといえます。
よって、今後、このように安易な勾留延長請求がなされることのないよう相手方明石区検察庁に要望するとともに、兵庫県下の全ての裁判所に要望書を参考送付し、安易に勾留延長決定をすることのないよう注意喚起を行いました。 弁護士 北村 拓也

2013年3月19日付育英高等学校及び同校生徒指導部長に対する警告
本件は教育機関における指導の限度が問題となった事案です。
 申立人は相手方高等学校の在学中に複数回の喫煙をしたとして相手方生徒指導部長らから自主退学の勧告を受けました。この喫煙行為は、相手方校内の体育館で起きた火災の調査において判明したものですが、申立人の喫煙とこの火災との間には関連は認められていませんでした。ところが、この退学勧告の場において、相手方生徒指導部長は何ら証拠もないまま申立人を火災の犯人と決めつけて「放火魔」と告げ、机を叩いての恫喝、大声で怒鳴り付ける等の言動により申立人に弁明の機会を与えず、侮辱的な言辞を浴びせ続けました。また、同席した他の教諭も、生徒指導部長の言動を制止しませんでした。
 相手方の自主退学勧告は、教育機関として許容される懲戒行為の範囲を明らかに逸脱しており、申立人の人格権を著しく侵害し反論の機会を抑圧するなど適性手続にも違反しているものです。従って、本件について猛省し、今後生活指導において人格権侵害をすることがないように十分な措置を講じるよう相手方高校及び同校生徒指導部長に警告しました。

2013年3月13日付兵庫県警察本部及び飾磨警察署に対する勧告並びに大阪入国管理局神戸支局に対する要望
本件の申立人はマレーシア国籍を有する女性で、事情により在留許可が認められなくなったものの、子供を置いて出国することが出来ないためオーバーステイ状態で日本に留まり在留特別許可を求めていました。申立人はオーバーステイに先立って相手方大阪入国管理局神戸支局(神戸入管)に違反調査にはいつでも応じる旨を伝え、その後神戸入管からの呼出に応じて仮放免許可を得たのちも、呼出の都度、入管へ出頭していましたが、仮放免許可から3カ月が経過する頃に、飾磨警察署に「神戸入管から通報があった」として不法滞在の疑いで逮捕されました。
 確かに、別々の機関である入管と警察とで、仮放免の判断と逮捕の判断が同一である必要はありません。しかし、当時申立人については既に入管から仮放免の許可を受けており、また家族と同居しており、容易に逃亡するとも思えない状況でもあったのですから、不法滞在の事実のみに基づいて警察が直ちに逮捕して身体を拘束する必要があったかについては疑問が残ると言わざるをえません。
そこで、今後は仮放免されている外国人を漫然と逮捕することがないよう、勧告及び要望に至ったものです。

2012年12月13日付神戸刑務所に対する勧告
本件は、簿記学習の自習のため申立人が電卓の使用を願い出たが神戸刑務所がこれを許可しなかったという事案です。
 刑務所内においては、自費購入したものでも、様々な物品について使用が制限されていますが、このうち、電卓については「受刑者からの申出内容及び当該物品の用途に鑑み、使用が必要と認められる事情があり、かつ、処遇上有益であると認められる場合には、使用を許すことが相当である」とされています。この点、簿記を学習することが社会復帰後の生活に有益であることは言うまでもなく、また、簿記学習において電卓の使用は必要不可欠なものですから、電卓の使用が認められるべき場合にあたると思われますが、神戸刑務所においては、通信講座を受講中である場合などに限って使用を許可し、自習で簿記を勉強したい者には使用を許可しないという運用がなされていました。
よって、通信講座の受講の有無にかかわらず、真に簿記学習の意欲が認められるものには電卓の使用を許可するよう勧告したものです。

2012年10月2日付神戸刑務所に対する勧告
申立1 ルーペの複数使用について
申立人は視覚障害を有しており、刑務所に入所する前から用途に応じた複数のルーペを使い分けていたため、刑務所内においても複数の種類のルーペを使用出来るよう願い出たものの、神戸刑務所から許可されなかったという事案です。  確かに、補正器具であっても必要性のないものまで無制限に使用を認めれば、刑務所の管理上支障が生じるおそれがあるかもしれません。しかし、申立人が使用を願い出たルーペはその倍率や構造がそれぞれ異なるものであり、用途に応じて使い分けることにより視覚障害による不自由不便を解消することが期待できること、また、複数(2つ)のルーペの所持を認めることで刑務所の管理運営上具体的な支障が生じるおそれも低いと思われることから、ルーペの復讐所持を認めるよう勧告したものです。
申立2 雑誌の付録の宅下げ制限について
雑誌の宅下げについては「2012年2月23日付神戸刑務所に対する勧告書」において記載しましたが、付録においても雑誌同様、宅下げを制限する根拠はないため宅下げを認めるよう勧告したものです。

2012年8月1日付兵庫県高等学校教育研究会視聴覚部会に対する警告
本件は放送コンクールにおける「表現の自由」の侵害が問題となった事案です。
 申立人が顧問を務める県立高校の放送部が放送コンクールに応募し、全国大会の予選まで進出したテレビドキュメント作品が審査ミスにより予選落ちとなる出来事がありました。この放送部は審査ミスを題材にラジオドキュメント作品を作成し、翌年の地区大会に応募したところ、地区予選を勝ち抜き兵庫県大会決勝に進出することとなったものの、決勝を直前に控えた時期に、この兵庫県大会を運営しており、申立人も所属する兵庫県高等学校教育研究会視聴覚部会(高等学校の放送部顧問が任意に加盟する団体)において緊急理事会が開催され、結果として、申立人側の高校がこのラジオドキュメント作品を取り下げることになったというのが本件事案の概要です。
 相手方部会は、本件ラジオドキュメント番組の構成が、審査ミスに対する全国大会事務局の尽力(複数回の謝罪や代替措置の提案など)がまったく紹介されていないばかりか、さらに全国大会事務局を批判するものになっていたため、このような番組構成が教育的配慮を欠いているとして、緊急理事会においてこの点を申立人に指摘したところ、申立人からの同意のもと作品が取り下げられたものであると主張し、一方、申立人は、相手方部会からの大会と2者択一的に迫られたもので、半ば強制的に取り下げられたものであると主張しました。
 両者の主張を踏まえて検討した結果、当会としては、申立人の同意は真意に基づくものとは認められず、相手方部会の対応は、不当に申立人側放送部の表現の自由を侵害したものと判断しました。なお、表現の自由は憲法21条1校により保障された重大な権利ですから、相手方部会に警告したものです。

2012年7月13日付神戸刑務所に対する警告
本件は刑務所内における懲役受刑者の隔離処遇が問題となった事案です。
 一般的に懲役受刑者は、刑務所内にある作業所(工場)に配属され、日中はそで他の受刑者と共に刑務作業を行っています。
しかし、ある受刑者に「他の受刑者と接触することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき」もしくは「他の受刑者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」には、日中も夜間もその受刑者を他の受刑者から隔離して処遇すること(昼夜間独居拘禁処遇)が認められています。また、この期間は3カ月とするが、特に継続する必要がある場合には、さらに1カ月毎に期間を更新することが出来るとされています。
それでは更新を続ければこのような昼夜間独居拘禁処遇は無制限に認められるべきなのでしょうか。
 本件の申立人は、2009年10月から2011年5月まで1年7カ月の間、神戸刑務所において他の受刑者からほとんど隔離され、4畳ほどの広さの単独室(一人部屋)に収容されていました。また刑務所側は、2010年5月以降は部屋の外窓にプラスチック板、視察窓に遮光フィルムを、部屋の外側の廊下の窓に寒冷紗(織り目の粗い布)をそれぞれ設置しました。
 当会は、調査の結果、申立人の長期間に及ぶ昼夜間独居拘禁処遇は隔離の必要性を慎重に判断せずになされたものとの結論に至りました。さらに、申立人の収容された居室は、プラスチック板等の設置により、天気や気候などの外部の様子さえまったく窺えない状況にされていましたが、人を長期間このような状況下に置くことは、著しい精神的苦痛を与えるものと思われます。
したがって、長期間の隔離処遇と居室窓へのプラスチック板等の設置についてこれを改めるよう神戸刑務所へ警告を行いました。
また、刑務所においては、秩序や規律の維持のため、移動の際に手足を揃えた行進を行う等の指導がなされることがありますが、このような指導に従わない際に懲罰を科す等、懲罰により行進等を矯正することがないように併せて要望しました。

2012年5月14日付兵庫県警察本部及び長田警察署に対する警告
逮捕の適法性が疑われる事案です。申立人は自宅近くの路上で、携帯電話で通話しながら運転していたとして相手方長田警察署の警察官2名に呼び止められたため、車を車庫に入れる旨、降車して警察官らに伝えた上で車を車庫に停車しました。その後、申立人が下車して車庫から出ようとすると、警察官のうち1名が、両手を広げて申立人を追い込むように近づいてきたため、申立人は「やめて下さい」と言いながら警察官の肩を押したところ、平手打ちをされ、両手首を掴んで強くひねられた上で、手錠をかけられ、公務執行妨害を理由に現行犯逮捕されました。
もともと、申立人の行為は運転中に携帯電話を使用したという軽微なものでした。恐怖を感じた申立人が警察官の肩を押した行為が仮に違法なものであったとしても、申立人を平手打ちし、両手を強くひねったうえ手錠まで使用する必要があったとは思えず、警察官らの制圧行為は限度を超えたものです。
また、申立人はその後2日間にわたって警察署に拘束されましたが、これについても、2日間もの拘束が必要であったか疑問があります。
よって、申立人への制圧行為及びその後の2日間の身体拘束について警告したものです。

2012年2月23日付警察庁、兵庫県警察本部及び神戸西警察署に対する警告
申立人は、自動車の後部座席に積んでいた買い物カゴについて、相手方神戸西警察署警察官から職務質問を受けました。その際、申立人はゴミ置き場に捨ててあったものを約1年半前に拾ったと答えましたが、警察官は申立人の行為が占有離脱物横領罪にあたると一方的に判断し、同行を求めました。同行先の警察署内において、申立人は写真と指紋の採取を求められたためこれを拒みましたが、警察官から大声で怒鳴られ、無理矢理立ち上がらせようとパイプ椅子を強引に引くなどされたため、恐怖心をいだき、仕方なく指紋採取や顔写真撮影、身長測定、微罪処分手続書への署名押印に応じました。
 申立人は相手方警察官に椅子を強く引かれた際、椅子から転落して臀部を打撲するけがをしましたが、警察官のこのような行為は暴行にあたります。また、任意の同行に応じているだけで身柄を拘束されている訳ではない申立人に対して令状なしに指紋採取、顔写真撮影、身体測定を強制した行為は令状主義に反しており、いずれも人権侵害にあたると考えられます。さらに、本件においては、問題となった買い物カゴが、所有者がいない無主物なのか、占有を離れた他人の所有物なのかを客観的に判断することは困難であったと推測されますが、このように裏付けが十分でないにもかかわらず、暴行により申立人の意思を制圧した上で微罪処分手続書に署名・押印させたことについても、刑事手続における適性手続の要請に反しており、人権侵害にあたるといえます。
なお、一般的に捜査の際に採取された指紋や顔写真については、警察庁及び都道府県警察に置いて保管し、被疑者の特定に利用されているところ、本件のように不適切な手続により取得された指紋や顔写真を捜査機関が保有し続けるべきではありません。
よって、今後このような事が行われないよう警告した事に加え、本件における微罪処分手続書、申立人の指紋、顔写真、測定身長等の個人情報を廃棄することを求めて勧告したものです。

2012年2月23日付法務省、同大阪矯正管区及び加古川刑務所に対する勧告
本件の申立人は、性同一性障がいにより女性としての性自認を持ち、かつ性適合手術を受けており女性としての身体的特徴を備えているものの、戸籍には変更手続きをせず男性として搭載されていたことから、男性受刑者用の施設に収容されました。
 刑事施設においては男女が分離して収容されていますが、それは主として異性、特に男性による女性に対する性的虐待による身体的直接的な侵害を防止するとともに、女性受刑者が男性受刑者との接触を強制されず、また、男性受刑者や男性職員からプライバシー侵害を受けないなど、広く女性の性的尊厳を守るためと考えられます。
 本件申立人に対して、加古川刑務所は、定期的に女性ホルモンの注射を受けさせ、女性の看守を配置する等の配慮を行っていましたが、一方で女性の衣類を支給せず、女性用の下着の使用を認めず、髪型は男性としての基準に基づいた髪型とし、入浴時の監視を男性刑務官が行うなど、女性としての性自認を有する申立人にとって精神的苦痛を感じさせる処遇も見受けられました。
 当会としては、分離の要件となる男女の区別については、戸籍を基準とするのではなく、本件申立人のように女性としての性自認及び女性としての身体的特徴を有する者については、女性として処遇すべきと考え、申立人を女性用の施設へ移送するよう勧告しました。

2012年2月23日付神戸刑務所に対する勧告
刑務所内では居室内で私物等を保管するスペースを制限されており、居室内で保管しきれないものは領置(刑務所内の別のスペースで保管すること)もしくは宅下げ(私物を親族や知人等に引き取って持ち帰って貰うこと)することになります。
 神戸刑務所では、新聞や雑誌について閲覧後は原則として廃棄させ、釈放後の社会生活上必要な場合などに限り、宅下げを認めるとの運用をしており、本件申立人が「趣味を活かし、出所後の生活に役立てたい」として特別宅下げ願いを申し出た雑誌の宅下げを2度にわたって不許可としました。
 本件は、神戸刑務所が「釈放後の社会生活上必要があり、・・・領置を認めることが相当な場合に限」り領置が認められるとの「領置」に関する通達の定めを「宅下げ」にも援用して運用していたものです。しかし刑務所内で保管するため、保管容量に物理的制約がある領置と異なり、宅下げにはこのような物理的制約はないため、領置に関する定めを宅下げにも適用するのは誤った解釈といえます。よって、このような運用は、本来なら宅下げによって廃棄を免れるはずの書類を廃棄されることにより、被収容者の財産権を不当に侵害している恐れがあることから、今後は改めるよう刑務所へ勧告しました。

2012年2月23日付兵庫県警察本部及び三木警察署に対する警告
本件では、申立人の逮捕について、その必要性が問題となりました。1月中旬の午後6時頃、三木警察署署員が、信号無視があったとして申立人の車を停車させ、申立人に免許の提示を求めました。その際、署員は免許証を手渡すよう求めましたが、申立人は免許証を手渡すことを拒否し、自らの手に持ったまま、3度にわたって相手方署員に提示しました。
 逮捕の際には逮捕の必要性(証拠隠滅のおそれ及び逃亡のおそれ)があるか否かが問題となるところですが、本件において申立人は警察官の指示に従って直ちに車両を路側帯近くに停車しており、免許証についても相手方署員が記載事項を確認出来るように提示しようとしていました。したがって、本件逮捕はその必要性が認められない違法な身柄拘束であると判断し、今後このようなことがないよう警告したものです。

2011年11月8日付姫路少年刑務所に対する勧告
本件は、少年刑務所の受刑者(申立人)が、少年刑務所(相手方)に、申立人が治療を受けた病院名を教えて欲しいと申し出たが、教えてもらえなかったという事件です。申立人は、刑務所内で他の受刑者から暴力を受け、市内の病院で治療を受けましたが、土地勘がなく、また、暴力によって意識が混濁し、自分が搬送された病院名を覚えていませんでした。申立人は診断書を取得して被害届を出すために上記申出をしました。
本件では、知る権利の侵害の有無が問題になります。
「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」では、自己を本人とする保有個人情報については、開示が原則であって非開示は例外とされています。また「被収容者の診療記録の取り扱い及び診療情報の提供に関する訓令」でも、診療情報は公開が原則であると定められています。
 当弁護士会では、法の趣旨を踏まえ、申立人の申出を拒否するだけの合理的な理由があったかどうかを慎重に検討し、少なくとも本件においては知る権利の侵害があったとの結論に達しました。そこで、相手方に対し、申立人が受診した病院名を知らせる等必要な処置をとるよう勧告しました。
弁護士 小川 政希

平成22年11月18日付神戸刑務所に対する勧告
平成21年2月ころ、神戸刑務所内で複数の受刑者が、刑務所の規則に違反して、菓子類、手紙、レンズ付きフィルムなどの物品を所持し、あるいはこれらを外部とやりとりするなどの規則違反(反則行為)をしたとされる事件に関連して、受刑者の一人である申立人が、刑務所から反則行為の一部に関与した疑いをもたれ、隔離措置(反則行為の証拠隠滅を防ぐなどの目的で、受刑者を一人ずつ引き離して相互の交流を禁止し、刑務作業からも除外するなどの制約を設ける措置)を受けたことについて、刑務所による人権侵害であるとして救済を求めた事案です。
 法律上、反則調査のための隔離期間は原則として2週間とされていますが、この期間が延長されて長期間の隔離が行われており、このような長期間の隔離が正当と認められるだけの理由があったかどうかが問題とされました。
 調査の結果、延長後の隔離を正当化するに足りる事情が認められないことから、これについて刑務所の人権侵害を認定し、再発防止等を勧告しました。

2011年5月30日付加古川刑務所に対する勧告
本件は、刑務所における個人情報の管理が問題となった事案です。
 行政機関である刑務所には保有している個人情報を適切に管理し、漏えいを防ぐ義務があります。しかしながら神戸刑務所では、一日の刑務作業の始業から終業までの間、計算係の受刑者に工場内の受刑者の姓、配役年月日、生年月日や刑期終了日等が記載された手控えを預けるとの取扱いがなされていました。これらの情報は単に個人を識別することのできる情報に過ぎないという訳ではなく、刑務所という限られた空間に収容されている者の情報であるという点で、極めて慎重な取扱いが求められる「センシティブ情報」に該当するものですから、刑務所側の管理方法は杜撰であったと言わざるを得ません。
 加古川刑務所においては、申立人からの苦情申し出により速やかに管理方法を改める等の措置を講じていましたが、この点に限らず、今後は収容されている受刑者の個人情報が漏えいすることのないために必要な措置を講じるよう勧告しました。

2011年5月30日付神戸刑務所に対する勧告
本件は、刑務所における身体障がい者への刑務作業の配役について問題となった事案です。
本件申立人は入所当時、右足首の運動機能低下により身体障害6級の認定を受けており、また腰部に過度の負担がかかる長時間の立ち作業が困難な状態でした。
 入所当初、申立人は椅子に座りながら刑務作業の出来る工場に配役されましたが、他の受刑者との口論により懲罰を受け、他の工場に転役されることになりました。その後、申立人は右足首及び腰部の痛みやしびれを理由に作業を拒否し、懲罰を受けて工場を転々とすることを繰り返しました。
 例えば、刑務所側が申立人の障がいを「立ち作業が困難」という程度において把握していたのであれば、座位の作業などによって申立人の腰部への負担について予見困難な面もあったと思われます。しかしながら、申立人は作業復帰後に腰痛の悪化により休養を余儀なくされる等しており、刑務所には受刑者の健康に対してより慎重な配慮を行うべきであったと言えます。
そこで、障がいや健康上の理由により刑務作業による病状悪化が見られる受刑者の作業拒否に対して、刑務作業がその症状に与える影響を的確に把握し、懲罰権の行使及び配役の変更については、十分慎重に判断することを求めて、神戸刑務所へ勧告しました。

死刑執行に関する会長声明
2010年(平成22年)7月28日、東京拘置所において2名の死刑確定者に対し死刑が執行された。
 死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会において採択され(1991年発効、1997) 年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し、「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し、2009年1月1日現在、死刑存置国59か国、死刑廃止国138か国(アムネスティ・インターナショナル日本『年報死刑廃止2009』による)と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。にもかかわらず、日本政府は、2007年は4月、8月、12月に各3名、2008年は2月に3名、4月に4名、6月に3名、9月に3名、10月に2名、2009年1月に4名、7月の3名の合計31名に対し死刑を執行した。
しかし、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、わが国の死刑制度の問題が端的に示された上、死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され、同年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択され、さらに、2008年5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では、わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され、政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも、同年10月15日、16日の両日には、国際人権(自由権)規約委員会により、わが国の人権状況に関する審査が行われ、その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。
そして、同年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行停止を求める決議が、2007年を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
このような死刑を必要としない潮流の中、わが国がなすべきは、国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり、死刑の執行を急ぐことではない。
 当会は、1996年5月18日、憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い、死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し、それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また、2008年9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し、死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて、この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず、広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて、2009年5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性はますます高くなっているといわなければならない。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2010年(平成22年)7月29日
兵庫県弁護士会会長乗鞍良彦

死刑執行に関する会長声明
本日、大阪拘置所において2名、東京拘置所において1名、計3名の死刑確定者に対し死刑が執行された。  死刑については、死刑廃止条約が1989年12月15日の国連総会において採択され(1991年発効、1997) 年4月以降毎年、国連人権委員会(2006年国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い、その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し、「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑の完全な廃止を視野に入れ、死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し、2008年7月1日現在、死刑存置国56か国、死刑廃止国141か国と、死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかであるにもかかわらず、日本政府は、2007年は4月、8月、12月に各3名、2008年は2月に3名、4月に4名、6月に3名、9月に3名、10月に2名、2009年1月に4名の計28名に対し死刑を執行した。
しかし、2007年5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、わが国の死刑制度の問題が端的に示された上、死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され、同年12月18日には、国連総会本会議において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択され、さらに、2008年5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では、わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され、政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも、同年10月15日、16日の両日には、国際人権(自由権)規約委員会により、わが国の人権状況に関する審査が行われ、その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。そして、同年12月8日の国連総会本会議において、死刑執行停止を求める決議が、2007年を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
このような死刑を必要としない潮流の中、わが国がなすべきは、国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり、死刑の執行を急ぐことではない。
 当会は、1996年5月18日、憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い、死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し、それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また、2008年9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し、死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて、この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず、広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて、本年5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっているといわなければならない。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2009年(平成21年)7月28日
兵庫県弁護士会会長春名一典

消費者庁長官、消費者委員会委員長及び委員の適正な人選を求める会長声明
本年5月29日、消費者庁関連3法案が成立し、この9月にも消費者庁と消費者委員会が設置されることとなった。
日弁連は、1984年10月20日、「消費者の権利確立に関する決議」を行い、そのなかで「バラバラの消費者対策の関連部局を整備統合して消費者保護を最優先課題とする消費者保護庁」実現を求めたところであり、消費者庁の設置は、縦割り行政による弊害を防止し、消費者被害を予防するとともに、消費者の権利を擁護するために消費者行政が大きな第一歩を踏み出したものと高く評価することができる。
また、消費者委員会は、消費者庁から独立した第三者機関として、企画立案段階では、基本的な施策に関する重要事項について調査・建議する権限、資料の提出要求等権限、基本方針を定める際の意見聴取権限・議決権等が認められ、執行段階においても、勧告・報告徴収権限や意見聴取権限等が認められている。かかる権限が与えられている趣旨に鑑みれば、消費者委員会には、消費者保護の観点から消費者保護行政を実質化させ、その機能が後退することのないよう、消費者行政全般の監視機能を果たすことが求められている。
そして、このような消費者庁と消費者委員会に息を吹き込む役割を担うのは、そのトップである消費者庁長官であり、消費者委員会委員長及び委員である。消費者庁と消費者委員会の機能を実効性あるものとするためには、消費者庁長官、消費者委員会委員長及び委員の人選が何よりも重要である。だからこそ、消費者庁及び消費者委員会設置法において、委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた識見を有する者のうちから任命する」と規定(同法第10条)されているのである。
そこで、当会は、消費者庁長官の選任にあたっては、消費者の権利擁護の観点から消費者行政のイニシアティブを発揮し、他の省庁に対しても毅然とした態度で臨むことができる人物を選任することを求める。また、消費者委員の選任にあっても、知名度等にこだわることなく、これまで消費者の立場から長年に亘り消費者問題に積極的に取り組んできた消費者団体関係者・弁護士・学者等から選任すると共に、消費者委員会委員長は、政府等の意向にとらわれず、各委員の自由な判断によって互選されることを求める。併せて、このことを担保するためにも、各設立準備参与会の段階から議事の傍聴を認め、議事録は顕名で公開されることを求めるものである。以 上2009年(平成21年)7月23日
兵庫県弁護士会 会長 春 名 一 典

生活保護における母子加算の復活を求める会長声明
政府は、生活保護の母子加算を2005年(平成17年)4月以降段階的に削減し、本年4月に完全に廃止するに至った。母子加算は1949年(昭和24年)に設けられ、不十分ながらも母子世帯の生存を支え続けてきたものであり、母子加算の廃止は、最後のセーフティネットである生活保護基準の切り下げにほかならない。
 母子加算の廃止は、「保護世帯の消費支出額が一般母子世帯より高い」ことを理由としている。しかし、政府の2006年(平成18年)母子世帯等実態調査によれば、母子世帯の年収は平均171万円であり、一般世帯の4割にも満たない。また母子世帯の就労率は約84%と諸外国よりも極めて高く、その多くは低賃金かつ不安定な非正規雇用で就労しており、「ワーキングプア」の典型とされる。このような現状に照らせば、子育て支援や就学援助などのセーフティネットを拡充し、一般母子世帯の生活水準を底上げすることこそが求められているのであり、母子加算を廃止するのは本末転倒である。
しかも、わが国における、ひとり親世帯の子どもの貧困率(2005年(平成17年))は、OECD 加盟25カ国平均21.0%を大きく上回る57.9%とトルコに次ぐ第2位の高率になっており、極めて深刻化している。貧困連鎖を断ち切ることが社会的課題となっている昨今、母子加算の廃止はそれに逆行するものであり、このような実態は、すべての子どもが社会保障を受ける権利の完全な実現を達成する責務を国が負うとし、また、子どもの健全な発達のために相当な生活水準を確保する権利を全ての子どもが有すると定める「子ども(児童)の権利に関する条約」に明らかに違反している。
 日本弁護士連合会は、2006年(平成18年)10月、第49回人権擁護大会において、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択し、国に対し、「生活保護の切り下げを止め、基礎年金額の引き上げや生活保護法の積極的適用などにより社会保障の充実を進めること」を求め、2008年(平成20年)11月には、生活保護法8条を改正して全国民の代表である国会が保護基準を定めるよう提言するとともに、このような民主的コントロールを受けることなく削減・廃止された老齢加算及び母子加算を復活させることを強く求めた。
 当会も、2007年(平成19年)11月、「生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人だけでなく、わが国の低所得層の生活全般に直ちに影響を及ぼす極めて重大な問題であるから、生活保護基準に関する議論は十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。」との会長声明を発したところである。
 折から、国会では、野党4党の共同提案による母子加算復活法案が提出されているが、保護基準の決定を民主的にコントロールする観点からもその第一歩として評価すべきである。
以上のことから、当会は、政府に対し、母子加算の復活を強く要望するものである。
2009年(平成21年)6月18日
兵庫県弁護士会会 長 春 名 一 典

「海賊対処法案」に反対する会長声明
政府は、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案(以下「海賊対処法案」という)を、今通常国会に提出し、同法案は、4月23日に衆議院で可決され、今後は、参議院において審議されることになる。同法案は、海賊行為に関する罪を定めたうえで、海上保安庁に海賊行為への対処をさせるとともに、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得たうえで自衛隊に海賊対処行動を命ずることができるとする一方、自衛隊が海賊対処行動を行う海域は、単に「海上」とされていて限定はなく、さらに、自衛官及び海上保安官に停船射撃等の武器使用を認めようとするものである。
しかし、この海賊対処法案は、以下のとおり、憲法に抵触する疑いがあると言わざるを得ない。
1 同法案は、領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を遙かに超えて、自衛隊の活動地域を公海にまで拡張し、また、自衛隊による海賊対処行動の対象を日本船舶だけでなく外国船舶を含む全ての船舶に対する海賊行為にまで拡大し、しかも、恒久的に自衛隊の海外派遣を容認するものである。そして、このような自衛隊による海外での活動に伴う武器使用について、従来から海上警備行動に際して自衛隊法で認められていた警察官職務執行法第7条に定める武器使用の範囲を超えて、「海賊」からの発砲がなくとも、「海賊」船舶の進行を停止させるための先制攻撃的な危害射撃を行うことを容認している。
この結果、同法案によれば、自衛隊の活動領域が、わが国の領海から一挙に世界中の公海へと無限定に拡大し、しかもその活動に伴った武器使用の範囲も拡大することで、憲法9条で禁止されている武力による威嚇、武力の行使に至る危険性も一挙に現実化し、憲法9条に抵触するおそれがある。
そもそも海賊行為等は、本来警察権により対処されるべきものであり、海賊行為抑止のための活動は、警察権行使を任務とする海上保安庁によるべきであって、憲法9条の下で活動が規制されている自衛隊が、警察活動を理由として、その行動範囲を拡大することは軽々に許されるべきことではない。
 本来、憲法9条の下での自衛隊の活動は、「自衛のため」に限定されており、安易に海外で武力行使に至るおそれのある活動を容認することは、自衛隊の海外活動における制約をなし崩しにしていくものであり、憲法9条に抵触するおそれがある。今一度、日本国憲法が、先の大戦の尊い犠牲のうえに、憲法9条を制定したことを思い起こすべきである。
2 しかも、自衛隊の海賊対処行動の「海上の区域」、派遣する「自衛隊の部隊の規模及び構成並びに装備並びに期間」など、その内容を防衛大臣と内閣総理大臣の判断のみで決定することとし、国会へは事後報告で足りるとしている。
しかも、「急を要するときは」防衛大臣が「必要となる行動の概要」を内閣総理大臣に通知すれば足りるとなっている。この結果、国会を通じた民主的コントロールのみならず、内閣による自衛隊活動へのコントロールすら及ばないことになる。これは、国民主権、民主主義を不当に軽視するものである点で看過できない重大な問題である。
 海賊行為等は、深刻な国際問題であり、ソマリア沖の問題について国連安保理決議がなされているなど、問題解決のために、国際協力が重要であることは明らかである。しかし、わが国が今、海賊対策としてなすべきことは、日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり、問題の根源的な解決に寄与すべく、関係国のニーズに配慮しながら人道・経済支援や沿岸諸国の警備力向上のための技術指導などの非軍事アプローチを行うことである。
よって、当会は、海賊対処法案に反対するものである。
2009年(平成21年)5月22日
兵庫県弁護士会会長 春 名 一 典

死刑執行に関する会長声明
本年1月29日,東京拘置所において1名,名古屋拘置所において2名,福岡拘置所において1名,計4名の死刑確定者に対し死刑が執行された。
 死刑については,死刑廃止条約が1989年(平成元年)12月15日の国連総会において採択され(1991年(平成3年)発効),1997年(平成9年)4月以降毎年,国連人権委員会(2006年(平成18年)国連人権理事会に改組)は「死刑廃止に関する決議」を行い,その決議の中で日本を含む死刑存置国に対し,「死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに,死刑の完全な廃止を視野に入れ,死刑執行の停止を考慮するよう求める」旨の呼びかけを行った。
このような状況の下で死刑廃止国は着実に増加し,2008年(平成20年)7月1日現在,死刑存置国56か国,死刑廃止国141か国と,死刑廃止が国際的な潮流となっていることは明らかである。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,わが国の死刑制度の問題が端的に示された上,死刑執行をすみやかに停止すべきことなどが勧告され,同年12月18日には,国連総会本会議において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議が圧倒的多数で採択された。さらに,2008年(平成20年)5月の国連人権理事会第2回普遍的定期的審査では,わが国における死刑の執行の継続に対する懸念が多数表明され,政府に対し死刑執行の停止が勧告された。しかも,同年10月15日,16日の両日には,国際人権(自由権)規約委員会により,わが国の人権状況に関する審査が行われ,その審査の中で特に死刑制度の現状に対する深刻な懸念が示された。そして,同年12月8日の国連総会本会議において,死刑執行停止を求める決議が,2007年(平成19年)を上回る圧倒的多数の賛成で採択された。
 以上のような死刑を必要としない国際社会の潮流の中,わが国がなすべきは,上記のような国際社会の要請にいかに応えるべきかをも含めた継続的な議論を行うことであり,死刑の執行を急ぐことではない。しかるに,日本政府は,2007年(平成19年)年は4月,8月,12月に各3名の計9名,2008年(平成20年)は2月に3名,4月に4名,6月に3名,9月に3名,10月に2名の計15名に対し死刑を執行した。
 当会は,1996年(平成8年)5月18日,憲法週間記念行事「死刑制度の存続・廃止を巡る『どうする死刑』シンポジウム」を行い,死刑に関し議論すべき様々な問題があることを確認し,それらを取り上げ冷静かつ継続的に議論することの重要性を確認した。また,2008年(平成20年)9月には人権擁護委員会において死刑問題特別部会を設置し,死刑に関する当会内外の議論をさらに活発化すべく活動を開始した。
 死刑制度が国民の間で必要とされかつ許容されているのか否かについて,この問題に関心をもつ人々の間の議論にとどまらず,広く国民的議論がなされることが望まれる。
 加えて,本年から開始される裁判員制度においては,裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることからも,死刑制度全般に関する情報を広く国民が正確に知った上で,死刑制度の存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は,ますます高くなっているといわなければならない。
そこで,当会は,政府に対し,死刑執行の具体的方法,死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか,死刑確定者の処遇,その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに,死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで,死刑の執行を停止することを強く求めるものである。
2009年(平成21年)2月16日
兵庫県弁護士会会長 正 木 靖 子

鹿児島接見国賠請求事件会長声明
鹿児島地方裁判所は、2008年(平成20年)3月24日、鹿児島秘密接見交通権侵害国家賠償請求事件において、原告である鹿児島県弁護士会所属弁護士10名、宮崎県弁護士会所属弁護士1名の全員について、弁護人と被疑者・被告人間の秘密接見交通権の侵害があったとして慰謝料等合計550万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
この事件は、2003年(平成15年)4月に施行された鹿児島県議会議員選挙に際して、公職選挙法違反で刑事責任を追及された被疑者・被告人と弁護人であった上記弁護士らとの接見について、捜査機関が、接見の都度その直後に接見内容に関して被疑者らの取調べを行ったうえこれを供述調書化して刑事公判で合計76通もの供述調書を証拠請求してくるという暴挙に出たため、弁護人である弁護士らが秘密接見交通権を侵害されたとして2004年(平成16年)に提訴していたものである。
この訴訟において、被告国、県側は、秘密交通権は接見終了後には保障されないとか、弁護人が否認の慫慂を行っていたものであるからとか、被疑者らが任意に供述していたものであるから等の理由で接見内容の供述調書化に違法性はない旨主張していたが、同日鹿児島地方裁判所で言い渡された判決では被告らの主張はいずれも排斥されて、取調べにおいて秘密接見交通権の侵害がなされたことを明確に認定し慰謝料等の支払いを命じる判決を言い渡した。
しかしながら、秘密交通権の保護が及ばないとされる例外を認めた点については問題があるところである。
 当会は、弁護人と被疑者・被告人との接見交通権については、「いつでも自由になされ、かつ秘密が保障される」ことが絶対に必要であり、この保障があって始めて被疑者・被告人は安心して弁護人に相談できるので、弁護人との信頼関係が構築でき、弁護権の行使が十全となるとの立場から、秘密接見交通権の確立を訴えてきたもので、この判決を基礎に、今後も秘密接見交通権侵害を許さないための弁護活動実践を行うと共に、これの確立のために全力を傾けることを宣言する。
2008年(平成20年)3月26日
兵庫県弁護士会会 長 道 上 明

少年法「改正」法案に反対する会長声明
法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、2008(平成20)年1月25日、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し、同年2月13日法制審議会総会で同要綱が採択され、答申がなされた。同年3月7日には閣議決定がなされ、法案の審議入りがなされる。この法案のうち、①犯罪被害者等による少年審判の傍聴を可能とすること、②犯罪被害者等による記録の閲覧、謄写の対象範囲を拡大することについては、少年事件手続が少年の更生と再非行防止に果たす教育的・福祉的機能を損なうおそれが強く、当会は、以下のとおり、その法案に強く反対する。①について、法案は、被害者等による傍聴を許す家庭裁判所の判断基準を「少年の年齢及び心身の状態、事件の性質、審判の状況その他の事情を考慮して相当と認めるとき」とし、対象範囲の要件の特定も不明確である。
これでは、少年の健全育成という少年法1条の理念が後退し、少年の更生の観点から相当とは言えない場合でも、被害者等の申し出により、裁判長が審判傍聴を許すという運用になりかねない。
そもそも、少年は言葉による自己表現やコミュニケーションを行う力が十分ではなく、被害者等の審判傍聴により萎縮し、事件の内容や非行時の内心の状態、審判の時点での素直な気持ちなどを、ありのままに話せなくなることは避けられない。少年が、裁判官の問いに対し、十分に答えられなかったり、過度に防衛的な受け答えをしたり、審判の場において表面的な謝罪や反省に終始することも生じるであろう。
そうすると、審判における正確な事実認定や、少年審判の本質というべき要保護性の的確な把握に支障が生ずるばかりか、少年による素直な内心の吐露を前提とした、裁判官らによる少年への教育的働きかけが困難となる。
また、少年審判は「懇切を旨として、和やかに行う」ものとされているが(少年法22条1項)、被害者等の傍聴がなされる場合は、裁判官がその被害者等の心情等を配慮して、従来よりも、少年に対して糾問的な姿勢で接したり、儀礼的、形式的な形で審判指揮を行うおそれがあり、被害者等を意識した審判運営に変容していくのではないかとの強い懸念もある。
 犯罪被害者等による審判の傍聴については、現行制度のもとでも、少年審判規則29条に基づき、裁判所が認める範囲で審判への在席が認められる場合があり、それ以上の規定を設けるべきではない。
②についても、閲覧・謄写の対象範囲を、法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分や社会記録についてまで拡大することには反対である。かかる取扱の変更は、少年の更生に対する影響からみて容認できない。
 今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000(平成12)年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法9条の2)、審判の結果通知(少年法31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用すること及び犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援体制の制度を拡充することである。
以上のとおり、上記①②の改正案については、少年法の理念と目的に重大な変質をもたらすおそれがあるから、当会はこれに強く反対するものである。
2008年(平成20年)3月21日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 道 上 明

少年法「改正」法成立についての会長声明
2008年(平成20年)6月11日、被害者等の審判傍聴を認める少年法「改正」法が成立した。
当会は、2008年(平成20年)3月21日、会長声明を発表し、少年法「改正」法案は、少年法の理念・目的に重大な変質をもたらすおそれがあり、問題点が多いと指摘してきた。にもかかわらず、十分な議論がなされないまま拙速に「改正」法を成立させたことに遺憾の意を表さざるをえない。
そもそも、少年審判は、それ自体が少年の健全育成を実践するための教育の場である。そして、少年審判が真に教育の場であるためには、少年の生い立ち・家族関係などに遡りつつ、少年の真の声を聞いた上で、自身の問題点を考えさせ、自覚させることが不可欠である。しかし、被害者が傍聴している状態で、少年が自分の考えを素直に言えるのか、また少年の生い立ち・家族関係など少年のプライバシーに深く関わる事項を取り上げることができるのかについては疑問があるといわざるをえない。このように考えると、当会が2008年(平成20年)3月21日付会長声明で指摘した問題点は、「改正」法でも依然残されたままである。
この点、「改正」法も、被害者傍聴を認める場合の判断基準として「少年の健全育成を妨げるおそれがないこと」を明記するとともに、被害者傍聴を許すには予め弁護士付添人の意見を聴かなければならず、少年に弁護士付添人がないときは家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしたこと、12歳未満の少年の事件を傍聴対象事件から除外したことなど少年法の理念に一定の配慮をしようとしていることは伺える。
しかし、「改正」法が、少年及び保護者が弁護士付添人を必要としない旨の明示の意思表示をしたときに弁護士付添人の選任を要しないとした点については、少年及び保護者が被害者傍聴の実態を十分理解しないまま回答を行う可能性を考えると、少年の手続保障の観点から問題が大きい。また、12歳未満の少年事件の数を考えると、12歳未満の少年の事件を傍聴対象から外したことが、そもそも「限定」と評価できるのか疑問がある。もとより、被害者保護は重要であるが、少年審判は事件発生から比較的早期に開かれることを予定しており、被害者が十分に心の整理ができていない少年の声を直接聴くことが被害者保護につながるのか疑問があるばかりか、かえって被害者を傷つける事態も生じかねない。被害者の審判傍聴が被害者保護につながるという安易な発想をするのではなく、被害者保護の施策は、長期的・総合的に構築していくべきである。
 当会は、十分な議論がなされないまま、少年法が「改正」されたことに遺憾の意を表するとともに、被害者傍聴の運用は、少年審判の教育的・福祉的機能の重要性を看過することなく、「少年の健全育成」という少年法の理念に基づき厳格に行うべきことを強く求めるものである。
2008年(平成20年)7月10日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

「真にあるべき」消費者庁設置を求める会長声明
日本弁護士連合会は、平成元年の第32回人権擁護大会で消費者庁の設置を求める決議をしたが、この間、後述するように、多発する消費者問題について行政の対応は立ち後れ、むしろ規制緩和政策によって消費者被害は深刻化し増加の一途をたどった。
このような現状のもと、政府は、本年1 月、「消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限を持つ新組織」を発足させることを表明し、「消費者行政推進会議」を設置した。この動きは、政府が、昨年、国民生活センターの廃止縮小を試み、地方の消費者行政予算・人員が一貫して削減されてきた経過に鑑みれば、重要な政策転換となる可能性もある。
 同会議は、6月13日に最終報告書を採択し、「消費者にとって便利でわかりやすい」など新組織がみたすべき6原則をあげ、縦割行政の弊害や産業育成庁の限界をふまえて消費者・生活者の視点に立った行政への転換を図るため、消費者行政を統一的一元的に推進するための強い権限を持った新組織として、消費者庁を来年度に発足させることを提言したが、これが真に実現するならば、消費者被害の予防と救済、消費者の権利の確立に向けた大きな前進である。
 当会は、消費者被害防止と救済という真にあるべき消費者庁が設置され、加えて地方の消費者行政が実効性あるものとなるためには、次の諸点の実現が不可欠であると考え、これを強く求めるものである。
1 国は、消費者被害が多発する分野についての関連法の所管をできる限り消費者庁に移管し、また、共管になる場合には、消費者庁がリーダーシップを取ること等により縦割り行政・すき間行政の弊害を防止して消費者庁が関係官庁に対する指示、勧告その他諸権限及び新規立法の権限を持つような司令塔としての役割を担わせることにより消費者保護政策の行政施策を最優先とすること。
2 消費者庁は、消費者行政の企画・立案の過程で、地方で消費者被害に取り組む消費生活相談員等現場の声に積極的に耳を傾けること等により、必要に応じて、関係省庁への勧告のみならず、許認可の事後的取消等を含む事業者に対する直接の指揮監督権限を積極的に発揮すること。
3 消費者庁は、消費者被害撲滅のために、地方の消費者相談窓口、消費者、事業者、公益通報者からの被害関連情報を一元的に集約し、調査・分析・公表する権限と原因究明機関を持つこと。
4 国は、消費者基本法第2条第1項に唱われている消費者の権利の実現のため、消費者による意見を反映できるように消費者の知る権利を確保し、また、消費者が消費者行政を監督できるシステムを構築する等実効性を担保するための消費者の具体的な諸権利を法律の明文で規定することにより消費者・生活者の視点に立った消費者保護行政を貫徹できるよう立法その他行政施策を進めること。
5 国は、地方行政における消費者行政の人的・物的制度の拡充を図るために必要な予算を確保することにより消費者行政の財政的な基盤を強固にすると同時に、人員、組織の充実をはかるなど、緊急に必要な措置を講ずること。
6 地方公共団体は、消費者の苦情相談が地方消費者相談窓口における助言・あっせん等で適切に解決・救済されるために、地方自治体の相談窓口を拡充し、雇い止めの解消等消費生活相談員の雇用形態を抜本的に見直し、消費者被害救済実務に精通した消費生活相談員を増員し、十分な研修等養成を図ること。
2008年(平成20年)7月10日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

名古屋高裁判決を踏まえて航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明
1 名古屋高等裁判所は、本年4月17日、いわゆる自衛隊イラク派遣差止訴訟において、現在イラクで行われている航空自衛隊による多国籍軍の空輸活動は憲法9条1項に違反するとの画期的な判決をした。
すなわち、判決は、詳細な事実認定のもとで、バクダッドはイラク特別措置法にいう「戦闘地域」に該当すること、航空自衛隊による空輸活動は、多国籍軍との密接な連携の下で、多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域と地理的に近接した場所において、対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装兵員を定期的かつ確実に輸送していること、このような空輸活動は、多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援であり、他国による武力行使と一体化した行動であり、自らも武力行使を行ったと評価を受けざるを得ない、とした。そのうえで、航空自衛隊の空輸活動は、武力行使を禁止し、活動地域を非戦闘地域に限定したイラク特措法に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含んでいると判示した。
本判決は、イラクの状況と航空自衛隊の活動を緻密に認定して上記違憲、違法の結論を導いているものであって、高く評価できるものである。
2 また、本判決は、平和的生存権を「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利」であると位置づけて、憲法上の具体的権利であることを認め、憲法9条に違反する国の行為によって、個人の生命、自由が侵害され又は侵害の危機にさらされた場合等、また、憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には、裁判所に対して違憲行為の差止請求や損害賠償請求などの方法で救済を求めることが可能であると判示している。これは、戦争行為に至る以前に、いわゆる解釈改憲によって、憲法9条違反の状態を既成事実として作り出すことに対しても司法による歯止めをかける可能性を認めるものであり、「法の支配」を貫徹させる点でも画期的な判決として高く評価できる。
3 この判決に対して、総理、一部閣僚、防衛省の高官などが、判決を軽視する発言を繰り返し、本判決の内容を慎重に検討することもなく、航空自衛隊の活動を継続しようとしている。
しかし、このような態度は、「法の支配」の理念を無視するものであり、政府は本判決の重みを直視すべきである。
4 当会は、航空自衛隊の空輸活動の範囲を拡大して、活動を継続することに対して、2006年(平成18年)8月に「航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明」を出し、その中で、航空自衛隊が空輸活動を行う地域が「非戦闘地域」の要件に該当しない可能性が高く、空輸活動の継続は、イラク特措法に違反するとともに、憲法前文の理念や憲法9条に違反すると指摘した。
 今般、上記名古屋高裁判決を踏まえて、当会は、あらためて、政府に対して、空自衛隊について、直ちに派遣を中止し、全面的撤退を行うよう求めるものである。
2008年(平成20年)5月16日
兵庫県弁護士会会長正木靖子

兵庫県弁護士会所属会員に対する業務妨害事件に関する声明
2007年(平成19年)3月26日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
本年3月14日、当会所属会員の法律事務所に、受任している離婚訴訟の相手方男性が押しかけ、応対に出た女性事務職員の顔面を素手で殴って傷害を負わせ、さらに110番通報をしようとしたもう一人の女性事務職員の頭部を所持していた金づちで殴り頭がい骨骨折等の重傷を負わせる事件が発生した。
われわれは、弁護士の業務活動に関して、法律事務所を襲い、事務職員に傷害を負わせるという許し難い行為に対し強い憤りを覚える。
 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とし、国民の正当な権利実現を図る諸活動を日々行っている。このような日常の弁護士の活動により国民の権利が擁護され、法秩序が維持・回復されるのであり、弁護士制度は、法治国家及び健全な民主国家を維持するためになくてはならないものである。弁護士個人の業務活動を妨害する目的でなされた暴力や脅迫は、このような弁護士制度そのものに対する攻撃であり、ひいては司法制度や法秩序に対する悪質な挑戦と言わざるを得ない。暴力的手段による弁護士の業務活動に対する妨害を軽視し、これを放置すれば、司法の一翼を担う弁護士の活動は広範囲にわたって阻害され逼塞し、わが国の司法制度ないし法秩序自体が危殆に瀕することとなる。
かかる認識のもと、われわれは、今回の極めて卑劣で悪質な行為に対して断固抗議し、今後とも弁護士に対する業務妨害行為に対し決して怯むことなく弁護士の使命を貫徹し、法の支配を実現するために、一致団結して闘う所存であることを表明する。

中国残留孤児兵庫訴訟判決に関する兵庫県弁護士会会長声明
2006年(平成18年)12月1日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
本日、神戸地方裁判所は、中国残留孤児兵庫訴訟について、被告国の政策の違法性を認め、被告国に原告65名中61名に対して損害の賠償を命ずる判決を言い渡した。
 中国残留孤児(以下「残留孤児」という)は、国が残留孤児を早期に帰国させる義務を怠り、さらに帰国した孤児の自立を支援する義務を怠ったことにより、「祖国日本の地で、日本人として人間らしく生きる権利」を侵害されたとして、2002年12月の東京地方裁判所への提訴を皮切りに、国家賠償請求訴訟を提起し、現在、全国15の地方裁判所と1つの高等裁判所において残留孤児全体の9割にあたる約2200名が国家賠償請求訴訟を行っており、兵庫県では65名の原告が2004年3月30日に提訴していた。
 一連の訴訟の最初の判決となった、2005年7月の大阪地方裁判所の判決は、不当にも原告らの請求を全面的に棄却した。
しかし、本日言い渡された神戸地方裁判所の判決は、除斥期間の経過により4名についての損害賠償責任を認めなかったものの、国に帰国後の自立支援をする義務を認め、国がその義務の履行を怠ったことを正面から認めたほか、国による残留孤児帰国の妨げとなる違法な措置があったことを認めて、国に損害賠償責任を課したもので、歴史的、画期的なものと評価することができる。
 日弁連は、1984年の人権擁護大会で「中国残留邦人の帰還に関する決議」を採択して国に早期帰国の実現や自立を促進する諸措置を速やかに講じることを求め、2004年3月には、同連合会人権擁護委員会が、国に対して、残留邦人の帰国促進策等の徹底及び帰国者の人間らしく生きる権利を確保するために生活保護に頼らない特別の生活保障給付金制度の創設等の立法措置を講じることを勧告している。
残留孤児は高齢となり、老後の生活や健康に不安を抱えており、これ以上残留孤児に苦難を強いることは許されない。
 当会は、被告国が本判決に対する控訴を断念し、今回除斥期間経過により損害賠償責任が認められなかった原告も含めて、すみやかに残留孤児の生活支援等のための抜本的な救済策の立案と実施を行い、残留孤児の「祖国日本の地で、日本人として人間らしく生きる権利」の実現を図ることを強く求めるものである。

共謀罪新設に改めて反対する会長声明
2006年(平成18年)10月12日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
政府与党は、今国会で「共謀罪」の新設を柱とする「組織犯罪処罰法改正案」の可決成立を重要課題として位置づけている。しかし、「共謀罪」の規定は、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高く、さらに、導入の根拠とされている国連越境組織犯罪防止条約の批准にも不可欠とはいえない。
「共謀罪」とは、長期4年以上の刑を定める犯罪について、団体の活動として共謀した者を、5年以下もしくは2年以下の懲役または禁固に処するというものである。従って、犯罪の実行行為がなくても、関係者の単なる「合意」だけで処罰ができることになり、内心の自由を侵害し、思想・表現自体に対する処罰に限りなく近くなる。近代刑法においては、原則として犯罪の実行行為を処罰するという基本原則が確立しており、人の内心や思想・表現を処罰することは許されないというべきである。
ところが、「共謀罪」の対象犯罪は600以上に上り、重罪に対する例外的措置というよりは、窃盗、傷害などほとんどの犯罪について、未遂にもいたっていない段階で、広く処罰することになる。これは、戦前の治安立法による深刻な内心の自由の侵害、思想言論表現の弾圧への反省から再出発したわが国の基本原則を揺るがし、基本的人権との深刻な対立を引き起こすおそれが極めて高い。このようなことから政府も、既に7年前、国連の条約起草会議で「共謀罪は日本の法原則になじまない」と主張していた。
そもそも、わが国の現行法においては、既に重大犯罪についての予備罪・準備罪などが規定されており、さらに組織犯罪でよく利用される銃の所持に対する処罰規定などもあり、現在でも組織犯罪に関わる重大犯罪について未遂以前の段階での処罰が十分可能である。従って、共謀罪を導入することなく国連越境組織犯罪防止条約を批准することができる。
以上のとおり、わが国の刑事法体系の基本原則に矛盾し、基本的人権の保障と深刻な対立を引き起こすおそれが高い「共謀罪」の新設には、改めて反対する。

教育基本法「改正」に反対する会長声明
2006年(平成18年)9月12日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
政府が提出した教育基本法改正法案及び民主党が提出した日本国教育基本法案は、それぞれ第164回通常国会に上程され、国会閉会により現在継続審議となっている。そして、政府は、今秋の臨時国会で教育基本法「改正」に最優先で取り組むことを明らかにしている。かかる情勢下、兵庫県弁護士会は、以下の理由によりこの両法案に反対するものである。
1 憲法の基本理念に関する重大な問題であるにもかかわらず十分な国民的議論がなされていないこと教育基本法は、前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っているように、日本国憲法の理想を実現するための法律であり、かつ憲法が保障する教育にかかわる基本的人権を実現するために定められた教育法規の根本法である。
 1989年国連で採択された子どもの権利条約は、締結国において、子どもの教育は「人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること。」を指向すべきとしており(同条約29条)、現行教育基本法が、個人の尊厳を重んじ、子どもが基本的自由の保障のもとで学び成長する権利を保障していることは、我が国も批准している同条約と調和している。かかる教育基本法の「改正」は,憲法及び子どもの権利条約の理念や基本原理にもかかわる重要な問題である。
しかるに、政府案も民主党案も、非公開の協議会等で議論されたに過ぎず、国民に対する十分な情報提供はなされず、国民的な議論などは殆どなされていない状態であって、にもかかわらず政府及び民主党が先の国会に両法案を提出したこと自体が、同法の重要性に鑑み,主権者たる国民の意思を軽視するものと言わざるを得ない。
2 両法案は、教育の自由保障を大きく後退させるものであること
教育基本法は、憲法13条に規定された個人の尊厳原理に基づく教育を構想し、教育の自由の保障のもとで、国民一人ひとりが学び、成長する権利を保障し、国の権力的な教育現場への介入に歯止めをかけている。すなわち、現行教育基本法第10条第2項は、「教育は,不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」との同条第1項を受けて、教育行政の役割を、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立に限定している。この規定は、戦前に教育に対して過度の国家統制がなされたことを反省し、教育の自主性尊重の見地から、教育に対する不当な支配や介入を抑止するという歴史的理由のもとに設けられた規定である。
しかるに、両法案は、現行法第10条第2項の規定をあえて削除した。これは教育行政の役割を「条件整備」を超えて、教育内容の決定にまで拡大させる意図があるからとしか考えられない。
さらに政府案は、改正法16条で、教育が「法律の定めるところにより行なわれるべきもの」とし、また、両法案とも政府が「教育振興基本計画」を定めるものとしている。これと両法案が新設しようとしている、教員の養成・研修、家庭教育、幼児教育、学校・家庭・地域住民の連携協力等の規定と合わせて読めば、国が国民の教育全般を管理し、統制することができる制度をめざしていることが危惧される。
3 両法案は、「思想及び良心の自由」(憲法19条)を侵害する事態を招く恐れが強いこと
両法案とも、「わが国と郷土を愛する態度を養う」(政府案)、「日本を愛する心を涵養する」(民主党案)として、いわゆる愛国心について規定したのをはじめ、伝統・文化の尊重、道徳心、公共心など、内心や価値観にかかわることがらについて規定している。政府案は、国が規定するあるべき「態度」を養うことを教育の「目標」とする。
このようなことがらを法律で定めることは、憲法19条、子どもの権利条約14条(「締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。」)によって保障される思想・良心の自由を侵害する事態を招く恐れが強く、決して許されることではない。
4 現行教育基本法の理念を実現することこそが必要であること
政府案について、文部科学省は、子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要があるとしている(文部科学省「教育基本法案について」平成18年5月説明資料)。民主党案について、同党は、「人生のスタート段階における格差問題、いじめや不登校、学力低下の問題、さらには昨今、小中学生をめぐる悲惨な事件」を「教育現場の問題」と位置づけた上で、同じく教育基本法を改める必要があるとする(民主党提出の「日本国教育基本法案」の趣旨説明)。
しかし、ここで指摘されている「教育上の問題点」は、現行教育基本法を「改正」しなければ解決できないものであるのか、現行教育基本法を「改正」することによって解決できるものであるのか,という点について、両法案とも、説得的な説明はなされておらず、教育基本法を「改正」すべき理由は存在しないと言わざるを得ない。
むしろ、かかる問題点は、例えば、経済的格差の拡大により実質的な教育の機会均等(現行法3条)が実現しないことや、高度に競争主義的な教育制度が改善されず個人の価値の尊重(現行法第1条)がともすればおざなりにされてきた実態があることなど、現行教育基本法の理念が十分に実現されてこなかったことに原因がある。
わが国の教育をより良くしていくために必要なことは、「改正」の必要もないままに現行教育基本法を「改正」することなどではなく、むしろ教育基本法がもつ普遍的理念を具体化するための施策を実施することである。たとえば、少人数学級を速やかに義務教育の全学年に行き渡らせることや、わが国が国連子どもの権利委員会から何度も勧告されている「高度に競争主義的な性格」を是正することこそが、現行教育基本法の理念の実践であり、「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」(現行法10条2項)を課された教育行政の義務であり、直ちに実現されなければならない。
 以上の観点から、兵庫県弁護士会は、教育基本法の「改正」を内容とする政府案および民主党案の両案に対して、強く反対するものである。

航空自衛隊のイラク早期撤退を求める会長声明
2006年(平成18年)8月11日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
1 政府は、本年6月20日に、イラク南部サマワに派遣している陸上自衛隊部隊を撤退させることを決定し、マスコミ報道によれば7月17日に同部隊の撤退が完了した。
しかし、航空自衛隊の派遣は継続しており、8月以降には、これまでの活動範囲を拡大して、首都バクダッドやイラク北部のアルビルなどへの空輸を行うことが決められている。
 当会は、政府がイラク復興支援特別措置法(以下「イラク特措法」という)に基づく自衛隊派遣を決定したことに対して、2003年(平成15年)12月12日付で「自衛隊等のイラク派遣に反対する会長声明」を発表して、自衛隊のイラク派遣中止を求めており、今回陸上自衛隊部隊が完全に撤退したことに対しては一定の評価はできると考える。
2 しかし、当会が、自衛隊のイラク派遣に反対した理由は、自衛隊が他国内において武力行使をせざるを得ない事態が発生する危険性が高く、このような事態を招来するおそれがあるにもかかわらず派遣を行うことは、全世界の人々に平和的生存権を認め、紛争の平和的な解決に努めるとした憲法前文の理念や憲法9条に反すること、また、イラク特措法が「自衛隊などの対応措置は非戦闘地域において」実施するとしている基本原則に違反することによる。
3 この観点からすれば、今後も航空自衛隊がイラクにおいて活動し、更に活動範囲を拡大するということは、その対象地域にイラク駐留の多国籍軍にも多数の死者が発生している地域が含まれており、より一層イラク特措法が定める「非戦闘地域」の要件に該当しないことが明らかであるから、同法に違反し,しかも憲法前文の理念や憲法9条に反するものと言わざるを得ない。
したがって、当会は、航空自衛隊の活動範囲を拡大することに反対し、航空自衛隊についても、直ちに派遣を中止し、全面的撤退を行うよう求めるものである。以上

弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に反対する
兵庫県弁護士会
兵庫県弁護士会は、弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に強く反対する。
この制度は、資金洗浄、テロ資金対策として、不動産の売買等一定の取引について、資金が犯罪収益あるいはテロ関連であると疑われる場合に、依頼者本人に通知することなく、警察庁に対して報告する義務を定めるものであり、弁護士の守秘義務の観点から看過できない問題を有している。
すなわち、守秘義務は、弁護士法において、弁護士にとって、権利であるとともに義務であると定められている。そして、このことは、弁護士に相談あるいは依頼する者にとって、秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができることを意味する。秘密が守られないおそれがあれば、依頼者は、弁護士に対して安心して全ての事実を打ち明けることができない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握した上で、適切な処理をすることができず、その結果、相談者は弁護士から適切な助言、弁護活動を受けることができなくなる。
このような観点から、弁護士が業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を侵すおそれのある報告義務を課す旨の立法は、そもそも容認できるものではない。
 2005年(平成17年)11月17日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、報告先である金融情報機関を、従来の金融庁から犯罪捜査機関である警察庁に移管することを決定した。しかし、疑わしい取引が警察庁に報告がなされることになれば、その情報は、マネー・ロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし情報として、警察内部において流用されないとの保証はない。
 一般市民からすれば、マネー・ロンダリング、テロ資金に限らず、弁護士に相談する過程で依頼者の秘密、情報が捜査機関である警察に提供されるという危惧を抱かざるをえなくなる。
このような事態は、国家権力からの独立を保障して国民の適切な弁護を受ける権利を保障しようとする弁護士制度を根幹からゆるがすものである。さらには、国民の法の支配への信頼を根底から揺るがせ、法治主義と民主主義を危うくするものである。
よって、兵庫県弁護士会は、弁護士から警察への依頼者密告制度(ゲートキーパー制度)に強く反対するものである。以上

「教育基本法「改正」法案の今国会成立に反対する会長声明」
2006年(平成18年)5月15日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
今国会(第164回国会)において教育基本法「改正」法案の審議が開始されようとしているが、当会としては、以下の理由により、同法案を今国会で成立させることに反対である。
 第1に、現行教育基本法は、戦前教育への反省から個人の尊厳を重視する理念を打ち出し、前文に「われらは、さきに、日本国憲法を確定し(中略)この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」と明記して、憲法と一体不可分の基本法と位置付けられてきたが、同法案では上記部分が削除されている。百年の計といわれる教育の重要性からして、教育理念の改正を行うのであれば、十分な国民的議論が必要である。しかし、今回の同法案は、非公開の与党教育基本法改正に関する協議会で議論されたに過ぎず、その議事録さえ公開されておらず、国民に対する説明が極めて不十分である。世論の関心も低い現状の下で、急いで見直す必要性があるかどうかは疑問であり、まず国民的議論を先行させるべきである。
 第2に、同法案第2条第5項には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」と規定されている。表現が見直されたとはいえ「国を愛する」という心や態度を国家が強制するのではないかとの懸念は依然として根強い。教育で個人の内心に踏み込むことになり思想・良心の自由を侵すとの意見が指摘されているほか、国旗国歌法の制定時の政府の公式説明に反して教育現場では強制が広がっているとの声もあり、上記の修正ではこれら不安が払拭されたとはいえない。この点でも十分かつ慎重な検討が必要である。
 第3に、教育行政の役割について、現行法第10条では「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備」と限定していたところ、同法案第16条ではこの部分を削除し、代わりに「国は(中略)教育に関する施策を総合的に策定し、実施しなければならない」、「地方公共団体は(中略)その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない」との規定が新設された。本来、教育内容の決定は、国民と教育現場にその多くを委ねられるべきであるとの意見も根強く、最高裁大法廷1976年(昭和51年)5月21日判決においても「国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」とも指摘されているが、この原則が軽視されかねないおそれもある。
 第4に、同法案では現行法第5条の男女平等に関する条文が全文削除されているが、現代社会における男女共同参画の重要性からするとむしろ後退であると評価されるおそれもある。
そもそも、法改正の必要性として、教育現場や青少年の心の荒廃、犯罪の凶悪化・低年齢化などが指摘されているものの、これら指摘の当否が検証されたわけでもなく、またその原因が基本法の内容にあると断じるのも早計である。むしろ現行法に基づく一連の具体的な教育施策が十分になされてきたのかがまず見直されるべきであろう。
 今回の改正法案につき幅広い視野で十分かつ慎重な検討を行うとともに、国民的議論の深化を図るべきであり、今国会で改正法案を成立させるのは相当ではない。以上

共謀罪の新設に反対する会長声明
2006年(平成18年)4月20日
兵庫県弁護士会 会長 竹本 昌弘
報道によりますと、与党は今月21日から「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下、「本法案」という)の修正案に関する審議入りを決定し、今国会での成立を期そうとしています。
 本法案は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下、「国連条約」という)に基づき国内法化を図るものとして2003年の通常国会から審議されてきたものですが、いわゆる「共謀罪」の新設を含むことから、日弁連を初め当会も昨年7月21日及び10月6日の2度にわたり会長声明を発し、強く反対してきました。
 報じられている修正案では、第一に、適用対象の団体を「その共同の目的が罪を実行することにある団体である場合に限る」とする、第二に、「行為」を「犯罪の実行のためにする行為」や「犯罪の実行のために資する行為」として、何らかの準備行為を要件として加える、とされています。
しかしながら、第一の点については、ここにいう「団体」は、恒常的な組織のみを意味するわけでなく、一時的に形成された複数人の集まりをも含むと解される余地もあります。従って、例えば市民団体にも共謀罪が適用されることになりますから、国連条約が取締りを求めるマフィアなど組織的な犯罪集団に限定されません。また、第二の点については、何らかの準備行為を加えるとしても、それは共謀罪の成立を立証するために証拠が必要だという当然の理を述べたにすぎず、何ら、共謀罪の成立範囲を限定したことにはなりません。 このように、修正案も、共謀罪を限定したものとは到底言えません。
また、(1)共謀罪が導入されると、犯罪捜査においても、広範囲の盗聴やメールの傍受などが必要になり、取調べにおいても自白強要の傾向が強まり、人権侵害の頻発、警察が市民生活の隅々まで入り込む監視社会をもたらす危険がある、(2)自首による刑の減免が規定されることから密告などの風潮も強まりかねないなどの、当会の2度の声明で指摘した問題点も、全く解決されていません。
このように、本法案は、仮にこのように修正しても、思想信条の自由など重要な基本的人権を侵害し、自白強要の取調方法が強まり、監視社会を招くなど、市民生活にとって重大な脅威になるものであり、当会は、強く反対します。

ゲートキーパー立法に反対する会長声明
2006年(平成18年)1月18日
兵庫県弁護士会 会長 藤井 伊久雄
当会は、弁護士に対して、一定の取引に関し疑わしい取引を警察庁に報告する義務を課す、いわゆるゲートキーパー立法に強く反対する。
 2005年(平成17年)11月17日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、弁護士などに対しても一定の取引に関して犯罪収益またはテロ関連が疑われるものについて報告義務を課すFATF(OECD加盟国を中心とする政府間機関である金融活動作業部会)勧告の完全実施、ならびに報告先である金融情報機関(略称FIU)を警察庁とすることを決定した。
この制度は、資金洗浄、テロ資金対策として、不動産の売買等一定の取引について、資金が犯罪収益あるいはテロ関連であると疑われる場合に、警察庁に対して報告する義務を定めるもの(ゲートキーパーは「門番」を意味する)であるが、弁護士の守秘義務、国家権力からの独立という観点から極めて重大な問題を有している。
 守秘義務は、弁護士法において、弁護士の権利であるとともに義務であると定められている。それは弁護士の業務の重要性に鑑み、その適切な遂行を制度的に保障するためのものである。弁護士に相談あるいは依頼する者にとって、秘密が守られるからこそ全ての事情を弁護士に対して説明することができるのであって、秘密が守られない虞があれば、依頼者は、弁護士に対して安心して全ての事実を説明することができない。そうなれば、弁護士は事実関係の全容を把握できず、適切な処理ができないこととなり、相談者は弁護士から適切な助言、弁護活動を受けることができなくなってしまう。
このような観点から、弁護士が業務を行う上で最も重要な義務の一つである守秘義務を侵すおそれのある報告義務を課す旨の立法は、そもそも容認できるものではない。
さらに、今回予定されている制度は、報告先である金融情報機関を、犯罪捜査機関である警察庁とするものである。従前の構想では報告先は金融庁とされていた。金融庁が報告先である場合は、同庁において資金の流れが適切か否かを検討、判断し、当該取引がマネーロンダリング等に該当すると判断した場合に、捜査機関に対して情報を提供することになる。ところが、疑わしい取引が警察庁に報告がなされることになれば、その情報は、マネーロンダリング等に限定されず、それ以外の犯罪についての捜査の端緒ないし捜査中の事件に関する情報として、警察内部において流用されないとの保証はない。
 一般市民からすれば、マネーロンダリング、テロ資金に限らず、弁護士に相談する過程で依頼者の秘密、情報が捜査機関である警察に提供されるおそれを生じることになる。
このような事態は、弁護士の国家権力からの独立を保障したうえで国民の適切な弁護を受ける権利を保障しようとする弁護士制度の根幹をゆるがすものである。
当会は、人権擁護と社会正義実現の観点から、このようなゲートキーパー立法に強く反対するものである。以上

有事法制法案に反対する声明
2002年(平成14年)5月16日
兵庫県弁護士会 会長 藤野 亮司
2002年(平成14年)4月17日、政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国民及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」を上程した(以下「有事法制3法案」という。)。
そして、4月26日衆議院本会議において趣旨説明がなされ、各党からの代表質問がされ、特別委員会における審議が本格的に開始される状況にある。
 日本弁護士連合会は、4月20日の理事会において、憲法原理に照らし、有事法制3法案には、重大な問題点と危険性が存在するとして、同法案に反対し、同法案を廃案にするように求める旨の決議を採択し公表した。
 当弁護士会も、以下の点からみて、同法案には憲法上看過できない疑義が存在すると考える。
1.「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており、その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能である。
2.いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると、陣地構築、軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用、軍隊・軍事物資の輸送、戦傷者治療等のための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済等の市民生活・経済活動の規制などを行うことにより、市民の基本的人権を大きく制限することとなる。しかも、取扱物資の保管命令違反に対しては、6月以下の懲役、立入検査権拒否、妨害等に対しては20万円以下の罰金が科されるなど、刑罰による強制も規定されている。これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理に背反する重大な危険性を有する。
3.「武力攻撃事態」という曖昧な概念の下で自衛隊による武力行使や部隊の活動を円滑・効果的に行なうための措置を広く認めるこれらの法案は、憲法前文や憲法9条の定める平和主義、戦争放棄、戦力の不保持及び交戦権否認の規定に抵触するのではないかとの重大な疑念がある。「武力攻撃事態」が周辺事態法に定められた米軍の軍事活動に対する自衛隊の後方地域支援活動等に際して発生した場合、自衛隊の米軍との共同行動は、政府見解でも違憲とされている「集団的自衛権」の行使にさらに大きく踏み込むこととなるおそれが強い。
4.武力の行使、情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し、その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは、行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し、また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し、憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ、民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。なお、対処措置に関する重要事項等を定める「対処基本方針」につき、国会の承認を求めなければならないとされてはいるものの、承認をなすべき期間は定められておらず、国会による修正権限や承認後における濫用抑制権限の存否も明確ではない。
5.日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし、これらに対し、「必要な措置を実施する責務」を負わせ、内閣総理大臣が、対処措置を実施すべきことを指示し、実施されないときは自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより、政府が放送メディアを統制下に置き、市民の知る権利、メディアの権力監視機能、報道の自由を侵害し、国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。
このように、有事法制3法案は、武力又は軍事力の行使を許容するための強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ、平和原則への抵触のおそれだけでなく、憲法が予定する民主的な統治構造を変容させ、地方公共団体、メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権、直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより、国家総動員体制への道を切り開く重大な危険性を有するものである。
したがって、当弁護士会は、有事法制3法案には、上記の重大な問題が存在し、憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理に反する重大な危険性を有する点で、国民の基本的人権や生活に重大な影響を及ぼすことを懸念する。また、有事法制の必要性及びその内容については、国民の間にも様々な意見が存するところであり、主権者である国民一人一人がその点について慎重に見極めることができるよう、広く国民的な議論を尽くした上で国会に上程するべきであり、今回の法案の国会上程は、拙速であると考える。
 特に、兵庫県には、神戸港という全国でも有数の港湾を擁し、その利便性が大きいことを考えると、ひとたび「武力攻撃事態」との認定がなされれば、神戸港が軍事目的に利用される可能性が大きい。このような軍事目的の利用を規制するために、神戸港の利用に関しては、1975年3月に神戸市会が全会一致で「核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否に関する決議」(いわゆる非核神戸方式)を採択しているが、神戸におけるこのような平和憲法の理念を実践してきた歴史に鑑みても、有事法制3法案をこのまま見過ごすことはできない。
よって、当弁護士会は、有事法制3法案の重大性、危険性に鑑み、同法案の問題点を国民に明らかにするとともに、国民が十分に議論する機会が保障されないままでの同法案の成立に反対するものである。

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案に関する会長声明
2002年(平成14年)3月29日
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
政府は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(仮称)案」を今国会に上程しようとしている。
この法案は、殺人、放火、強姦、強制わいせつ、強盗、傷害にあたる行為(以下「対象行為」という。)を行った心神喪失又は心神耗弱であると認められた者で、不起訴処分とされた者或いは無罪の裁判又は有罪の裁判が確定した者について、検察官は、「継続的な医療を行わなくても対象行為の再犯を行うおそれが明らかにないと認められるときを除き」裁判所に対して審判開始の申立をしなければならず、そして、その審判手続で、「再犯を行うおそれがあると」認められた場合には、入院又は通院させて医療を受けさせるというものである。これは、刑事手続を終えた精神障害者に対し、さらに、「再犯のおそれ」という治安維持の観点から、拘禁の可否等の処遇を決定することを認めようとするものと言わざるを得ない。
そもそも、人身の自由は何人に対しても保障されるべき基本的人権の一つであり、その制限に対しては特に慎重でなければならない。もとより犯罪から社会の安全が守られなければならないことは言うまでもないが、だからと言って、その法益の保護ために人身に自由に対する制限が直ちに許されるわけではない。しかし、政府案は、「再犯のおそれ」という極めて不明確な要件によって、精神障害者を社会から隔離することを目指そうとするものであり、人権侵害の可能性が大きいことは否定し得ない。
また、処遇の決定は、裁判官1名と精神科医1名の合議体で判断されるというが、医学的に「再犯の可能性」を判断することは不可能と言うべきであり、それ故に社会防衛的観点を重視しがちな裁判官の判断が優位に立つ可能性が高い。このことを考えれば、今回の政府案は、過去に日弁連が反対し廃案となった「改正刑法草案」の保安処分と同様の問題をはらんでいる。
 日弁連は、「改正刑法草案」が問題となった1970年代以降、時として起こる精神障害者による不幸な事件の発生を効果的に防ぐためには、日本の貧困な精神医療の改善こそが必要であることを繰り返し主張してきた。精神障害者が、医療機関で人として遇され、そして、地域社会の一員として生活できる状況が作り出されるよう医療的福祉的なサポートを行うシステムの構築こそが政府に強く求められるのである。しかし、政府は、真に必要とされるこうした施策には着手しようとせず、あえて極めて問題のある内容の法案を上程しようとしている。その態度は、問題の根本的解決を先送りするものであり、極めて政治的な思惑に基づくものと言わざるをえない。
 以上のとおり、当会は、精神障害者に対する重大な人権侵害の可能性がある政府案に強く反対し、真の問題解決のための、国会における、医療、福祉、社会政策、そして司法を含めた多角的観点からの議論の展開を求めるものである。

人権擁護法案に対する意見書
2002年(平成14年)3月28日
衆議院議長 綿貫 民輔 殿
参議院議長 井上 裕 殿
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
同人権擁護委員会 委員長 高橋 敬
人権擁護法案に対する意見
第1、はじめに
2001年5月25日に人権擁護推進審議会が「人権救済制度の在り方について」の答申(以下「答申」という。)を出し、これに基づき2002年1月30日、法務省が新たな人権救済機関として「人権委員会」の新設を盛り込む「人権擁護法案(仮称)の大綱」(以下「大綱」という。)を発表され、同年3月8日、「人権擁護法案」が閣議決定され(以下「人権擁護法案」ないし「法案」という)、今国会での成立並びに2003年5月ないし7月の人権委員会発足が目指されています。
これに対し、日本弁護士連合会は、上記答申に対して2001年12月20日に「人権擁護推進審議会の『人権救済制度の在り方について』の答申に対する意見の提出について」と題する総括的な意見書を提出されており、さらに上記法案に対して2002年3月15日理事会決議にて「独立性の保障がない」等の理由で反対の意思を表明されています。
 当会も、上記日弁連意見書及び理事会決議に賛同するものでありますが、とくに今般、当会独自の意見書を提出する趣旨は、
(1)当会が、戦後長年にわたり地元兵庫県下において地域密着型の人権救済活動を継続してきた経験に基づき、民間団体である弁護士会の人権救済活動の実態、特にその特徴と限界をここに改めて考察し、今般、新たに創設されることが予定されている「人権委員会」は弁護士会人権救済活動の特徴は活かし、限界は克服する体のものであるべき、との願いを込めて、(2)あわせて、(1)に関連して、そもそも今般、何故、新しい国内人権救済機関の創設が求められているのか、その由縁を再確認し、とくに1991年国連人権委員会で決議され、1993年国連総会でも採択された「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」が定立されるまでの経緯を振り返り、パリ原則が求めるあるべき国内人権機関像が今回の法案に本当に適切に反映されているか、という観点からの真摯な対応を求めたい、という意味で、真に求められる新しい「人権委員会」の在り方について、意見を申し述べるものであります。
第2、意見
上記観点に立って本意見書において申し述べる意見は、以下のとおりです。
1、民間団体である弁護士会の人権救済活動の特徴と限界の観点から
(1)特徴-民間性、独立性、専門性、自発性
わが国の国内人権救済機関としては、法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度の外に、日本弁護士連合会や各地弁護士会の人権擁護委員会、放送メディアによる人権侵害の苦情を受け審理し当事者に対し勧告・見解を提示・公表している「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」などの民間団体があります。
 民間団体である弁護士会は、各都道府県に置かれた単位会ごとに人権擁護委員会を設置しており、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命として、市民からの申立を待って、あるいは弁護士会自らの判断で調査を開始し、在野法曹である弁護士が委員となって自ら直接調査に当たり、国際人権規約等の人権国際基準に配慮した事実認定と法的判断を行い、人権侵害の事実を認定した場合は、加害者に対し、警告、勧告、要望等の措置を取り、マスコミの協力により警告等を公表して世論喚起ないし人権啓蒙を行うという、無償の救済活動を展開しています。
そして、近時はその社会的認知度が高まり、兵庫県レベルで年間30~40件の人権救済申立を受けて具体的調査活動を行っています。
また、弁護士会は、必ずしも市民からの申立を待たず、時の重要課題について自発的に調査を開始する場合もあり、当会では、1997年3月に「阪神淡路大震災と応急仮設住宅」と題する調査報告と提言を行いました。
(2)限界
しかし、同時に、弁護士会の人権救済活動には、前述の特徴と裏あわせの形で限界が存在します。
すなわち、民間団体である弁護士会人権擁護委員会活動の最大の限界は、調査対象者の協力義務を伴った強制的な調査権限がないことであります。そのため、とくに警察、刑務所、拘置所、入国管理局等の公的機関等が相手方とされる事案においては、直接の加害行為者とされる者との面談調査を求めても常に拒否され、各種照会をしても上司ないし広報部門による間接的、形式的な回答がなされる程度であり、これでは具体的事実を認定して真実を究明し市民の人権を擁護し、正義を実現すべき使命に鑑み、極めて不十分というほかなく、まさに遺憾の極みであります。
その他の限界としては、委員が個人としての弁護士業務と兼務であり、予算も報酬も専属スタッフもなく、警告等に法的拘束力もない等の限界があり、その意味で、弁護士会人権擁護委員会もパリ原則が求める実効的な国内人権救済機関とは言えないというほかありません。
(3)かかる観点に照らし、今回新たに創設される人権委員会は、弁護士会が従来とくに苦汁を飲んでまいりました、公的機関の協力義務を伴った強制的な調査権限の不存在という限界を克服しつつ、他方で、弁護士会が市民の人権救済に一定の役割を果たし得てきた由縁であるところの民間性、政府からの独立性、人権救済経験を積み憲法・国際人権法等に通じた法律家委員による直接調査、積極的調査提言機能などといった特徴は取り入れるべきであると考えます。
2、今、新しい国内人権救済機関が希求される由縁
 当会が、実体験的に希求する上記「人権委員会」のあるべき姿は、以下に述べるとおり、戦後の人権救済機関創設に関する国際的な潮流とも軌を一にするものであります。
(1)世界の潮流
 国連は、第2次大戦中のドイツにおけるユダヤ人虐殺等、歴史上稀に見る人権侵害は各国内的には合法的に行われたという反省の下に、すべての人の権利と尊厳を保障するための、人類に共通した普遍的な価値基準を作り上げ、その基準の遵守を、各々の国のレベルを超えた、全人類的な約束事として広めていくとの考えに立って、1948年に「世界人権宣言」を採択し、以後、1966年に採択された「国際人権規約」をはじめとして、1989年採択の「児童の権利条約」に至るまで23もの人権関係条約を採択してきました。
そして、国連は、1990年代に入ってから、これらの条約によって合意された人権の内容を、いかに各国内的に実現するか、を検討するようになり、1993年12月、「国内人権機関の地位に関する原則(「パリ原則」)」を採択し、国内人権機関のあるべき姿を示しました。
そして、「パリ原則」は、人類普遍の原理である基本的人権の実現、人権侵害に対する実効的救済を図れることができるよう、国内人権機関の主な機能として、[1]人権侵害・差別からの救済、[2]政府・議会に対する人権政策の提言、[3]人権教育・広報活動の連絡調整を挙げ、これらの機能を実効的に果たすために、[1]機関構成員は社会の多元性を反映するよう選出し、[2]任期を明確に定め、[3]独立した財源を持つなど、機関としての独立性の確保及び権限の強化がなさるべきことを求めました。
これを受けて、世界の諸国において、政府からの独立性の確保、対象者の義務付けを伴った調査権限の強化、政策提言機能などをもった国内人権救済機関の整備が進んでいます。
(2)わが国の状況-法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度の問題点
一方、わが国の人権擁護全般を担っているのは法務省の人権擁護行政と人権擁護委員制度であるところ、人権擁護行政を所掌している法務省人権擁護局及びその出先機関である法務局・地方法務局・支局の職員は戸籍、登記業務に従事する者との兼務が多く、同局の幹部職員は検察官で充当されており、前記のとおり国や行政による人権侵害もありうる状況の中で、人権擁護の仕事が行政から独立しておらず、行政自体の中に位置づけられていることは、市民の人権保障という視点からは問題であると言わざるを得ません。
また、人権擁護委員制度は、国の人権擁護行政を補完するものとして、全国で約1万4000人が議会の同意を得て法務大臣から委嘱された民間ボランティアとして活動していますが、その平均年齢は60才を超えており、しかも無給であることから名誉職的に委嘱されることが少なくなく、人権侵犯事件の調査処理についても関係者の任意協力による調停機能が中心であり、法的強制力を持った救済措置を持たないことから、人権救済に十分対処できていない現状にあることを否定できません。
このような日本の人権擁護行政の状況を踏まえて、1998年、国連自由権規約人権委員会は、法務省の人権擁護委員制度について、「委員会は、人権擁護委員は、法務省の監督下にあり、また、その権限は勧告を発することに厳しく限定されていることから、そのような仕組み(国内人権機関-引用者注)にはあたらないと考える。委員会は、締約国(日本国-引用者注)に対し、人権侵害の申立を調査するための独立の機関の設置を強く勧告する。」と求め、これを受けて2001年5月、前記答申がなされると、直ちに国連社会権規約人権委員会は、同年8月、「委員会は、締約国が国内人権機関の導入を提案する意向を示したことを歓迎」するとしつつ、「締約国に対し、1991年のパリ原則及び委員会の一般的意見第10号に合致した国内人権機関をできる限り早急に設置するよう要請する。」とさらに注意深く求めるに至っています。
この社会権規約人権委員会の要請は、答申が、新設される人権委員会の組織について、現行人権擁護行政を改編して、従前の人権擁護局を新たに中央に設置される「人権委員会」の「事務局」に改組、法務局人権擁護部を「地方事務所」に改組する構想を示したことから、それでは新しい人権委員会と言っても名ばかりで、従前の人権擁護行政の焼き直しにすぎなくなり、機関としての独立性、権限行使の実効性の確保に危惧を抱いたことを示すもので、まさに今回の答申並びに法案の根本的問題点を指摘するものであります。
(3)かかる経緯に照らし、今回の法案のご審議にあたりましては、今回新設される人権委員会が従前の法務省人権擁護行政の上に人権委員5名を置いただけの形に終わるのではなく、歴史上往々にして人権侵害は各国内的には合法的に行われたという歴史的反省の下に(そして、このことは過去の出来事でもなく、他国のことでもないことは「ハンセン病」問題等を見ても明らかです。)、従前の機構を超えて、人類普遍の基本的人権を実効的に救済できる機構を作り上げるためには何が必要かという原点に常に立ち戻り、機関としての独立性の確保、権限の強化、積極的政策提言機能への真摯な配慮がなされるべきものと考えます。
3、以上の諸観点に鑑みたとき、今般設置される新たな人権救済機関としての「人権委員会」は、次の諸点を満たしたものであることが求められます。
(1)実効的な救済権限行使のための制度的担保をもつこと
人類普遍の原理である基本的人権を実効的に救済できるだけの制度的担保をもった機構であること
(2)公的機関の調査協力義務を明記すること
 そのためには、人権委員会に、調査対象者の協力義務を伴った調査権限が付与されるべきことは、マスコミ事案等別途考慮を要するものを除き、必須の要請であります。とくに公権力による人権侵害事案ではそれなくして真相究明は到底図れるものではありません。
しかるに、この点、法案では、「特別救済手続」として、出頭要求・質問調査権、文書提出要求権、立ち入り調査権を明記しているものの(44条)、それらの権限の実効性確保については、30万円以下の過料の制裁による担保しか規定されておらず(88条)、答申では明記されていた「公的機関の協力義務」の文言が全く抜け落ちています。これは、とくに従前の公的機関の人権侵犯事件調査に対する著しい非協力的対応を回顧したとき、極めて大きな問題であります。国、行政には、憲法99条「憲法尊重擁護義務」からしても国民からの基本的人権侵犯の訴えに対し、直接の当事者による弁明等により事実関係を真摯に説明すべき義務があると考えます。
よって、過料による制裁規定に加えて、「公的機関の調査協力義務」を明記することを強く求めます。
(3)機構上、実効的権限行使が客観的に期待できるシステムを構築すること
 かつ、より重要なことと言って過言ではない点は、人権委員会の体制上ないし運用上も、上記調査権限を遺憾なく実効的に行使することが客観的に期待できるシステムが構築されるべきことであります。
そのためには、以下の事項が実現されることが必要であります。
ア、独立性の確保
[1] 内閣府の外局とするべきこと
法務省管轄下の刑務所、拘置所、入管等は、人権侵害の加害者側として申し立てられることも多いのが実情ですが(2000年度の当会に対する兵庫県下の救済申立件数40件中、7件)、それだけに人権委員会を、同じ「法務大臣の所轄に属する」(5条2項)とするのではなく、少なくとも内閣府の外局にするべきであり、
[2] 事務局及び地方事務所職員の独立性と多元性を確保すること
答申では、従前の法務省人権擁護局の事務局をそのまま改組して人権委員会事務局とするとしており、法案では、事務局職員の構成について「弁護士となる資格を有する者を加えなければならない」(15条2項)と規定するのみで、それ以上に明確な規定を置かず、むしろ、「人権委員会は地方事務所の事務を地方法務局長に委任することができる」(16条3項)と規定していますが、これは以下の観点から十分ではなく、事務局ないし地方事務所職員には弁護士のみならず、人権救済活動経験を積んだ民間の人権NGOや学者、医者、カウンセラー、自治体職員等からの採用もできるよう規定を整備すべきであります。
そもそも人権侵犯事件の多くは各地方で発生します。
法案では、人権委員は全国で5名(しかも3名は非常勤)しか選任されませんので(8条)、各地方の人権侵犯事件の調査は地方法務局長に処理を委任する外ないと予想されます。とすると、実際に中央、地方における具体的事件の調査に当たるのは事務局ないし地方事務所職員ということにならざるを得ず、事務局ないし地方事務所職員に独立性と多元性が確保されていなければ、前記調査権限は到底実効的に遺憾なく行使することが客観的に期待できないからであります。この点はいくら強調しても過言ではないと考えます。
そして、事務局ないし地方事務所職員の採用にあたっては、ジェンダーバランスや平均年齢に明確に配慮して、男女はできる限り同数とし、最低限、定年制、年代別選任義務や男女比率の最低遵守義務等に関する具体的基準を定めるべきであります。
当会としましては、この点は「公的機関の協力義務」の明記とともに、本法案における最重要課題と認識しています。
[3] 人権委員の独立性と多元性を確保すること
「人権委員」の選任について、それが事務局の上位者に位置し、人権委員会の最高意思決定機関とされるものである以上、同様に独立性と多元性が確保される必要があり、ジェンダーバランスや年齢層に明確に配慮しつつ(法案では男女一方が2名未満とならないよう努めるとされている〔9条2項〕ことは評価できますが、年齢層にも言及されるべきです)、人権救済活動経験を積んだ民間の人権関係NGOや弁護士、「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」関係者、学者、医者、カウンセラー、自治体職員等からの採用もできるよう規定を整備すべきであります。
[4] 人権擁護委員を有給制とし、選任について推薦委員会の設置、平均年齢、定年制、再任制限、年代別選任義務、男女比率の最低限の遵守義務、外国人の選任を可能にする方策等を盛り込むこと
「人権擁護委員」人選の方法について、法案は、「市町村長が推薦した者のうちから弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いて、人権委員会が委嘱する」(22条)としていますが、答申で「各地の実情に応じた実効的な人選の在り方を追求していくことが適当」としていることを踏まえ、それが名誉職的なものにとどまらず、人権救済のためより実効的な機能を持つためには、地方ごとに、推薦委員会の設置や公募制の採用、各種民間団体との事前協議などの方法を積極的に検討し実現できるような規定とすべきであります。
 年齢層・男女比率・外国人の参加問題についても、答申はそれぞれ、様々な年齢層の者で構成されることが望ましい、半数が女性であることが望ましい、外国人の選任を可能にする方策を検討すべきなどとしていますが、法案にはこれらに関する規定が全く欠けており、これは看過し得ない問題であります。平均年齢、定年制、再任の制限、年代別の均等な選任義務、男女比率の最低限の遵守義務等について、たとえば、平均年齢55才目途、70才定年制、再任は2回(計3期)まで、男女の一方の性が40%をくだらないこと等、具体的な基準を定めることが望ましいと考えます。
ちなみにこの点、当会は、かねて1992年10月20日付神弁発第284号をもって、神戸地方法務局に対して、「原則的に70才を超える委員の委嘱は望ましくなく、又再任の際も、長期在任による意識の弛緩による名誉職化などの弊害を避けるためにも、原則として3期、9年を超える委員の委嘱は望ましくないと考えられます。」との要望を行っております。
また法案は現行の無給制を維持するとしていますが、年齢層の多様化を図り、また日常的・積極的な活動を期待するためには、有給化を採用するのが妥当であります。(さらに有給化だけでなく、自由業以外の者も参加できるよう、企業や団体の理解を得られるような運動も重要です。)
イ、調査権限の実効的行使の観点から、
[1] 人権委員を各地方ごとに選任すること
具体的事件に対応して実効的に調査権限を行使するという観点から、調査を事務局ないし地方事務所に全面的に委ねる運用は適当ではなく、「人権委員」自ら一定の関与をするべきであります。
そのためには、人権委員が委員長以下5名(うち非常勤3名)、東京に置くだけで地方には置かないとの法案では不十分であり、少なくとも各都道府県及び政令指定都市に1名は常勤として選任されるべきであります。 [2] 人権擁護委員にも研修等のうえで特別調査権限も持たせること
仮に、それが困難であるならば、現在、全国に渡り多数選任されており、民間性を有する人権擁護委員が、特別救済手続における具体的調査に関与できるよう手続規定を整備し、現在の啓発活動中心ともいえる人権擁護委員の在り方を変革すべきであります。
この点、法案では、人権擁護委員に、任意調査である一般救済手続事件における調査及び措置権限を付与しているものの(28条5号、39条2項、41条2項)、人権侵犯事件の救済手続の中心となるべき、強制的な調査権限を伴った特別救済手続への関与は全く認めていません(44条2項)。
 人権擁護委員の人選の独立性と多元性を確保し、かつ、専門性という意味で一定の選抜ないし国際人権法等に関する研修等を義務付けた上で、特別救済手続に一定の関与ができるようにすることにより、人権委員会の調査手続に民間性と独立性を注入すべきであると考えます。
[3] 人権委員の調査立会及び事務局の報告義務
また、人権委員会事務局ないし地方事務所が調査に関与する場合でも人権委員、人権擁護委員はできるだけ調査に立ち会い、あるいは少なくとも事務局の人権委員、人権擁護委員に対する個別事件ごとの定期的な報告義務を課すべきであり、
[4] 国際人権法を修得しうる研修の実施
 人権侵害は往々にして国内的には合法的に行われるという過去及び現在の歴史的教訓を踏まえ、事務局、地方事務所職員、人権擁護委員に国際人権規約等に基づく具体的事件の調査活動を想定した事例研修等を課すべきであります。
(4)職権調査及び政策提言機能の積極的行使
ア、前述の「パリ原則」等によって国内人権機関に要請される「職権調査」および「政策提言活動」について、法案では38条3項、20条にて規定されておりますが、今後の運用の問題でもありますが、以下の理由から、かかる権限及び活動の積極的行使が要請されます。
イ、すなわち、パリ原則では、国内人権機関が扱う問題は、単に申立人が申立をした個別事案にとどまらず、「国内人権機関が自ら取り上げることを決めたあらゆる人権侵害の情況」も含むこと、さらに「現行の法律や行政規定」に対しても、「上位機関の照会なしに」意見、勧告、提案および報告をなしうる、という活動をするよう求められており、パリ原則の後、1995年に、国連人権センター(現国連人権高等弁務官事務所)が発行した「国内人権機関人権の伸長と保護のための国内機関作りのための手引き書」(いわゆる「ハンドブック」)においても、「第4部政府に対する助言と援助の任務」として、「諮問なしで意見や勧告を提出できる広範な権限付与が望ましい」「現行法及び提出法案の見直しと新法起草における援助」「一般政策上及び行政上の助言」の項が設けられています。また、「第5部 人権侵害の申立に対する調査の任務」の中にも「3職権による調査」の項が設けられ、人権侵害に関する調査について、申立以外に職権による調査活動も念頭におかれています。
ウ、各国における国内人権機関の規定を見てみると、
・オーストラリア
オーストラリアの国内人権機関である「人権委員会」においては、職権による調査の権限があり、「公開調査」と呼ばれる広範な調査や聞き取りを元に、報告書を作成、司法大臣を通じて議会に提出し、行政に対する提言や法改正の提言を行っています。
・ニュージーランド
同じく、国内人権機関である「人権委員会」では「いかなる法律の制定、または政府のものであれ否であれ、いかなる慣行もしくは手続きを含め、人権がそれによって侵害されると委員会が考えるいかなる問題についても、一般的な調査を行うこと」が権限とされており、差別の申立の処理にとどまらず、人権に関わるあらゆる事柄についての公的声明の発表や調査、立法行政措置(案)に関する提言など、人権問題一般について自らのイニシアチブで行動をとることが認められています。なお、1995年に人権委員会が作成した報告書では、社会保障改正法が人権法違反になるとの見解を出すなど、積極的な活動をしています。
・フィリピン
国内人権機関である「人権委員会」の調査部では、所属する地域事務所もしくは地方事務所に直接寄せられた申立、もしくは新聞、NGOなどの第三者からの情報を受けた場合、人権委員会の管轄圏内であると各事務所の所長によって判断されれば職権により調査を開始する制度になっています。
・イギリス
包括的権限のある国内人権機関はなく、分野ごと独立して活動している委員会が分野・地位別に個別に活動しています。中でも、「人権平等委員会」と「機会均等委員会」は、差別禁止法によって調査権限が与えられています。委員会が違法な差別行為が存在する疑いがあると判断した場合、委員会は公式調査を開始することができます。また、委員会は、設置法である差別禁止法に定められた範囲内において、人権状況の監視や政策提言活動を行っています。設置法に関して必要に応じて見直しを行い、議会に改正案を提出することが任務とされています。
エ、当会が、自主的・能動的調査権限および政策提言活動の重要性を説く理由は、以下のとおりであります。
・現在も残る、法律・行政による人権侵害
つい先頃まで長年にわたり放置されつづけた、ハンセン病に関する「らい予防法」と「隔離政策」の継続は、法律と行政による人権侵害事案でありました。このような、法律や行政による人権侵害は過去のことではありません。残念ながら、我が国では現行法や行政政策の中に、少なくとも「人権侵害の可能性」を含んでいるものが存在すると思われます。身近な例でも、民法中には「非嫡出子の不平等取扱」などの問題があり、行政においても、拘禁施設における拘禁者に対する処遇の問題や、生活保護受給における運用などにおいて、恒常的・全国的に人権侵害的な行政施策が行われている可能性があります。
このような法律・行政による人権侵害をくい止めるためには、国内人権機関に、法律や行政施策に対する意見を(単なる「助言」にとどまらず)積極的に明らかにし、公表できるようにするべきであります。
・職権による調査の積極的行使を
 また、人権侵害が制度や規則の運用として全国的に行われているような場合には、個別的な申立事案の救済活動だけでは根本部分についての解決は図れません。
また、救済が必要と考えられる人権侵害事案の被害者が必ずしも申立をするとは限らないため、社会的に問題になっているような人権侵害についても手つかずのまま放置されてしまう危険があり、職権による調査の介入を認める必要性は高いと考えられるのであります。
 かかる歴史的経緯及び広域的な人権侵犯事犯の性格等からして、職権調査及び政策提言が積極的に行使される体制が構築されることも重要な課題であると考えます。そのためにも、人権委員、人権擁護委員、事務局等の独立性と多元性、有給制、国際人権法による研修等、前記事項が実現されることが重要となってくるものと考えます。
(5)調査対象を限定すべきでないこと
 法案は、任意調査及び関係人間の調整機能を中心とする一般救済手続の対象となる人権侵害事件については特に限定を加えていませんが、強制的な調査権限及び調停仲裁、勧告・公表、訴訟援助を行う「特別人権侵害」事件について、「差別的取扱」、「虐待」、「セクハラ」、「それに準ずる人権侵害で自ら排除又は回復措置を取ることが困難なもの」、「差別助長行為」に限定しています。しかし、これは狭きにすぎるものであります。
 たとえば、弁護士会人権擁護委員会に対する救済申立のうち、刑務所・拘置所あるいは警察代用監獄における人権侵害事例では、職員等による暴行など「虐待」と分類できる顕著な人権侵害ばかりではなく、むしろ細々とした日常行動上の多岐にわたる掣肘(たとえばノートの利用制限、運動や入浴制限、日常動作の細かな掣肘等々)を過剰な自由の制限であるという趣旨の申立も多くあります。このような申立に対し、法案のような類型列挙方式をとると、「虐待」とはいえない、「差別」とはいえない、などとして切り捨てられる恐れが大きくなります。「差別」といえなくとも、また「虐待」とまではいえなくとも人権に関わる不当な処遇はありえることは否定できず、救済活動の入り口で人権救済の対象を狭く限定するのは適当ではないと考えられます。  法案では、「それに準ずる人権侵害で、被害者自ら排除回復困難な場合」との絞りがかけれらていますが、「被害者自ら排除回復困難な場合」とはたとえば民事裁判ないし行政不服手続をできる場合は人権委員会の救済対象から排除するとの解釈に容易に結びつきかねません。しかし、訴訟ではでは迅速性、費用等に課題があり、行政不服手続では審査期間の独立性、中立性等に課題があるゆえに、今般、独立した国内人権救済機関の設置が要請されている経緯に照らして考えたとき、あくまで例示列挙と位置づけ、最後に「それに準ずる人権侵害行為」程度の項目を置くべきであります

扶助協会の不足財源を弁護士会から補てんすることについての総会決議
2002年(平成14年)2月21日
兵庫県弁護士会
総会決議
民事法律扶助法は、法律扶助を国の責務と規定している。しかし、財団法人法律扶助協会の深刻な財源不足は、本年度末を迎えて各地において扶助申込の受付を中止せざるを得ないという深刻な事態を招いた。
憲法に規定された「裁判を受ける権利」を実質的に保障するための法律扶助が、予算不足という本来あり得べからざる理由によって、機能を停止するという未曾有の事態を、私達は何としてでも回避しなければならない。
 兵庫県弁護士会は、今回だけの緊急措置として、本年度末の不足資金については扶助協会の不足財源を弁護士会から補てんし、扶助受付を一日たりとも停止しないために最大限の努力を払う。
 兵庫県弁護士会は、国民の基本的人権としての裁判を受ける権利を守る法律扶助制度の根幹を揺るがしかねない今回の事態を深く憂慮し、国の抜本的な予算措置を強く求めるものである。

大阪教育大学付属池田小学校の事件に関する会長談話
2001年(平成13年)6月11日
兵庫県弁護士会 会長 大塚 明
1.今回の痛ましい事件について、直接の被害者はもちろん、ご家族や周囲の児童、保護者、教職員、その他の関係者に対して、心からお見舞い申し上げます。
2.兵庫県弁護士会は、従来から「犯罪被害者支援センター」を設置して、犯罪被害者の支援にあたってきました。今回の事件に関しても、もし私たちの力が必要とされるなら、ご遠慮なくご連絡いただきたいと思います。第1回の無料面接相談をはじめ、ご依頼があれば、マスコミ対応や、関係者との交渉や協議などの代理もさせていただきます。
3.すでに、兵庫県下の現場周辺の健康福祉事務所(保健所)と連絡を取り、当支援センターを必要とするケースがある場合には、ご連絡を頂くようお願いしました。
兵庫県弁護士会の犯罪被害者支援センターは、
〒650-0016 神戸市中央区橘通1-4-3 兵庫県弁護士会
電話078-341-7061 ファクシミリ078-351-6651
です。
4.今回の事件の規模と重大性に鑑み、支援センターの弁護士だけでなく、必要に応じて「子どもの権利委員会」などの関連委員会の弁護士にも応援を求めるなど、万全の体制を作ります。また、従来からのカウンセラーや精神科医などとのネットワークをより強化していく予定です。
5.今回の事件に関して、一部では被害者やその関係者に対して、そのプライバシーを侵害したり、被害者の心情を無視したような、無神経な接触や報道がなされています。もとより報道の自由は尊重されるべきでありますが、被害者や関係者に対しては、マスコミ等の関係者は十分な配慮をつくして、慎重な対応をされるよう、切に希望します。
6.今回の事件に関連して、精神障害者の犯罪の問題については、ぜひとも冷静な議論をしていただくよう、お願いします。今回の事件はあまりにも悲惨で重大でありますが、事件の再発防止や、これからの社会のあり方を考えるにあたっては、一時の感情的な議論ではなく、冷静な議論が必要です。

少年法改正に関する会長声明
2000年(平成12年)5月1日
兵庫県弁護士会 会長 模 泰吉
少年法「改正」については、法制審議会が平成11年1月21日、検察官の審判出席と抗告権を認め、観護措置期間を最長12週間に延長するなどを主たる内容とする要綱骨子を採択し、それを受けて政府は、同年3月10日、同内容の「改正」案を国会に提出した。
 兵庫県弁護士会は、同年2月8日には要綱骨子、同年5月14日には「改正」案に対し、予断排除原則や伝聞証拠排除法則を採用していない現行の職権主義の下で検察官の審判出席を認めると、審判は少年を糾問する場と化し、教育的・福祉的機能が損なわれる危険性が極めて大きく、検察官に抗告権を付与すれば、少年を長期間に亘って不安定な地位に置くことになり、観護措置期間の延長によって、退学や解雇を余儀なくされ、少年の社会復帰を妨げるなどと指摘して、これらに反対する旨の会長声明を発表した。
その後、「改正」案は審議入りできない状況が続いていたが、今般、本年6月頃の衆議院解散が必至となるに及び、「改正」案に、検察官関与を殺人など重大事件に限定する、被害者や遺族が審判を傍聴することを認める、検察官への抗告権付与を削除する、観護措置期間を最長8~10週間に短縮するなどの修正を加え、今国会中に成立させようとする動きがみられる。
しかし、検察官の抗告権を排除しても、その審判出席を認めること自体、前述した危険性を孕むものであり、観護措置期間をこの程度短縮したとしても、退学や解雇は避け難く、ひいては少年に非行事実を否認することを断念させ、冤罪につながりかねないことに変わりはない。また、被害者や遺族の審判包丁を認めることは、少年の抱える問題点を明らかにし、その改善方法を探索するために少年の育成歴・人格・家族らのプライバシー等に深く立ち入らなければならない審判の本質的要請である非公開原則に反し、多くの弊害が予想される。このように、「修正」案も、「必罰化」「厳罰化」を企図した「改正」案と根本的には変わらず、少年の可塑性に信頼し、教育的・福祉的働きかけによって少年を健全に保護・育成しようとする少年法の理念に悖るものであると言わざるを得ない。
さらに、少年法は、教育基本法や児童福祉法とともに、将来を有し、次代を担うべき少年の健全な成長を支える基本法である。したがって、その改正には、審判における教育的・福祉的機能、適正手続の保障、被害者の関与など諸問題について、法律関係者のみならず、教育・福祉関係者や心理・精神面の専門家、被害者をはじめ幅広く国民の意見を聴取し、慎重かつ徹底的に議論を尽くすべきである。
よって、当会としては、「修正」案に対しても、強く反対の意を表明するとともに、政治的情勢に左右されて杜撰で拙速な審議をすることのないよう求めるものである。

少年法改正問題に関する会長声明
1999年(平成11年)5月14日
兵庫県弁護士会 会長 丹治 初彦
政府は、本年3月11日、国会に少年法「改正」案を上程した。
 少年法は、少年が未熟で可塑性に富む存在であること及びどんな少年にも成長発達する権利があることを前提として、非行を犯した少年がその弱点を自覚し、これを克服できるよう教育するということを基本理念としている。
ところが、「改正」案は、少年審判に検察官が立ち会うことや検察官の抗告権を認め、観護措置期間を現行の最長4週間から最長12週間まで延長するなど、少年法の基本理念を揺るがす重大な問題を含んでいる。 すなわち、予断排除の原則や伝聞証拠排除法則を採用していない現行の職権主義の下で、少年審判に検察官が立ち会うことを認めると、少年審判の場は、少年を糾問する立場に偏する活動に終始することが避けられず、検察官の追及によって少年の心が閉ざされ、ひいては少年審判の教育的・福祉的機能が損なわれてしまう危険性は極めて大きいといわざるを得ない。
さらに、検察官に抗告権を付与することは、少年を長期間にわたって不安定な地位に置くことになるし、観護措置期間の延長を認めることは、家裁送致前の23日間の逮捕・勾留期間を併せると、学校の1学期を超える程の長期の身柄拘束が生じることになり、退学や解雇を余儀なくされるなどして、少年の社会復帰に重大な妨げとなる。
このように、「改正」案は非行少年にとって再出発の場となるべき少年審判の意義をないがしろにするものである。
 私たちは、保護主義の理念に基づく現行少年法が敗戦直後の少年非行の激増と凶悪化に対応するために制定され、その後も十分その機能を果たしていることを忘れてはならない。犯罪白書によると、たとえば少年の殺人事件の数は、昭和50年頃より100件前後で推移しており、特に増加している事実はない。しかも、ピーク時の昭和36年の4分の1にも達していないのである。
 特に、兵庫県においては、須磨小学生殺傷事件などの重大な非行事件が続いたため、少年非行の防止の問題について強い関心が寄せられているが、21世紀を担う少年たちの将来に大きな影響を及ぼす少年法のあり方については、教育関係者、児童福祉関係者をはじめ、市民による十分な議論が尽くされなければならないと考える。
 私たちは、子供たちの健やかな成長を願う者として、十分な議論が尽くされないまま提出された「改正」案に強く反対するものである。

住民基本台帳法改正案に対する会長声明
1999年(平成11年)7月30日
兵庫県弁護士会 会長 丹治 初彦
去る6月15日、衆議院本会議において、住民基本台帳法の一部を改正する法律案(以下「改正法案」という)が可決され、現在参議院において審議されている。
改正法案では、すべての国民一人ずつの住民票に「住民票コード」と呼ばれる10桁のコード番号を付し、氏名、住所、性別、生年月日の4情報とともに市町村の電子計算機に登録し、電気通信回線を通じて指定情報処理機関が一括管理するとされている。
しかしながら、改正法案には、憲法上の権利である国民のプライバシー権保護の観点から重大な疑義があると言わざるを得ない。
まず第1に、コード番号の利用範囲が、上記4情報に限定される保障がないことである。改正法案は、本来の目的以外での利用をしてはならない旨規定するのみで、提供目的違反に対する罰則規定もない。政府はすでに税務、医療、教育、社会保障・福祉、家族、犯罪情報などの多様な個人情報を保有しており、これらの情報がコード番号と結合される可能性が極めて高い。もし、それらの個人情報がコード番号と結合された場合には、国民総背番号制に道をひらくものであり、国家による個人情報の集中管理が行われることになる危険性をはらんでいる。
 第2に、改正法案は、情報漏洩を防ぐ安全確保措置の徹底、情報を漏洩した公務員に対する罰則ならびに情報の目的外使用の禁止について定めているものの、これだけではプライバシー権の保護として極めて不十分なことである。例えば、現行の行政機関の保有する電子計算機処理にかかる個人情報の保護に関する法律では、処理情報の開示請求権を認め、開示請求による書面開示を原則として義務づけているが、開示請求対象外事項と不開示事項を広範に認めることで、個人情報の保護が実質的に形骸化している。また、情報の目的外利用について、個人の中止請求権も認められていない。
 改正法案においても、個人情報の訂正について、訂正の申出及び再調査の申出ができるだけであって、訂正請求権を認めていない。従って、どのように訂正されるのかは、保有機関の判断にゆだねられることになり、情報が間違っていても適正に訂正することができない。
このように改正法案には、憲法13条が保証するプライバシーを侵害するさまざまの問題があり、参議院において慎重で踏み込んだ審議が行われることを強く求めるものである。

仙台地方裁判所・寺西和史判事補に対する懲戒処分決定に関する会長声明
1998年(平成10年)8月18日
神戸弁護士会 会長 小越 芳保
平成10年7月24日、仙台高等裁判所は仙台地方裁判所の寺西和史判事補に対する分限裁判において、戒告処分を決定した。
 決定の理由は、本年4月18日東京で開催されたいわゆる組織的犯罪対策三法案に反対する集会において、現職の裁判官であるとの紹介をうけたうえ、「集会でパネリストとして話すつもりだったが、地裁所長に『処分する』と言われた。法案に反対することは禁止されていないと思う。」旨の発言をし、言外に右法案に反対する意思を明らかにして同法案に反対する運動を盛り上げたことが、裁判所法52条1号にいう「積極的に政治運動をすること」に該当するというものである。
しかし、裁判官といえども裁判官である前に国民の一人として、言論・表現の自由が保障されねばならないことは当然であり、現に国会で審議中の法案について意見を表明したり、集会等で見解を述べることは、市民的自由の範囲内であって、裁判所法52条1号にいう「積極的な政治運動」には該当しないというべきである。まして明確に法案に対する意見を表明してもいないのに、「言外に」法案反対の意思を表明したという程度の行為をとらえ、積極的な政治運動に該当すると認定するのは、明らかに同条の文言解釈を越える不当な解釈といわねばならない。
これまで「積極的に政治運動をすること」を理由に懲戒処分された例はなく、今回の分限裁判は、裁判官の憲法上保障された市民的自由がいかに確保されるべきか、裁判官はいかにあるべきかを問う極めて重大な影響を生ずる裁判であり、それだけに憲法と裁判所法に関する論議を尽くす必要がある。
 当会は、本年5月27日、本件懲戒の申立がなされたことについて、寺西判事補の本発言が「積極的政治活動」として懲戒申立の対象とされることは、裁判官の自由な意見表明を封ずることになることに鑑み、仙台地方裁判所による懲戒申立は極めて遺憾であることを表明するとともに、事案の重大性と問題性に鑑み、分限手続においては寺西裁判官から十分な弁明意見を聴取し憲法に照らした慎重なかつ歴史の批判に耐える適正な判断を強く望むものである旨の会長声明を出したが、今回の決定内容及びその経過を見るとき、今回の分限裁判は極めて短期間のうちにしかも同判事補からの十分な弁明と反論がなされないまま結論を導いたきらいは否めず、憲法的論議が尽くされたとは到底言えない。
 今日、司法制度を改革し、市民の信頼に足る司法を実現するために、裁判官に対する統制を排除し、裁判官の市民としての自由の保障を確立することが急務であるところ、同分限裁判が裁判官に対する一層の統制と萎縮に繋がることを深く危惧する。
 当会は、ここに今回の懲戒処分決定に対して、重大な疑念を表明するとともに、上級審においては論議を尽くし、裁判官の市民的自由について国民の納得できる判断がなされることを期待するものである。

弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度を否定しようとする動きに強く反対する決議
1998年(平成10年)6月12日
神戸弁護士会
1.自民党司法制度特別調査会は、1997年11月11日、「司法制度改革の基本的な方針(案)-透明なルールと自己責任の社会へ向けて-」(以下、「方針(案)」という。)を発表した。この方針(案)には、我々の方針と一致するものもあるが、一方きわめて重大な問題点が数多く含まれているのであり、その中から特に重要だと思われる論点を掲げれば、以下のとおりである。
 第一に、弁護士自治を否定し、「弁護士の懲戒について外部機関による審査方式を導入すること」等を検討している。
 第二に、弁護士の法律事務独占を否定し、「司法書士等の隣接資格者の法律事務への参入」等を検討するとしている。
 第三に、法曹資格について、「司法試験あるいは司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与」を検討するとしている。
2.弁護士自治は、弁護士の懲戒権が戦前は司法大臣にゆだねられていたことに対する反省から、戦後における司法の民主化の一環として導入された。戦前、弁護士自治が否定され、弁護士に対する懲戒、監督権を司法省が行使していた制度の下で、如何に国民の権利が侵害されたかは、歴史の教えるところであって、弁護士自治は、国民のために認められている制度なのである。
 弁護士自治が認められる根拠には、弁護士・弁護士会に課せられた人権擁護活動と社会正義の実現、社会秩序維持・法律制度改善努力の義務(弁護士法1条)にその本質部分をみることができる。行政や他の諸権力から独立を 保障されたものであってこそ、上記の立場からの活動、研究、意見発表をよく行うことができる。弁護士自治こそ、弁護士が弁護活動、その他の人権擁護活動の使命を果たすための担保であり、源泉の位置にある。
3.弁護士の法律事務独占は国民に良質な法的サービスを提供するために必要なものとして制度化されているものである。弁護士は国家試験と司法修習制度によって専門知識と専門的技法の習得を求められ、またその業務の遂行にあたっては高度な職業倫理の遵守を要求されている。これに対して誰でもが自由に他人の法律事務を扱うことができるようになれば、弁護士でない者の行う法律事務によって多くの国民が権利を侵害され、あるいは様々な被害を被ることになる。借地借家、交通事故、消費者被害、相続等の法律問題が絶えることなく発生している状況に鑑みれば、こうした事態を招くことは不可避である。現在においても弁護士の法律事務独占の意義は少しも減少しておらず、我々はこれを見直すことには反対である。
4.司法試験及び司法修習を経た者にのみ法曹資格を付与することを原則としている現行制度も国民の権利を守り、国民に良質な法的サービスを提供するために必要なものとして制度化されているものである。
 法律事務の取扱は、その処理如何によって依頼者の生命・身体・財産に重大な影響を及ぼすだけでなく、国の法秩序を害することにもなる。そこで、法律事務を一定の資格を持った者に限って行うことを認めるとともに、資格取得に高度な専門的知識と専門的技能の習得のために、司法試験と司法修習を法曹資格取得の要件としたのである。
 弁護士法第5条の各号に掲げる者には、司法試験・司法修習を経ていなくても法曹資格が付与されているが、1号及び3号は、これらの職にあった者は司法試験合格に匹敵するだけの幅広い専門的法律知識を有するものとの考え方に立ち、2号はこれらの職のあった者はその職務経験が司法修習と同価値であるとの考え方に立って、例外的に司法試験・司法修習を経ない者に法 曹資格を付与したものである。
 厳格な法曹資格制度を維持することが国民の権利を守ることになるのであるから、現在の弁護士法第5条を改正して司法試験・司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与を拡大するべきではない。
5.自民党司法制度特別調査会の方針(案)における弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度を根底から否定しようとするこれらの動きは、これまで国民の人権擁護に資する役割を果たしてきた現行司法制度及び弁護士制度の民主的な要素を奪い去ろうとするものであり、断じて容認することはできない。いまや、司法と弁護士制度は、未曾有の危機を迎えていると言わなければならない。
 我々は、この危機を克服するために、現在の司法制度と弁護士制度が国民の利益を擁護する上で果たしている重要な役割について、国民の理解がさらに得られるように努力する。そして、国民とともに、弁護士自治・弁護士の法律事務独占・厳格な法曹資格制度の破壊を許さないため、全力をあげて奮闘する。
上記のとおり決議する。

(須磨少年事件に関連して)株式会社講談社に対する申入書
1998年(平成10年)5月27日
株式会社 講談社 御中
神戸弁護士会 会長 小越 芳保
申入書
貴社は5月25日発売の「週刊現代」(6月6日号)において、神戸小学生連続殺傷事件の精神鑑定書なるものを入手したとして、これを掲載して発売されたことは、誠に遺憾であります。
この行為は、鑑定書が真実であると否とに関わらず少年法の趣旨に反するものであり、少年の矯正とりわけ社会復帰後に著しい影響が懸念されるばかりか、被害者感情にも重大な影響を及ぼすものと考えられ、人権尊重の理念に反するものです。この記事を掲載して社会的病理に対峙することよりも、より人権が尊重されるべきです。
よって、貴社におかれましては、今後このような記事の掲載については差し控えるべく、より慎重に対応されたく申し入れいたします。

(須磨少年事件に関連して)株式会社新潮社に対する申入書
1998年(平成10年)3月10日
株式会社 新潮社 御中
神戸弁護士会 会長 間瀬 俊道
申入書
 貴社は、3月4日発売の「FOCUS」誌において、昨年神戸市内で発生した小学生殺傷事件に関し、この事件で保護処分を受けた少年が書いたとされる犯行ノートや作文などの写真を掲載しております。
 貴社の今回のこのような掲載は、現行少年法の精神に反するものと言うだけではなく、被害者やその遺族らのプライバシーを侵害するものとして到底許されるものではありません。
 少年法は、少年審判手続を非公開と定めておりますが、これは少年の成長発達する力に着目して少年の立ち直りを援助しようとするものであり、このことから少年の成長発達に影響を与えるような報道を厳しく制限しているものです。少年法の精神からすれば、この少年審判非公開の原則は、単に捜査手続や審判過程にとどまるものではなく、処遇時においてもまた処遇終了後においても貫かれなければならないものです。したがって、法治社会におけるメディアとしても少年の更生に影響を与えるような報道は厳に慎まなければなりません。今回「FOCUS」誌に掲載された犯行ノートや作文などは、少年審判手続において資料となったものとされ、本来ならば公表されるはずのないものであるばかりか、その入手経過についても同誌編集部に郵送され、その送り主も意図も不明のままであるとされております。このような資料を少年法の精神に背馳してあえて掲載することは、社会的責任を負うべき言論機関として許されないものと言うほかありません。
 当会は、昨年7月以降、神戸市須磨区の少年事件や堺市内で発生した幼児殺害事件に関して、貴社の少年法を軽視する人権侵害報道に対して、再三にわたり抗議の意を表明してきました。
しかるに、このたび、少年法をないがしろにするだけでなく、被害者やその家族のプライバシーを踏みにじるような報道を繰り返したことは誠に遺憾であり、あらためて厳重に抗議するとともに、このような報道を繰り返すことのないように強く要請するものです。

(須磨少年事件に関連して)株式会社文藝春秋に対する申入書
平成10年2月12日
東京都千代田区紀尾井町三-二三
株式会社 文藝春秋 御中
神戸市中央区橘通一丁目四番三号
神戸弁護士会
会長 間瀬 俊道
申入書
貴社は、二月一〇日発売の文藝春秋三月号において、神戸小学生殺傷事件に関し神戸家庭裁判所において保護処分を受けた少年の検察官調書を七通入手したとして、そのほぼ全文を掲載し同誌を販売されましたが、以下に述べるとおり、右記事の掲載及び販売は国民の知る権利又は報道の自由に名を借りた暴挙としか考えられず、当会は貴社に対し、右掲載に対し抗議を行うとともに速やかに同誌を回収するよう強く求めるものです。
 貴社もご承知のとおり、少年法は、審判を非公開とし、また少年の特定可能な情報の報道を禁じています。これは少年のプライバシーを厚く保護して少年の更生及び社会復帰を期すためです。少年法は、環境的要因の大きい少年非行の特性そして少年特有の可塑性などに着目して、家庭裁判所に対し教育的福祉的機能を付与しましたが、それが充分に機能するためには審判の非公開等は不可欠の前提と考えられ、原則として何人に対してもこれの逸脱を禁止しているものです。
このように少年法は、本来報道の自由を抑制しても少年のプライバシーや人権を保護しようとする趣旨によって制定されているものです。貴社の今回の調書掲載においては、この点の理解が欠如しているとしか考えられません。
 同誌の「編集部から」によれば「・・・少年法の精神に配慮しつつ、それよりもなお、言論の自由、国民の知る権利の価値を重くみたいと思う」と述べておられますが、この見解には到底承服できません。国民の知る権利は、憲法の基本原則の一つである国民主権と関係の深い権利であり、この国民主権の具体化として国民が有する参政権の適正な行使を支える権利として位置づけられております。従って、国民の知る権利は主として、国政に関する情報に向けられ、そうした知る権利に奉仕するものとして、報道の自由が位置づけられているのです。この度掲載された記事は、むしろ、私人、しかも、少年及び被害者の児童などに関する情報(プライバシー)であり、国民の知る権利や報道の自由を根拠として直ちには正当化できるような性質のものではありません。
このプライバシーに関する権利は、憲法一三条(個人の尊厳、幸福追求権)等に根拠づけられる国民の最も基本的な権利の一つです。すなわち、この権利は国民全てが等しく享有する権利であり、例え、非行を侵した少年或いは刑事被告人であろうとこの権利の主体です。
 報道機関は表現の自由としての報道の自由を有しておりますが、決して無制限ではありません。他の憲法上の権利との調和の上でその行使が保障されているのであり、その不当な行使によって他の人権を侵害することまでを許容したものではありません。
 貴社は、正当化の根拠として事件の真相解明による犯罪抑止等を指摘されておられますが、あまりに抽象的であり、また、掲載された調書の公表が同種犯罪の抑止につながるとは到底考えられません。憲法は決してこのような抽象的な理由による基本的人権の侵害を是認することはないと考えます。
 今回の貴社の掲載・販売行為は、少年法の趣旨を逸脱するということだけではなく、少年あるいは被害者らのプライバシーという憲法上の基本的な権利をも侵害するものです。
さらに、今回の記事は、事件によって痛ましい被害を受けた被害者及びその遺族らの心情には何ら配慮することなく、むしろ、これを蔑ろにするものであることをも特に指摘しておきます。
 被害者の方々が事件の真相を知りたいという思いを持たれることが当然だとしても、今回のごとく調書の公表などという方法によっては、具体的な殺傷状況などが一般大衆の目に哂されることになり、被害者らの心情をより一層深く傷つけることになり、極めて不当であるというほかありません。
 同誌上に検察官作成の供述調書を公表するという行為は、国民の司法に対する信頼に重大な悪影響を与えかねないものでもあります。少年事件のみならず成人の刑事事件においても、易々と供述調書が一般の目に哂されるということになれば、国民の司法に対する信頼が大きく揺らぐことは明らかです。本来、供述調書をそのまま外部の者に手渡す行為は守秘義務に違反し、刑罰をもって制裁される性質の行為です。今回、このような刑罰をもってその漏洩を禁じている調書をもとに、これをほぼそのまま公表した貴社の行為も刑事司法全般に対する信頼をそこなう非見識な行為というほかないと考えます。
 以上、今回の貴社の掲載・販売行為は、人権上もまた司法に対する信頼、特に少年審判手続に対する信頼を損なうものとして、到底許されない行為であり、当会としてもこれを看過できません。よって、当会としては、右の如く貴社に対する抗議の意を表明するとともに、速やかに同誌の回収に努めるよう申し入れるものです。

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余命三年時事日記 2359 ら兵庫県弁護士会④⑤⑥ [余命三年]

余命三年時事日記 2359 ら兵庫県弁護士会④⑤⑥
http://yh649490005.xsrv.jp/public_html/2018/02/03/2359-%e3%82%89%e5%85%b5%e5%ba%ab%e7%9c%8c%e5%bc%81%e8%ad%b7%e5%a3%ab%e4%bc%9a%e2%91%a3%e2%91%a4%e2%91%a5/ より

死刑執行に関する会長声明
2015年(平成27年)12月22日
兵庫県弁護士会
会 長 幸 寺 覚
当会は,12月18日に行われた死刑執行に対し強く抗議し,死刑執行の停止を求めるとともに,死刑制度に関する情報の公開及び有識者会議のすみやかな設置等を行い,国民の議論の場を設けることを求める。
2015年(平成27年)12月18日,2名に対する死刑が執行された。本年6月25日に1名に死刑が執行されて以来であり,今回の執行を含め,現政権下では計8回で14名に死刑が執行されたことになる。また,この度の死刑執行には,裁判員裁判にて死刑を言い渡された死刑囚の執行としては初めてとなるものが含まれている。
 死刑制度については,その存置に賛成する立場,反対する立場の双方から,様々な論拠が示されてきたが,死刑が,人間存在の根元である生命そのものを奪い去る冷厳な刑罰であることは疑いのない事実である。しかるに,死刑を決する刑事裁判は誤判のおそれを完全には払拭することができず,現に,戦後の日本で発生した死刑えん罪事件は,司法当局が認めただけでも4件が存在しており,2014年(平成26年)3月27日には,袴田事件について,再審を開始し,拘置の執行を停止する決定がなされ,改めてえん罪による誤った死刑執行のおそれが現実にあったことが示された。万一,無実の人に死刑を執行してしまえば,国家による取返しのつかない人権侵害となる。
また,国際社会に目を向けると,第二次世界大戦後,死刑の廃止や執行停止を行う国が増加し,既に,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止している。隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。国連総会は,2012年12月,「えん罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択したほか,国際人権(自由権)規約委員会は,日本に対し,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を行った事実がある。
 以上の事実に加え,我が国は裁判員制度において国民の司法参加が実現し,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加していることからも,死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度に関する情報の周知と議論を開始することは,喫緊の課題である。当会も,2013年(平成25年)2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。多くの国民が死刑制度の存在を支持しているという死刑存続の根拠も,必要な情報を提供しないままの世論調査の結果と言わざるを得ず,情報公開については,2010年(平成22年)に東京拘置所の刑場が公開されて以来十分な進展がなく密行主義が続いており,また,死刑に代わる無期刑や終身刑の議論も十分なされていないのが現状である。
 死刑判決に関与する裁判員が,その後の人生に大きな負担となる可能性が存するということにも鑑み,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(刑事訴訟法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論がなされている間は死刑の執行を停止することは許容されていると考えられる。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり(東京地方裁判所平成10年3月20日判決),執行停止の妨げにはならない。
 当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権が再び死刑の執行を行ったことは極めて遺憾であり,強く抗議する。当会は,重ねて,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を強く求めるものである。以 上

戦後70年を迎える憲法記念日に当たっての会長声明
2015年(平成27年)5月3日
兵庫県弁護士会会長幸寺覚
5月3日,憲法が施行されてから68年を迎えるが,今年は戦後70年となる節目の年でもある。
 日本国憲法は,権力を憲法によって拘束するという立憲主義のもとで,主権が国民に存すること,すべての国民は基本的人権の享有を妨げられないこと,そして,この憲法が保障する基本的人権が,侵すことのできない永久不可侵の権利であることを高らかに謳いあげた。また,日本国憲法は,先の大戦の反省のもと,国民主権,基本的人権の保障とともに平和主義を基本原理として採用した。
日本国憲法の採用する平和主義は,一切の戦争を放棄し,そのために戦力の不保持と交戦権の否認を宣言するという徹底した平和主義であるが,それは戦争が基本的人権の保障にとって最大の脅威であり,戦争をしない平和な国でなければ基本的人権の保障を万全ならしめることはできないとの認識を明らかにしたもので,先の大戦における尊い命の犠牲と引き替えに獲得した,世界に誇り得る,先駆的な意義を有しているものである。かかる国民主権,基本的人権の保障,平和主義を基本原理とする日本国憲法は,施行後,どの時代においても,多くの国民の支持のもとで,私たちの暮らしの中に浸透し,戦後の我が国の復興と繁栄の礎となってきた。
しかし,今日,国民主権については,選挙権の行使に関わる投票価値の不平等の問題が生じている。すなわち,投票価値の不平等を理由として選挙を違憲無効とする高等裁判所の判断,及び違憲状態とする最高裁判所の判断が出たにもかかわらず,抜本改正を放置したまま総選挙が実施され,改めて,高等裁判所から違憲・違憲状態の判断が全国で相次ぐ事態が起きている。
 基本的人権についても,東日本大震災から4年が経過したにもかかわらず,いまだ22万人を超える避難者が生活再建を果たしておらず,人権の回復がほど遠い現状にある。福島第一原発事故の被害はなお深刻な様相を呈しているし,被害者の生命・健康の不安は全く解消されていないにもかかわらず,十分な施策は講じられていない。この兵庫県においても,20 年前の阪神・淡路大震災の被災者の中には,いまだ安定した住居を確保できないなど,依然として生存権が脅かされている方々が存在する。
さらに,平和主義についても,集団的自衛権の行使については歴代内閣が一貫して憲法9条により否定されていると解釈し,それを前提として国会はこれまでの立法活動を展開してきたにもかかわらず,閣議決定という,主権者である国民や国会を蚊帳の外に置いた方法で容認され,法案整備が進められるなど,平和国家としての日本のあり方を変質せしめるだけではなく,立憲主義をもないがしろにした事態が生じている。
このように日本国憲法の定める国民主権,基本的人権の保障,平和主義という3つの基本原理は,今日,必ずしも揺るぎないものとして確立しているとは言い難い状況にはあるが,主権者たる国民の誰もが等しく個人として尊重される平和な社会は,日本国憲法の理念を実践することによって実現されるものである。当会としても,弁護士法が,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする」と規定していることを改めて胸に刻み,引き続き,立憲主義の堅持と日本国憲法の定める基本原理が活かされた社会の実現のために尽力していきたい。以上

少年審判決定書の全文公表に関する会長声明
2015年(平成27年)5月1日
兵庫県弁護士会
会長幸寺覚
<声明の趣旨>
 当会は,株式会社文藝春秋に対し,同社が発行する雑誌「文藝春秋(平成27年5月号)」において,平成9年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年審判決定書全文を公表したことについて,強く抗議する。
<声明の理由>
1 平成27年4月10日,株式会社文藝春秋(以下「文藝春秋社」という。)は,同年5月号の雑誌「文藝春秋」(以下「掲載誌」という。)において,元少年の実名等及び被害者の実名については黒塗り等がされているものの,平成9年に起きた神戸連続児童殺傷事件の少年審判決定書の全文を公表した(以下「本件公表」という。)。これに対し,神戸家庭裁判所は,同日,決定書を提供した元裁判官と文藝春秋社に対し,守秘義務に違反するなどとして抗議文を送付した。また,公益社団法人ひょうご被害者支援センターも,同月15日,元裁判官と文藝春秋社に対し,申入書を送付して強く抗議し,掲載誌の回収を求めている。
2 本件公表については,元裁判官による守秘義務違反という司法制度の根幹に関わる重大な問題が指摘されるべきであることはもちろんであるが,当会としては,さらに次の2点において極めて問題があると考える。
(1)被害者遺族に対し深刻な二次被害を及ぼす危険があること
本件公表によって,被害者遺族に対し再び好奇の視線が向けられる懸念がある。現に,報道によれば,被害者遺族のうちの一人が「雑誌に掲載されることで,不特定多数の人に興味本位で見られることになり,大変辛い。」旨のコメントをしている。掲載誌の当該記事本文を見ても,被害者遺族の心情に対する配慮をうかがうことができる部分は読み取れない。本件公表により,被害者遺族の名誉・プライバシー権も著しく侵害され,被害者遺族に対し深刻な二次被害を及ぼしている。
(2)元少年のプライバシーを侵害し,その更生を阻害する危険があること少年審判が非公開とされ(少年法第22条第2項),いわゆる推知報道が禁止される(同法第61条)など,法が少年のプライバシーを尊重しているのは,過ちを犯した少年も,いずれは社会に復帰し,社会の一員としての役割を担う事を想定しているからでもある。過ちを犯した少年が,不当な公表やラベリングによって害されることなく,更生への意欲を高めることができれば,おのずと再非行は回避され,新たな被害の発生を防止することもできると考えられているのである。
この事件については,神戸家庭裁判所が平成9年に決定書の一部を決定要旨として公表しているところ,当時付添人団が決定要旨の一部について「少年の更生を害する」として公表に反対する意見書を提出した経緯がある。決定書の一部の公表にあたっても問題が指摘されていたのであるから,決定書の全文を公表するということになれば,元少年の更生に対してより深刻な弊害が心配されるところである。
3 なお,報道の起点となった情報提供の目的について,元裁判官は,少年の匿名性の保護は必要であるとしながらも,なぜ事件を起こしたのかという情報を明らかにする必要があると指摘した,とされている。
しかし,いかなる理由があるとしても,文藝春秋社は,被害者遺族や裁判所等に対して十分な事前協議をすることなく,唐突に決定書の全文公開に踏み切ったものである。本件公表にかかる決定書全文のうち,相当部分は既に決定要旨として公表済みの内容であるとしても,文藝春秋社の本件公表は,手段の点において明らかに不適切であったと言わざるを得ない。もとより,報道の自由は国民の知る権利を実質的に支える重要な権利であり,犯罪報道の持つ意義は軽視されるべきではないが,文藝春秋社は,本件公表によって生じる危険や問題をあまりにも軽視していると言わざるを得ず,当会としては,これを看過できないため,強く抗議するものである。以上

2 0 1 5 年3 月1 3 日
通信傍受法の対象犯罪拡大に反対する
1 8 弁護士会会長共同声明
埼玉弁護士会 会長 大倉 浩
千葉県弁護士会 会長 蒲田 孝代
栃木県弁護士会 会長 田中 真
静岡県弁護士会 会長 小長谷 保
兵庫県弁護士会 会長 武本夕香子
滋賀弁護士会 会長 近藤 公人
岐阜県弁護士会 会長 仲松 正人
金沢弁護士会 会長 飯森 和彦
岡山弁護士会 会長 佐々木浩史
鳥取県弁護士会 会長 佐野 泰弘
熊本県弁護士会 会長 内田 光也
沖縄弁護士会 会長 島袋 秀勝
仙台弁護士会 会長 齋藤 拓生
福島県弁護士会 会長 笠間 善裕
山形県弁護士会 会長 峯田 典明
岩手弁護士会 会長 桝田 裕之
青森県弁護士会 会長 源新 明
愛媛弁護士会 会長 田口 光伸
2 0 1 4 ( 平成2 6 ) 年9 月1 8 日, 法制審議会は,「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を採択し,法務大臣に答申した( 以下,本答申という)が,その内容として,従来,通信傍受法の対象犯罪が暴力団関連犯罪の① 銃器犯罪,② 薬物犯罪,③ 集団密航,④ 組織的殺人の4 類型に限定されていたものを,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などを含む一般犯罪にまで大幅に拡大することを提言している。また,これまで市民のプライバシーを侵害する危険のある通信傍受法が抑制的に運用される歯止めとなっていた通信事業者の常時立会制度も撤廃されることとされる。
このたび本答申に基づく通信傍受法の改正法案が国会に上程される予定だが,私たちは,以下の理由から,本答申に基づく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。
 重大な犯罪に限定されず通信傍受法施行前に検証許可状により実施された電話傍受の適法性につき判断した最高裁判所平成1 1 年1 2 月1 6 日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを電話傍受の適法性の要素としていたが,詐欺,恐喝,窃盗については,いずれも財産犯であり,必ずしも「重大な犯罪」とはいいがたい。詐欺罪にも様々な詐欺がありうるのであって,組織的な詐欺グループである振り込め詐欺以外にも広く通信傍受が実施されるおそれがあり,漫然と詐欺罪を対象犯罪とすることは許されない。振り込め詐欺や窃盗団等を想定するのであれば,実体法として,それらを捕捉し得る新たな構成要件を創設した上で対象犯罪にするべきである。しかも,組織犯罪処罰法には組織的詐欺罪( 同法3 条1 3 号)や組織的恐喝罪( 同1 4 号)が規定されているのであるから,それを対象犯罪に追加することで対象犯罪を必要最小限度に限定することも可能である。
また,本答申の基礎とされた「新時代の刑事司法制度特別部会」がまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」は,「通信傍受は, 犯罪を解明するに当たっての極めて有効な手法となり得ることから,対象犯罪を拡大して,振り込め詐欺や組織窃盗など,通信傍受の必要性・有用性が高い犯罪をも含むものとすることについて, 具体的な検討を行う」としている。これは,前記最高裁決定が指摘する犯罪の「重大性」を前提とせず,対象犯罪拡大を検討したものであるが,捜査機関にとっての「必要性」「有用性」を基準とすれば,その拡大には歯止めがない結果となる。日本弁護士連合会が反対している共謀罪や特定秘密保護法違反などにも,捜査機関にとって犯罪の共謀を立証するのに「必要かつ有用」として,通信傍受の適用の拡大が企図される危険も大きい。常時立会制度の撤廃は捜査権の濫用を招く通信傍受法が定める通信事業者による常時立会は,傍受記録の改ざんの防止と通信傍受の濫用的な実施を防止するという2 つの機能を果たしていた。傍受対象通信を通信事業者等の施設において暗号化した上で送信し,これを捜査機関の施設において自動記録等の機能を有する専用装置で受信して復号化することにより, 傍受を実施するという答申が提言する技術的措置は,通信傍受記録の改ざんの防止という点は確保できるかもしれないが,無関係通信の傍受など通信傍受の濫用的な実施を防止するという点が確保されるとは考えられない。
 従来の通信傍受法の運用において,この常時立会という手続があることで,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」という補充性の要件が実務的に担保されてきたものである。しかし,答申のような手続の合理化・効率化がなされれば,捜査機関は令状さえ取得すれば簡単に傍受が可能となるので,安易に傍受捜査に依存することになることは必至であり,補充性要件による規制が実質的に緩和されることとなり, 濫用の危険は増加する。
 盗聴社会の到来を許さないここで通信傍受法の対象犯罪の拡大に歯止めをかけなければ,過去再三廃案とされたにもかかわらず,未だ法案提出がなされようとしている「共謀罪」とあわせて, 盗聴社会の到来を招く危険がある。捜査機関による通信傍受の拡大は,単に刑事司法の領域に止まる問題ではなく,国家による市民社会の監視につながり,市民社会そのものの存立を脅かす問題である。
よって,私たちは,本答申にもとづく通信傍受法の改正に反対するとともに,国会における審議においても,慎重な審議がなされることを求めるものである。

特定秘密保護法の施行に反対する会長声明
2014年(平成26年)12月10日
兵庫県弁護士会
会長武本夕香子
1 2014年(平成26年)12月10日、特定秘密保護法(以下「本法」という。)が施行された。当会は、これまでに、本法が、① 政府の保有情報は本来主権者たる国民に帰属するものであるとの基本的視点を欠いていること、② 秘密指定の対象が広範かつ無限定であり「特定秘密」の恣意的な指定がなされる恐れが強いこと、③ 現行法制度で情報保全はすでに十分になされており、法制定の必要性・合理性が存在しないこと、④ 処罰範囲があいまいで、報道機関による取材への萎縮効果を生むのみならず、国民の知る権利を侵害すること、⑤適性評価制度はプライバシーの侵害の危険性があることなどの理由から、本法の成立前から反対し、成立以降も同法の廃止を訴えてきた。
2 昨年12月の本法成立・公布後、政府は、本年10月14日に「特定秘密の指定及び解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」及び関係政令の閣議決定に及んでいる。しかし、この運用基準等は8月末に実施したパブリックコメントにおいて寄せられた、独立した本来の意味での第三者機関の設置を求める多数の国民の意見を殆ど反映していない。また、有識者から構成される「情報保全諮問会議」も3回開催された程度であり、十分に検討されておらず、拙速のそしりを免れない。特定秘密の指定、解除など運用の適正を確保するとされていた「第三者的機関」も、内閣官房に設置される「保全監視委員会」、内閣府に設置される「独立公文書管理監」、「情報保全監察室」、及び、内閣総理大臣が委嘱する者で構成され、内閣官房が庶務を行う「情報保全諮問会議」と、そのいずれもが内閣総理大臣の影響下にある機関であって、「第三者的機関」と呼べる性格のものではないし、また、各議院8名の議員によって構成され、秘密会として開催される「情報監視審査会」についても、特定秘密へのアクセスや改善の強制権限は認められていない。よって、我々弁護士会が求めていた独立して特定秘密の指定等を調査する権限を有する本来の意味での第三者機関は存在しないこととなった。
3 本法は、これまで当会が指摘した問題点は何ら解決されていない欠陥法であり、本法が施行されれば、政府の保有情報が際限なく隠蔽され、国民の知る権利や両議院の国政調査権が大きく抑制されるおそれが否定できず、民主主義の前提である政府の情報を利用した言論・出版等の表現の自由が損なわれることは必至である。また、同法の適性評価制度は、特定秘密の情報保有資格調査を理由に、情報保有対象者以外の広範な個人に対し、秘密裏に日常生活における調査を可能にする点で、プライバシー権を損なう懸念が払拭できない。
4 よって、当会は、特定秘密保護法の施行に反対するとともに、同法の廃止を求める次第である。以上

裁判所関連予算の大幅増額を求める会長声明
第1 声明の趣旨
国民が真に利用しやすい司法制度を実現することにより、司法が社会正義を実現し、人権、特に多数決支配では救済されない社会的・政治的・経済的弱者の人権擁護機能等司法の強化を実現するため、最高裁判所においては、大幅な裁判所関連予算の増額を要求すべきであり、政府あるいは財務省においては、それを受けて大幅な裁判所関連予算の増額を認めるべきである。
第2 声明の理由
1 周知のとおり、一連の司法制度改革を実現するため、平成11年に司法制度改革審議会(以下「審議会」という)が内閣下に設置され、平成13年には「21世紀の日本を支える司法制度」と題した意見書(以下「意見書」という)が発表された。
 意見書では、①国民の期待に応える司法制度、すなわち、国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な事件の解決を可能とする制度を構築すること(制度的基盤の整備)、②人的基盤の拡充、③国民の司法参加を三つの柱として、各般の施策を講じることにより、我が国の司法がその役割を十全に果たすことができるようにし、もって自由かつ公正な社会の形成に資することを目標として行われるべきであると提言された。さらに、平成15年には裁判の迅速化に関する法律(以下「迅速化法」という)が制定され、国は、裁判の迅速化を推進するため必要な施策を策定し、及び実施する責務を有するとし、政府は、その施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならないとされた。
 司法が紛争解決機能を強化することで人権の護り手として十分に機能するためには、財政的な裏付けが不可欠であることは論を俟たない。
2 ところが、現時点において、意見書が出されてから13年、迅速化法が制定されてから11年が経過し、この間、裁判所関連予算は、平成18年度までは労働審判や裁判員裁判など新たな制度の導入準備もあって徐々に増加したものの、それ以降は7年連続の減少となっており、平成25年度に至っては2989億円と減少し、意見書が出された平成13年度の裁判所関連予算をも大きく下回り、平成7年度並みの予算となっている。
さらに、平成26年度予算は、形の上では前年度より122億円多い3111億円となっているものの、この中には、平成25年度限りで給与特例減額が終了することに伴う人件費増171億円及び平成26年4月の消費税率引上げに伴う負担が含まれているため、実質的には平成25年度より減額されていることになる。
このような事態は、意見書や迅速化法の目的に逆行するものであり、司法制度改革も裁判の迅速化も、理念だけで予算の裏付けのない絵に描いた餅と化してしまいかねない。
3 意見書は、国民の期待に応える司法制度の構築として、民事裁判の充実・迅速化、家庭裁判所・簡易裁判所の機能の充実等を求めており、そのためには人的基盤の拡充が不可欠であるところ、現在に至るまで、裁判所職員の数は絶対的に不足したままである。
 平成26年度においても、裁判官32人、書記官29人の新規増員を行っているものの、逆に合理化による減員もあったため、裁判所全体の定員としては2万5740人となり、前年度と比較すると4人減となっている。 また、意見書では、国民の期待に応える司法制度の構築のために家庭裁判所機能を充実させるべきとしたが、年々増加する家事事件に現在の家庭裁判所の人的規模では対応できず、参与員関与の拡充等により対処せざるを得ない状況となっており、国民の期待に応える司法制度とするためには何よりも地家裁支部の充実が求められるところ、未だに全国で裁判官の常駐していない地方裁判所支部は46か所も存在する。
4 平成18年には、意見書が目指す国民の期待に応える司法制度の構築や国民の司法参加を具体化するための方策として労働審判制度がスタートし、平成21年には裁判員裁判が開始された。当然、これらに伴う新たな財政的負担が発生しているが、前記のとおり裁判所関連予算全体の額は減少し続けているのである。このことは、ただでさえ不足していた従前の司法財政が新たな制度の創設によってさらに圧迫されていることを意味しており、このように裁判所関連予算の全体額が減少し続ける中で意見書が目指した司法制度改革を実現しようとすれば、本来の司法機能そのものの減退を招くことになりかねないという自己矛盾を抱えているのである。
 労働審判制度については、労働事件の簡易迅速な解決を目的として創設された制度であり、年々利用件数は増加しているものの、現在支部で実施されているのは東京地裁の立川支部・福岡地裁の小倉支部のみである。しかし、国民の期待に応える司法制度を構築するためには、裁判へのアクセス拡充として、支部における労働審判実施の必要性は非常に大きく、他の支部でも実施を求める声が上がっている。兵庫県においても、特に姫路支部・尼崎支部は管内に100万人を超える人口を抱えており、多数の企業も所在していることから、労働審判の実施が強く求められている。また、両支部では労働審判員の確保や労働審判を扱う弁護士の体制は整っており、裁判所における予算的な問題が解決されれば、実施に向けて大きく前進することになる。
5 平成25年7月に出された裁判の迅速化に係る検証に関する報告書では、国内実情調査では社会内に多数の潜在的紛争が存在している実情がうかがわれたとし、少子高齢化等の社会の変容、紛争の法的解決に対する意識等の変化、法曹人口の増加等による法的アクセスの容易化といった諸要因の影響により、紛争の量的側面に着目すれば、社会内に潜在化していた紛争が法的紛争として顕在化し、法的紛争が増加することが見込まれ、紛争の質的側面に着目すれば、法的紛争がより複雑化・多様化し、事案によっては先鋭化する可能性があるとの指摘がなされている。
そして、裁判所においては、質の高い判断を迅速に提供するためにも、また紛争増加が見込まれる中、将来の事件動向に対応していくためにも、運用改善の努力や適切な基盤整備が必要であると指摘している。
ところが、司法制度改革以後、弁護士の数のみ激増したものの、前述した裁判官の数のみならず、検察官の数もあまり増えておらず、迅速化法の実現には不十分であると言わざるを得ない。
 意見書も迅速化法も、国民の期待に応える司法制度の実現という目的は同じであり、そのために種々の具体的な方策を掲げているのであるが、それらの方策を真の意味で実現するには、それに対応できるだけの財政面での措置が不可欠である。
6 更には、法曹三者になる前段階の司法修習の給費制が廃止され、貸与制に移行したことで、意見書に記載された司法基盤を支える人的インフラ整備は逆に著しく減退していると言え、意見書に記載された司法の人的基盤整備実現のための裁判所関連予算の大幅な増加は必要不可欠である。
7 以上のとおり、司法制度改革審議会の設置や迅速化法の制定が、国民に対する単なるパフォーマンスで終わることのないよう、真に国民の期待に応えられる司法制度を実現するために、裁判所関連予算の大幅な増額を求めるものである。以上
2014年(平成26年)11月21日
兵庫県弁護士会会長 武 本 夕 香 子

2014(平成26)年10月14日
法曹養成制度改革推進会議 御中
法曹養成制度改革顧問会議 御中
法曹養成制度改革推進室 御中
申 入 書
埼玉弁護士会会長 大 倉 浩(公印省略)
千葉県弁護士会会長 蒲 田 孝 代(公印省略)
栃木県弁護士会会長 田 中 真(公印省略)
群馬弁護士会会長 足 立 進(公印省略)
山梨県弁護士会会長 小 野 正 毅(公印省略)
長野県弁護士会会長 田 下 佳 代(公印省略)
新潟県弁護士会会長 小 泉 一 樹(公印省略)
兵庫県弁護士会会長 武 本 夕香子(公印省略)
愛知県弁護士会会長 花 井 増 實(公印省略)
2
山口県弁護士会会長 松 村 和 明(公印省略)
岡山弁護士会会長 佐々木 浩 史(公印省略)
鳥取県弁護士会会長 佐 野 泰 弘(公印省略)
佐賀県弁護士会会長 牟 田 清 敬(公印省略)
大分県弁護士会会長 岡 村 邦 彦(公印省略)
鹿児島県弁護士会会長 堂 免 修(公印省略)
仙台弁護士会会長 齋 藤 拓 生(公印省略)
福島県弁護士会会長 笠 間 善 裕(公印省略)
山形県弁護士会会長 峯 田 典 明(公印省略)
青森県弁護士会会長 源 新 明(公印省略)
札幌弁護士会会長 田 村 智 幸(公印省略)

第1 申入れの趣旨
2015(平成27)年司法試験における司法試験合格者数の更なる減員を求める。
第2 申入れの理由
1 政府は、法曹養成制度関係閣僚会議の決定において、2013(平成25)年7月16日、法曹養成制度検討会議の取りまとめを受け、今後の法曹人口の在り方について、法曹人口に関する調査を行い、その結果を2年以内に公表するとした。
2 これに対し、埼玉、千葉県、栃木県、群馬、長野県、兵庫県、山口県、佐賀県、大分県、札幌の10弁護士会は、2013(平成25)年12月2日付連名の申入書において、司法修習生の就職難の拡大、訴訟事件の減少、新人弁護士の研鑽(OJT)機会不足等の事実を指摘した上で、法曹資格取得後の就職や開業に見通しが立たないことが、法科大学院入学志望者の激減に繋がっており、このような状況が今後も続く限り、将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなり、司法が機能しなくなる可能性も否定できないとして、年間司法試験合格者数の大幅減員への早急な対応を求めた。
また、上記10弁護士会に山梨県、愛知県、仙台、山形県、秋田を加えた15弁護士会は、本年3月19日付連名の申入書において、法曹養成制度検討会議と法曹養成制度関係閣僚会議が「司法試験合格者数を3000人程度とする数値目標は現実性を欠く」としたのは現状の2000人の司法試験合格者数で様々な弊害が生じているからであり対処に一刻の猶予も許されないこと、既に2012(平成24)年に総務省による政策評価がなされており改めて大がかりな調査を行うまでもないことなどから、2014(平成26)年の司法試験から直ちに司法試験合格者数の大幅減少に踏み切ることを求めた。
なお、日弁連は、2012(平成24)年3月15日の時点で、「法曹人口政策に関する提言」において、「司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである。」とまとめているところである。
3 その後、自由民主党政務調査会司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議は、本年4月9日付「法曹人口・司法試験合格者数に関する緊急提言」において、「在るべき法曹人口について政府は内閣官房法曹養成制度改革推進室が行う法曹人口調査の結果を待って判断するとしているが、この調査には今後1年以上も時間がかかり、調査結果を待ってさらに議論を重ねるということでは遅きに失することが明白である。このような徒に時を重ねる対応では、わが国の法曹養成制度及び司法制度は早晩危機に瀕すと言っても過言ではない。」との認識の下、「まずは平成28年までに1500人程度を目指すべき」と結論付けた。
また、公明党法曹養成に関するプロジェクトチームも、同日付「法曹養成に関する緊急提案」において、「次世代の法曹界への希望や熱意を冷まし、有為な人材を遠ざけ、法曹志望者の裾野を狭めている」と現状を憂慮し、「現在の体制のまま、漫然と司法試験合格者の数を維持、ないし増加することは、残念ながら、国民の権利を守るどころか、むしろこれを損なうおそれすらあると言わざるをえない。」とした上で、「合格者数を2000人程度とする現状で、こうした事態が生じていることに鑑みれば、司法試験の年間合格者数を、まずは1800人程度とし、その後、今後の内閣官房法曹養成制度改革推進室の法曹人口調査検討を踏まえつつ、1500人程度を想定する必要もあるのではないかと思料する。」と結論付けた。
 前述のとおり、総務省は既に2012(平成24)年4月に政策評価を発表しており、そこでは、「現状では2,000人規模の増員ペース(年間合格者数)を吸収する需要は顕在化しておらず、現在の需要規模と増員ペースの下、弁護士の供給過多となり、新人弁護士の就職難や即独、ノキ弁が発生・増加し、OJT不足による質の低下などの課題が指摘される状況となっている。」として早期減員の必要性を示唆する勧告を行っている。
このように、司法試験合格者数を早急に減少させる必要があることは、弁護士会のみならず、政党、省庁においても十分認識されるに至っている。
4 本年の司法試験合格者は1810人であり、昨年の2049人から一定程度減少したものの、各方面から指摘されている供給過多による弊害の解消にはまだ不十分であり、引き続いて更に減員を進めることが不可欠である。
よって、2015(平成27)年司法試験における司法試験合格者数の更なる減員を求める。以 上

死刑執行に関する会長声明
2014年(平成26年)8月29日,2名に対する死刑が執行された。本年6月26日に2名に死刑が執行されて以来であり,今回の執行を含め,現政権下では計6回で11名に死刑が執行されたことになる。当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権がこのように性急とも言える頻度で死刑の執行を継続していることは極めて遺憾であり,強く抗議する。
 本年3月27日には,袴田事件について,再審を開始し,拘置の執行を停止する決定がなされ,絶対にあってはならないえん罪による誤った死刑執行のおそれが現実にあったことが改めて示された。
 国際社会においては,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止しており,隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。また国連総会は,2012年12月,「冤罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択している。国際人権(自由権)規約委員会からも,日本は,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を受けており,死刑執行は「日本が抱える最大の人権問題の一つ」である。死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑廃止についての議論を呼びかけることは国の責務である。裁判員制度において,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加していることからも,死刑制度に関する情報の周知と議論の開始は,喫緊の課題である。当会としても,2013年2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。
そして,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(同法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論の間に死刑の執行を停止することは許容されている。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり,執行停止の妨げにはならない。
 以上,当会は,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を,改めて強く求める。
2014年(平成26年)8月29日
兵庫県弁護士会会 長 武 本 夕香子

改めて特定秘密保護法の廃止を求める会長声明
1 去る平成26年6月20日第186回国会(常会)での参議院本会議において「情報監視審査会の設置等に係る国会法一部改正案」「議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律の一部改正案」「国会職員法の一部改正法案」(以下では、「情報監視審査会設置法」とも言う。)が賛成多数で可決され、成立した。
 同法は、昨年の特定秘密保護法の成立を受け、日本国憲法及びこれに基づく国会法等の精神に則り、「国会に対する特定秘密の提供」を規定した同法附則10条に基づき、与党より提案された議員立法であり、行政機関の長が行う特定秘密の指定又は解除及び適性評価の実施の審査、及び、各議院からの特定秘密の提供要求に対する判断の適否等を審査することを目的とした常設の情報監視審査会(以下、「審査会」と言う。)を各議院に設置するものである。
2 しかしながら、審査会は、各院情報監視審査会規程によれば、各8名の議員のみで構成され、会派ごとの議席数の割合に応じて委員が割り当てられることとなっており、審査会の決議が多数決によった場合、内閣を構成する与党会派の意向が強く反映される結果となり、そもそも国会による内閣に対する監視機能が十分に発揮されるとは考えにくい。
3 また、審査会が、特定秘密の提供を求めても、行政機関の長は、特定秘密の提出に応じない理由を疎明し、審査会が理由を受諾すれば提供を拒むことができる。さらに、審査会が行政機関の長の理由を受諾しない場合も、審査会は、更にその特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある旨の内閣の声明を要求できるにすぎず、特定秘密の提供をさせることはできない。結局、行政機関の長の特定秘密を提出しない理由に合理性がないと審査会が判断しても、特定秘密の提供を行政機関の長は拒否できる仕組みである。
また、審査会が行う特定秘密の指定・解除を始めとする運用改善等の勧告も、政機関の長に対して、なんらの強制力も有さない。
さらに、内部者からの通報により特定秘密の指定・解除の妥当性を検証する内部通報者制度が存在せず、内閣が、行政機関の長等とともに、特定秘密の指定権を濫用した場合、内部告発により、審査会が認知することも期待できない。
4 仮に、審査会に対し、特定秘密が提供されても、特定秘密の利用は審査会委員各議院が議決で定める者、その事務を行う職員に限定されている。
 審査会の事務を行う職員は適性評価を受け、秘密漏えい等の罰則が適用されることなど秘密厳守が何よりも優先され、審査会委員である議員自身も、当該特定秘密の内容の当否を判断するために他の議員や専門家の意見を確認することもできない。
そもそも、両議院の国政調査権は、証人の出頭及び証言並びに記録の提出等を通じ、行政権等の保有する情報を開示させ、内閣を始めとする行政権に対する監督・統制機能を確保するとともに、国民の知る権利に奉仕する機能を有しており(憲法62条)、これまで両議院の委員会若しくは合同審査会(以下、「委員会等」と言う。)に付託する方法により、行使されてきた。そして、証人の宣誓及び証言中の撮影及び録音は、委員会等の許可を要するとされているが(議院証言法5条の3第1項)、国政調査権が、憲法上、両議院に付与されていること、及び、両議院の本会議が原則公開とされていることに鑑み(憲法57条1項)、これまで委員会等では、撮影及び録音が可及的に許可され、国政調査権の行使により、国民の知る権利に資する機能を担保していた。
しかし、各院情報監視審査会規程によれば、審査会は、常時、秘密会とされており、審査会の委員ら以外に特定秘密に関する情報が提供されることはない。また、委員以外の議員は、そもそも情報自体に接する機会すらないため、当該特秘密に関連する政府の政策決定の当否についてすら、国会内で自由かつ闊達に議論することができなくなり、かえって、政府に対する監視を職責とする両議院及び国会議員の権限が大きく抑制される。
5 当会は、特定秘密保護法が、① 政府の保有情報は本来主権者たる国民に帰属するものであるとの基本的視点を欠いていること、② 秘密指定の対象が広範かつ無限定であり「特定秘密」の恣意的な指定がなされる恐れが強いこと、③ 現行法制度で情報保全はすでに十分になされていること、④ 処罰範囲があいまいで、報道機関による取材への萎縮効果を生むこと、⑤ 適正評価制度はプライバシーの侵害の危険性があることなどの理由から、同法の成立前から反対し、成立以降も同法を廃止若しくは抜本的な改正を訴えている。
 当会の指摘する以上の問題点は、極めて多岐にわたり、かつ、国民の基本的人権にかかわる重大な問題を孕んでいる。今般、情報監視審査会設置法の審議を通じ、政府の約束していた「第三者的機関」の設置は、特定秘密保護法の有する問題点を何ら解決するものではないことも判明した。
よって、当会は、改めて、特定秘密保護法の廃止若しくは同法の抜本的な改正を求める次第である。
2014年(平成26年)6月25日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

集団的自衛権の行使容認に改めて反対する会長声明
1 現在、安倍晋三総理大臣は、他国に対する武力攻撃を防衛するため、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、武力を行使する国際法上の権利である集団的自衛権を行使することを可能とする政府解釈を閣議決定するとの意向を表明している。
 当会は、2013年11月13日、政府解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する声明を発表しているが、今般の発表を受け、改めて、以下の理由により反対する。
2 これまで政府は、戦後一貫して、憲法9条の下における自衛権の行使は、政府がいうところのいわゆる「個別的自衛権」に限定され、① 我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)があり、② これを排除するために他に適当な手段がない場合に、③ 自衛権の発動として行われた実力行使が必要最小限度に限って、許容されるものであるとしてきた。そして、1972年には、政府は、我が国が直接武力攻撃を受けていない場合にまで実力行使を認める集団的自衛権は、そもそも、上記①の要件を欠くとして、憲法上許されないとの解釈を表明し、現在まで踏襲してきた。
 以上の自衛権の行使に関する憲法解釈は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意」(憲法前文)した日本国民が、根本的理念の1つとして恒久平和主義を内容とする日本国憲法を制定し、憲法9条において、戦争放棄(第1項)と戦力の不保持及び交戦権の否認(第2項)を規定していながらも、我が国の自衛のために必要最小限度の実力を行使する任務を遂行する自衛隊を保持しうる根拠として用いられ続けてきたものでもあった。
ところが、政府は、憲法解釈の変更にあたって、1972年の政府による憲法解釈を援用した上で、一定の場合に、他国に対する武力攻撃があった場合にも我が国の自衛隊による実力行使を容認するようである。
しかしながら、1972年の政府の憲法解釈は、「我が憲法の下で、武力行使を行うことが許されるのは、我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とする集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」として、国際法上の権利である集団的自衛権の行使は、憲法9条により禁止されていると結論しているのであるから、政府の解釈変更が論理的整合性を欠くことは明らかである。
3 憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を容認しようとする政府の行為は、憲法改正手続によらず、憲法9条を改変するに等しく、政府の行為のみで国家権力を制約する憲法規範の変更を許せば、政府の憲法解釈次第で、憲法に規定される基本的人権の内容は容易に変更されかねない。
 憲法とは、私たち市民が、国会議員や国務大臣、裁判官など国家権力を有する者らに遵守させることにより、国家権力を制限するための法であり(憲法99条)、国会の制定する法律、内閣の制定する政令等とは異なる。全ての人々が個人として尊重されるように、憲法が国家権力を制限して人権を保障する立憲主義を前提とした法体系は、我が国を始めとする多くの国家が共有している。そして、我が国の憲法は、日本国憲法を最高法規とし(憲法98条1項)、憲法規範を変更するための憲法改正手続(憲法96条)を置いている。我が国において国家権力を制約する憲法規範を変更する場合、必ず憲法改正手続を経なければならない。このため、我が国の憲政史上、憲法改正によることなく、政府の憲法解釈の変更によって、国家権力を制限する憲法規範を変容させ、制限されていた国家権力の行使を試みた例はなかったのである。
 仮に、「我が国を取り巻く安全保障環境」の変化が発生し、集団的自衛権の行使を制約する憲法規範を変更し、集団的自衛権を行使する必要が生じたのであれば、政府は、国民に対し、我が国の安全保障政策上、早期に憲法改正手続を経る必要がある事情を開陳し、全国民の代表である国会議員らによる憲法改正の発議を待つほかない。
4 今般、政府は、これまでの集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の変更を行う意向を表明したが、集団的自衛権の行使のためには、現行の自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法、PKO協力法などの関連法の改定が必要である。しかしながら、集団的自衛権の行使を制約する日本国憲法の規範は憲法改正手続を経ない限り、変更されないから、改定された関連法は、最高法規である憲法に抵触し、ことごとく無効である(憲法98条1項)。
5 政府は、集団的自衛権の限定的行使が可能であるかのように説明する。しかし、集団的自衛権の行使は、我が国の相手国に対する武力の行使と評価され、常に、相手国との間で我が国が全面的な戦争となる可能性、及び、自衛隊員の殺傷のみならず、相手国が我が国の領土等を直接攻撃することにより市民に被害が及ぶ可能性を覚悟しなければならない。我が国としても、市民の安全確保のため、相手国に対し、我が国の領土等に対する攻撃を断念させる程度の武力行使は必要であり、そもそも集団的自衛権は限定的に行使できないものである。
 結局、集団的自衛権の行使は、国民の生命、身体、財産の甚大な被害を生じる可能性が高く、国民投票を予定する憲法改正手続を経ずに容認されるべきものではない。
6 以上の次第で、政府の憲法解釈の変更を行う閣議決定のみによって、日本国憲法が禁じる集団的自衛権の行使を試みようとする政府の行為は、我が国の立憲主義に抵触するものであるから、改めて強く反対する。当会は、今後、集団的自衛権の行使に向けた立法行為についても監視し、引き続き、市民に対し、集団的自衛権の本質をふまえた情報を発信し続ける所存である。
2014年(平成26年)6月20日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」に反対する会長声明
第1 趣旨
当会は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案について、反対の立場を表明し、同法案の廃案を求める。
第2 理由
1 国際観光産業振興議員連盟に所属する有志議員により「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」案(以下、「本法案」という。)が国会に提出され、今国会中にも審議入りする可能性があるとの報道がされている。
 同法案は、現行法上「賭博」として処罰の対象となるカジノについて、一定の条件のもとでの設置を許すための諸措置の推進を政府に義務づけるものである。
2 しかしながら、カジノが合法化される場合、暴力団の新たな資金源確保の機会を与え、マネーロンダリングに利用される可能性がある。また、風俗環境の悪化は避けられず、難治性の疾病であるギャンブル依存症の患者は増加し、カジノでの賭け金をめぐる犯罪や、暴力団らの縄張りをめぐる犯罪なども増加する恐れが高い。そして、本法案が予定しているカジノは、会議場、レクリエーション施設等と一体となった、いわゆる「統合型リゾート(IR)方式」であり、家族で出かける先に賭博場が存在するのであるから、青少年は幼いころから賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長せざるをえず、青少年の健全育成に対する悪影響ははかり知れない。さらには、カジノでの賭け金を捻出するための借金が増えることも考えられ、成果をあげてきた多重債務者対策に水を差すことにもなりかねない。
そもそも、我が国の刑法が賭博を禁じているのは、「勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風……を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらある」(最高裁判決昭和25年11月22日)からである。カジノを合法化する場合、こうした弊害を生じることがないか、具体的な対策によって弊害を除去できるのかといった点について、事前の、慎重かつ客観的な調査、検討が行われるべきである。にもかかわらず、本法案は、弊害除去のための具体的な対策を示すことさえしないまま、カジノを合法化するという結論を先決めしてしまっており、このことは、賭博罪の立法趣旨を大きく損なうものといわなければならない。
また、現在特別法において公認されているいわゆる公営ギャンブルと比較しても、民間企業の設置、運営にかかるカジノにおいて、公共の信頼を担保することは困難であるといわざるを得ない。
3 以上により、当会としては、本法案に断固反対し、その廃案を求めるものである。以上
2014年(平成26年)6月13日
兵庫県弁護士会会長武本夕香子

法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会「事務当局試案」のうち取調べの録音・録画に関する会長声明 1 2014年(平成26年)4月30日開催の法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下「特別部会」という)第26回会議において、「事務当局試案」(以下「試案」という)が提示された。
この特別部会は、郵便不正事件など捜査機関の信頼性を大きく揺るがす事態の発生を受け、「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など」について法務大臣から諮問を受けた部会である。
しかし、取調べの録音・録画について、試案の内容は、上記の諮問の趣旨に沿った内容とはなっておらず、日本弁護士連合会や当会が求めていたすべての事件についての例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)からも程遠いものである。
2 まず試案は、①取調べの録音・録画の対象者を、身体拘束を受けている被疑者に限定している。
しかし、身体拘束前の被疑者に対する取調べにおいて虚偽自白が強要されるケースが多いことは、足利事件の菅家利和氏の例などからも明らかであり、身体拘束前の取調べを対象から除外する合理的理由はない。また参考人に対する取調べ、特に共犯者的参考人に対する取調べにおいて不適正な取調べがなされえん罪の原因となったことは郵便不正事件などからも明らかであり、参考人に対する取調べも録音・録画の対象とすべきである。
3 次に、試案は、②対象事件を裁判員制度裁判に限定するか(A案)、限定しないとしても裁判員制度裁判以外の事件については録音・録画を行う対象から警察官の取調べを除外し検察官の取調べに限定している(B案)。
しかし、まずA案についていえば、裁判員制度対象事件に限定する合理的理由はない。特別部会が設置される大きな契機となった郵便不正事件や虚偽自白が強要されたことが明らかとなったPC遠隔操作事件や志布志事件などの例をあげるまでもなく、裁判員制度対象事件以外でも虚偽自白を強要され、のちにえん罪であることが明らかとなった事例は枚挙にいとまがない。裁判員制度対象事件は全事件の3%以下にすぎず、それ以外の殆どの事件で、虚偽自白の強要によるえん罪の危険が残存するのである。
 次にB案についていえば、録音・録画の対象から警察官の取調べを除外し検察官の取調べに限定する合理的理由は全くない。警察官の取調べでこそ虚偽自白が強要され、この虚偽自白が検察官取調べにおいても維持されるという現実の取調べの実態が無視されている。警察官取調べこそが、あらゆる事件について可視化の対象とされなければならない。
4 さらに、試案は、③録音・録画の例外として
ア 機器の故障その他やむを得ない事情で記録をすることが困難なとき
イ 被疑者が記録を拒否したことその他の被疑者の言動により記録をすれば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき
ウ 被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合、被疑者もしくは親族に害を加え又はこれらの者を畏怖もしくは困惑させるおそれがあり、十分な供述をすることができないと認めるとき
エ 暴力団構成員の犯罪であるときを認める。
しかし、
ア 機器が故障した場合は代替機器を準備すべきであり
イ 警察官などの示唆等を受けて被疑者が記録を拒否する恐れもあり、また「十分な供述をすることができないと認める」主体が捜査官であることから恣意的運用の危険があり
ウ 被疑者、その親族への加害のおそれ、畏怖、困惑のおそれについては、要件があいまいでかつ認定主体が捜査官であることから恣意的運用の危険が高く、この除外事由によって制度そのものが骨抜きとされるおそれがあり
エ 暴力団構成員による犯罪については、被疑者の属性によって除外を認める点で不適切である。
このように試案が認める除外事由は恣意的運用の危険を否定できないのであり、除外事由を認めるとしても極めて限定的で、かつ、客観的な基準により事後的な検証が可能なものに限定されるべきである。
5 また試案は、④検察官が取調請求をした不利益な事実を承認する被告人の供述調書について、弁護人が異議を述べた場合には、検察官は任意性立証のため当該調書が作成された取調べの開始から終了までの記録媒体に限定して取調請求するものと規定し、これ以外に記録された録音・録画の媒体が開示される場面を明示していない。
しかしこれでは、検察官が証拠取調請求した供述調書が作成された取調べ以外の取調べの状況について検証できる保障がなく、例えば供述調書を取らない取調べにおいて虚偽自白を強要しその状況を利用して再度改めて取調べが行われ引き続き虚偽自白がなされる場合が想定されるなど、取調請求された供述調書における供述の任意性について十分な検証をできない。また公判前整理手続に付されない事件においては、検察官が証拠請求した供述調書が作成された取調べ以外の取調べについては、取調べの状況のみならず録音・録画の義務が果たされたか否かすら検証できない点で、録音・録画の義務付けが尻抜けになるおそれがある。
6 以上①~④の通り、試案は、前記諮問の趣旨である「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査」の見直しとはいえず、日本弁護士連合会や当会が求めていたすべての事件についての例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)からも程遠い。そして、試案は、今後録音・録画の対象を拡大する具体的日程、工程に一切触れておらず、このまま法制化されれば、対象範囲の見直しがなされないおそれが高い。そして、将来にわたり対象範囲の拡大に向けた見直しがなされないとすれば、却ってえん罪が多発することとなりかねないことが危惧される。
 当会は、例外なき被疑者取調べの可視化(全過程の録音・録画)を求める立場から、今後録音・録画の対象を拡大する具体的日程、工程を何ら明示せずこれを担保しない試案の撤回を求め、今後特別部会においては、諮問の趣旨に立ち返り議論を行うことを求める。
2014年(平成26年)5月23日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 武 本 夕香子

2014(平成26)年3月19日
法曹養成制度改革推進会議御中
法曹養成制度改革顧問会議御中
法曹養成制度改革推進室御中
申入書
埼玉弁護士会
会長 池 本 誠 司(公印省略)
千葉県弁護士会
会長 湯 川 芳 朗(公印省略)
栃木県弁護士会
会長 橋 本 賢 二 郎(公印省略)
群馬弁護士会
会長 小 磯 正 康(公印省略)
山梨県弁護士会
会長 東 條 正 人(公印省略)
長野県弁護士会
会長 諏 訪 雅 顕(公印省略)
兵庫県弁護士会
会長 鈴 木 尉 久(公印省略)
愛知県弁護士会
会長 安 井 信 久(公印省略)
山口県弁護士会
会長 大 田 明 登(公印省略)
佐賀県弁護士会
会長 桑 原 貴 洋(公印省略)
大分県弁護士会
会長 千 野 博 之(公印省略)
仙台弁護士会
会長 内 田 正 之(公印省略)
山形県弁護士会
会長 伊 藤 三 之(公印省略)
秋田弁護士会
会長 江 野 栄(公印省略)
札幌弁護士会
会長 中 村 隆(公印省略)
第1 申入の趣旨
 現在構想されている法曹人口調査検討の手法を抜本的に見直すとともに、調査検討の結果を待つことなく2014(平成26)年司法試験から直ちに司法試験合格者数の大幅減少に踏み切ることを求める。
第2 申入の理由
1 現在、法曹養成制度改革推進室(以下、推進室という)は、法曹人口に関する調査を2015(平成27)年3月まで続け、この調査結果が出るまで法曹人口に関する政策的提案は行わないという見解を表明している。そして、その調査の視点、具体的な調査方法、調査項目等については、学者で構成される法曹人口調査検討会合(以下、調査検討会合という)における検討に委ねることになっている。しかし、このような法曹人口問題に関する調査検討の方法には、以下に述べるように重大な疑義があると言わざるを得ない。
2 まず第1に、調査が終わるまで一切の政策的提案を行わないとしている点である。上記のような調査を行うまでもなく、現状の2000人の司法試験合格者数で様々な弊害が生じていることは明らかであり、これに対する対処は一刻の猶予も許されない状況になっている。法曹養成制度検討会議と法曹養成制度関係閣僚会議が「司法試験合格者数を3000人程度とする数値目標は現実性を欠く」旨を決めたのも、現状で弊害が認められるからである。
 既に2012(平成24)年に総務省による政策評価がなされているのであるから、改めて大がかりな調査を行うまでもなく、2014(平成26)年の司法試験から直ちに司法試験合格者数の削減に踏み切るべきである。この点は、すでに2013(平成25)年12月2日付の10弁護士会連名による申入書でも述べたとおりである。
3 第2は、これから行われようとしている調査検討手法の問題点である。推進室は、法曹人口調査の視点・考慮要素例(案)として、需要、質の確保・法曹の供給、対比的視点、均衡的視点、公益的業務等をあげた上で、既存のデータ分析に加えて新しいデータの収集・分析を学者からなる前記調査検討会合に委ねようとしている。
しかし、1年以上にわたる大がかりな調査検討を経なければ、当面の司法試験合格者数を動かし得ないということは、およそ理解しがたいことである。たとえば、公認会計士、医師、歯科医師等においても、その人口の過不足が問題とされ、養成数の増減が行われたことがあるが、その際においても上記のような大がかりな調査が行われたことはない。側聞するところによれば、調査検討会合は、インターネットによる意識調査等を検討しているようであるが、そのような一般的な意識調査が差し迫って必要なものとは思われない。今行わなければならないことは、現実に発生している弊害をいかにして除去するかという現実的・実践的な課題であり、理想的な法曹人口はいかにあるべきかという抽象的な議論ではない。
また、前記調査検討会合の構成員に、実務を担う法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)が含まれていないことは問題である。どのような調査をいかにして行なうのかという調査の在り方自体にも法曹三者の意見を反映させなければ、実務と遊離した意味に乏しい調査となるおそれがある。
4 以上のとおり、データの収集・分析を学者グループによる学術的研究に委ね、理想的な法曹人口はいかにあるべきかという抽象的な議論を悠長に行うのではなく、現実に発生している弊害を除去するという実践的な観点から、当面する法曹人口の調査検討が行われるべきである。こうした観点からは、次回の司法試験から直ちに合格者数の削減に踏み切るべきであるとともに、一度合格者数を変更したからといって、それを固定化する必要もない。削減によって弊害が除去されたかどうかを年々検証しながら、その後の合格者数をどうするべきかについて継続的に検討していく態勢を整備するべきである。学者のみによって構成される調査検討会合のあり方についても、抜本的に見直すべきである。以上

会長談話
本日、当会会員である安村友宏会員が、弁護士業務を遂行する上で預かった金銭である427万円を横領した容疑で逮捕されました。この金額は、同会員が横領した金銭の一部にすぎないと思われますが、現在も西宮警察署による捜査が進行しているところであり、捜査当局による全容の解明が待たれます。
 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものと考えます。
あらためまして、当会会員の重大な非行により、本件の関係者に著しい被害を与えたことに遺憾の意を表明しますとともに、既に当会においては同会員に対する懲戒手続を進行させているところであることを申し添えます。
 当会は、このような事態に至ったことを苦い教訓として、依頼者や市民からの情報提供に基づく不祥事の早期察知を進め、また、預り金規定の改正による弁護士会の調査権限の強化をはかっているところです。今後とも、より効果的な非行防止策を検討し、会員一人ひとりの倫理意識の向上により一層取り組む所存です。
2014年(平成26年)2月13日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

死刑執行に関する会長声明
2013年(平成25年)12月12日,2名に対する死刑が執行された。現政権下では,今年に入って2月21日に3名,4月26日に2名,9月25日に1名に対して死刑が執行されており,合計8名に死刑が執行されたことになる。当会においては,国民的議論が十分尽くされるまで死刑の執行を停止することを求める旨の声明を,過去繰り返し公表してきたところ,現政権がこのように性急とも言える頻度で死刑の執行を継続していることは極めて遺憾であり,強く抗議する。国際社会においては,世界の3分の2以上の国々が,死刑を既に廃止ないし停止しており,隣国である韓国においても1998年以降死刑の執行を停止しており,事実上の廃止国とされている。また国連総会は,2012年12月,「冤罪で死刑が執行されれば取り返しがつかない。死刑が犯罪抑止効果を持つとの確実な証拠もない。」と指摘し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議案を採択している。国際人権(自由権)規約委員会からも,日本は,「世論調査の結果にかかわらず,死刑制度の廃止を前向きに検討」すべきとの勧告を受けており,死刑執行は「日本が抱える最大の人権問題の一つ」である。死刑制度に関する情報を広く国民に公開し,死刑存廃等についての議論を呼びかけることは国の責務である。裁判員制度において,裁判員は現に死刑を含む量刑判断に参加しており,死刑制度に関する情報の周知と議論の開始は,喫緊の課題である。当会としても,2013年2月に日本弁護士連合会が法務大臣宛てに要請したとおり,死刑制度の廃止について全社会的議論を開始すべく,存置,廃止,中立の各立場から人選された有識者会議の設置を要請する。
そして,死刑制度の在り方について広く冷静に議論を進めるため,死刑の執行は,速やかに停止されなければならない。刑事訴訟法において,刑罰の執行が一般に検察官の指揮のみをもって行いうるのに対し,死刑の執行については法務大臣の命令によるものとされている(同法475条1項)趣旨は,死刑執行の可否については法務大臣の高度な人道的,政治的判断を許容するためであり,死刑に関する全社会的議論の間に死刑の執行を停止することは許容されている。また,同条2項は,死刑執行の命令につき「判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。」と定めているが,これは訓示規定であり,執行停止の妨げにはならない。
 以上,当会は,死刑制度に関する情報の公開,有識者会議の設置及び死刑執行の速やかな停止を,改めて強く求める。
2013年(平成25年)12月12日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

会長談話
当会は、預り金を費消したとして兵庫県西宮警察署に自首をした当会の安村友宏会員に対し、弁護士法56条1項の弁護士としての品位を失うべき非行があるとして、12月4日付けで、当会の綱紀委員会に事案の調査を請求しました。
詳細は尚不明ですが、当会会員が引き起こした非行により、本件の関係者に著しい被害を与えましたことを誠に遺憾に思いますとともに、これによって弁護士及び弁護士会に対する信頼が損なわれたことを深くお詫びいたします。弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものです。今回のような預かり金の費消など、弁護士である前に、社会人として許されるものではありません。
 当会では、これまでも、会員に対して、弁護士の使命に立ち返り、襟を正して真摯に職責を果たすように繰り返し注意喚起して参りました。しかし、会員が、このような事態を引き起こしたことから、改めて、会員の倫理意識向上に向けた取組に努めなければならないと考えております。そのためにも、本件の非行の原因究明を含め、効果的な対策を講じていくための取組を強めていく所存です。
2013年(平成25年)12月10日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

特定秘密保護法の成立にあたっての会長談話
特定秘密保護法案の採決が、衆議院に続き、平成25年12月6日、参議院でも十分な審議のないまま与党により強行され、特定秘密保護法が成立した。
 主権者たる国民が公共的な事柄に関する情報を得た上で、国政について判断することは、国民主権の原理に基づく民主主義のもとで「知る権利」として保障され、また、報道機関の取材活動の自由は、報道に不可欠の前提であり、国民の「知る権利」に奉仕するものとして、憲法により保障されている。
 今般成立した特定秘密保護法は、国民の知る権利や報道の自由の侵害する危険が高く、「特定秘密」の範囲が曖昧で行政機関による恣意的な拡大解釈のおそれがあり、いたずらに曖昧かつ広範囲に重罰を適用するものであり、また、適性評価によるプライバシー侵害は避けられず、国民の自由な表現行為を威圧し萎縮させる弊害が著しい。国際的な指針である「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)に照らしても、およそ民主主義国家の法律とは思われないような内容のものである。また、国会における審議の過程で、参考人や公述人の多くが上記のような問題点を指摘し、反対意見を述べたにもかかわらず、十分な検討を加えないまま、採決が強行された。手続的に見ても、特定秘密保護法の成立経過は、民主的に行われたとは言い難い。
 当会は、特定秘密保護法の成立に抗議するとともに、同法の施行をひかえ、引き続き、その問題点を解消するための諸活動を行う決意である。
2013年(平成25年)12月10日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

法曹養成制度改革推進会議 御中
申 入 書
2013(平成25)年12月2日
埼玉弁護士会
会長 池 本 誠 司
(公印省略)
千葉県弁護士会
会長 湯 川 芳 朗
(公印省略)
栃木県弁護士会
会長 橋 本 賢 二 郎
(公印省略)
群馬弁護士会
会長 小 磯 正 康
(公印省略)
長野県弁護士会
会長 諏 訪 雅 顕
(公印省略)
兵庫県弁護士会
会長 鈴 木 尉 久
(公印省略)
山口県弁護士会
会長 大 田 明 登
(公印省略)
佐賀県弁護士会
会長 桑 原 貴 洋
(公印省略)
大分県弁護士会
会長 千 野 博 之
(公印省略)
札幌弁護士会
会長 中 村 隆
(公印省略)
第1 申入れの趣旨
年間司法試験合格者数の大幅減員への早急な対応を求める。
第2 申入れの理由
1 政府は、法曹養成制度関係閣僚会議の決定において、本年7月16日、法曹養成制度検討会議の取りまとめを受け、今後の法曹人口の在り方について、法曹人口に関する調査を行い、その結果を2年以内に公表するとした。
2 しかし、法曹人口は、司法制度改革審議会意見書(2001年6月)において増員が提言されていた裁判官、検察官の増員がもっぱら予算上の理由のみで抑制されたまま、弁護士人口のみが急増している。また、司法修習終了後の一括登録時における未登録者数は、年々増加の一途を辿り、昨年度は546人、今年度はさらにその数を上回る状況である。
その結果、新規登録弁護士の就職難が社会問題化していることは周知の事実である。既存の法律事務所において研鑽(OJT)の機会すらない新人弁護士が急増すると、国民の基本的人権の尊重や社会正義の実現という弁護士の責務を充分に尽くすことができず、その不利益が国民に及ぶおそれを生じさせる。
3 しかも、弁護士需要の主たる指針となる裁判所での訴訟件数は、弁護士数が急増しているにも関わらず減少の一途である。このような現状では、新規登録弁護士は、就職難とあいまって研鑽の機会がさらに減少するおそれが大きい。
4 さらに、法科大学院入学志望者数の推移にみられるように法曹志望者が激減している実情は、この問題が一刻の猶予も許されない極めて深刻な事態であることを示している。
 法曹志望者の激減の原因は、法曹資格取得後の就職や開業に十分な見通しを立てることができない司法修習修了者や新規登録弁護士の実情が明らかになっているためである。このような状況が今後も続く限り、将来法曹を担うべき有為な人材がいなくなることになり、司法が機能しなくなる可能性も否定できない。弁護士人口が既に供給過多に陥っていることは総務省による政策評価(2012年4月)によって明らかにされ、長野県議会(2010年7月)、埼玉県議会(2012年12月)、北海道議会(2013年7月)、静岡県議会(2013年10月)でも需要に見合った司法試験合格者数の減員を求める意見書が採択されている。
5 そのような中で今年度の司法試験合格者数も2000人を超えた。この状況を放置し2年間も結論を先送りすることは法曹制度そのものの崩壊を招くことにならざるを得ない。
よって、来年度に向けて直ちに司法試験合格者数の大幅な減員のための方策を具体化することを強く求める。以 上

特定秘密保護法案に反対する会長声明
1 特定秘密保護法案(以下「本法案」という)が、本年10月25日に第185国会(臨時会)に提出され、11月7日から衆議院における審議が開始された。
 当会は、特定秘密の保護に関する法律案の概要に反対する意見書を本年9月17日に発表している。当会が、同法律案概要に反対した理由を要約すれば次のとおりである。すなわち、①国民主権の原理に基づく民主主義のもとでは、行政機関など政府が保有する情報は主権者である国民に帰属するのであり、原則として国民は政府が保有する情報を自由に入手する権利を有し、これを保障する国民の知る権利、報道の自由、取材活動の自由は、基本的人権のなかでも優越的地位を有すると位置づけられ、最大限に尊重されるべきであるにもかかわらず、同法律案概要は、このような基本的な視点を欠如したものであること、②別表に掲げる特定秘密指定対象となる情報が広範かつ無限定であり、行政機関の長によって恣意的に「特定秘密」として指定される危険性が極めて高いこと、③秘密として保護する必要のある情報の保全は現行法によって十分に行えており、知る権利を制限してまで新たな立法を行う必要性がないこと(立法事実の欠如)、④処罰対象とされる行為の範囲が曖昧であり、かつ、共謀行為、教唆行為、扇動行為自体が処罰対象とされるため、情報開示を求める市民活動や報道機関の取材活動について、処罰対象となるか否かの範囲が不明確で、恣意的な捜査が行われる恐れがあり、萎縮効果によって知る権利が侵害されること、⑤適正評価制度に基づく素行調査によって、当該秘密を扱う職員(公務員に限定されない)のみならず、多くの市民の情報も収集可能となり、プライバシー侵害の危険性があること、などである。
2 国会に提出された本法案では、①特定秘密の指定等の運用基準の作成に関する条項(本法案18条)、②法律の解釈適用について、報道及び取材の自由への配慮規定及び「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為」について、一定の場合には正当な業務行為とする旨の規定(本法案21条)がそれぞれ盛り込まれる修正がなされた。
しかし、これらの修正や本法案に関する国会での審議状況を踏まえても、以下述べるとおり、先に指摘した本法案の問題点は、全く解消されていない。
3 本法案で新たに盛り込まれた条項と知る権利侵害の危険性
 第1に、本法案に盛り込まれた特定秘密の指定等についての運用基準に関する条項によっても、当該基準自体が公開される保障はなく、基準作成について有識者の意見を聴くとはしているが、基準作成の主体は、あくまで政府であって、本法案における特定秘密対象情報の限定が極めて曖昧であるのと同様に、基準自体が極めて曖昧になる危険性は高い。
しかも、あくまで基準を作成するだけであり、各行政機関の長がどのような情報を「特定秘密」として指定しているのかは、全くのブラックボックスの中であって、特定秘密の指定自体が恣意的に行われることを防止するための第三者機関によるチェック制度などの法的担保は全く考えられていない。この点、衆議院本会議で安倍晋三首相は、特定秘密の指定の適否について「行政機関以外のものが行うのは適当ではない」として、第三者によるチェック制度を設けることを頑なに拒否している。これでは、特定秘密の指定が恣意的かつ無限定になることは避けられない。
 第2に、報道の自由及び取材の自由への配慮規定が設けられても、あくまで訓示規定に過ぎず、恣意的な運用が懸念されている行政機関や捜査機関による配慮によって権利が保障されることにならないことは多言を要しない。報道機関等の取材行為について、一定の要件のもとで正当業務行為となると規定されても、そもそもオンブズマン活動など市民による活動は保障の対象とはなっておらず、かつ、同規定では正当な業務とされる要件は「著しく不当な方法によるものと認められない限り」と限定されており、「著しく不当」か否かの判断は運用者の解釈に一任されているのであるから、報道及び取材活動の自由への侵害の恐れは全く払拭されていない。この点は、国会の審議を通じても、何が正当な取材行為として保障されるのかについて明確な答弁がされていないことでも裏付けられている。しかも、共謀罪の処罰規定はそのままであって、たとえばある情報が特定秘密として指定されているかも知れないが、当該情報の重要性故にたとえ特定秘密であっても取得して報道しよう、と考えた報道機関が、その内部で取材方法を協議すること自体も協議内容によっては処罰対象とされる危険性は放置されたままである。
4 米国の秘密保全法制との不均衡
 本法案の必要性について、政府は「外国との情報共有」のために我が国の秘密保全制度を整備しなければならないと強調しているが、ここにいう外国とは主にアメリカ合衆国(以下「米国」という。)を指すことは異論なかろう。そこで、本法案が米国における秘密保全法制との均衡がとれたものとなっているかどうかを検討することは、相互主義の観点からも重要なことである。
 米国では、議会の特別委員会における審査のほか、大統領令13526号により、国立公文書館の情報保全観察局長による機密解除請求、一般市民による機密解除請求がなされた場合の必要的機密解除審査、国立公文書館内に設けられた国家機密解除センターによる機密指定解除、省庁間機密指定審査委員会による機密指定審査など秘密指定権者の権限濫用を防ぎ、秘密指定を適正化するための制度が二重三重に設けられている。しかるに本法案にかかる制度は用意されていない。また米国では、同大統領令により、原則として機密指定の際に、機密解除を行う特定の期日(10年未満もしくは10年、最長でも25年)を定めなければならないとされ、当該特定の期日の到来によって原則として自動的に機密指定は解除されることになっている。他方、本法案では、特定秘密の指定時に5年を超えない期間で指定の有効期間を設定する旨を規定しているが、同期間は延長することが可能であり、かつ、指定期間の最長期限も定められていない。この点、安倍晋三首相は、衆議院本会議において、秘密解除のルールにつき、「一定期間の後に一律に秘密指定を解除するのは困難」と答弁しており、いったん秘密指定を受けた特定秘密は、永久に国民の目にさらされることはない可能性があることを公言しているのである。のみならず現行の公文書管理法を前提とすると秘密指定解除の有無に関わらず、秘密指定された文書の保存さえも期待できない。
その結果、我が国において特定秘密として指定された情報が、米国経由で入手され、報道されるという事態も本法案のもとでは生じ得るのである。米国経由でしか情報が入手できないという事態は、民主主義国家としては嘆かわしい状況である。本法案においては、民主主義国家における情報公開の重要性に対し、何らの配慮もなされていない。すなわち、本来政府が保有する情報は国民に帰属するのであり、たとえ特定の情報を秘密として保護する必要があるとしても、行政機関による権限の濫用を常に国民が監視する必要があり、国民主権のもとでは、常に国民の知る権利の保障を最優先に考えるべきであるという基本的な視点が欠如しているのである。
5 国際的指針(ツワネ原則)からの検証
 本年6月12日、南アフリカ共和国の首都、ツワネにおいて、国際連合、人及び人民の権利に関するアフリカ委員会、米州機構、欧州安全保障協力機構の特別報告者を含む世界70カ国以上500人以上の専門家により14回の会議を経て、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)」が策定、公表された。ツワネ原則は、安全保障に係る情報保全と表現の自由・知る権利をどう調整するかという観点から、関係法令の起草に関わる人々に対する指針として作成されたものであり、既に欧州評議会の議員会議でも引用されるなど国際原則としてその地歩を固めつつあり、本法案の審議においても斟酌されるべき原則である。ツワネ原則においては、政府は、秘密にしうる情報に関して、防衛計画、兵器開発、諜報機関により使用される作戦・情報源等の限られた範囲でのみ合法的に情報を制限することができる(原則9)とされており、秘密情報がありうることを前提にしつつも、誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており(原則1)、その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務である(原則4)とされ、適切に秘密の指定がなされていることは、政府の側に立証責任が科されている。
また、ツワネ原則においては、情報は、必要な期間にのみ限定して秘密指定されるべきであり、決して無期限であってはならず、政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきである(原則16)とされている。また、秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきであり、公益に関する情報を優先的に秘密解除する手続も定められるべきである(原則17)とされている。
さらに、裁判手続の公開は不可欠であるとされ(原則28)、刑事裁判において、公平な裁判を実現するために、公的機関は、被告人及びその弁護人に対して、秘密情報であっても公益に資すると思慮する場合は、その情報を開示すべきであり、公的機関が公平な裁判に欠かせない情報の開示拒否をした場合、裁判所は、訴追を延期又は却下すべきであるとされている(原則29)。
そして、ツワネ原則においては、情報漏えい者に対する刑事訴追は、明らかになった情報により生じる公益より、現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす危険性が大きい場合に限って検討されるべきである(原則43,46)とされ、公務員でない者は、秘密情報の受取、保持若しくは公衆への公開により、又は秘密情報の探索、アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではない(原則47)とされている。
 本法案は、このようなツワネ原則で示されている秘密情報の保護に関する指針にことごとく反しており、知る権利を不当に害する危険性が高いものである。
6 結論
 以上のとおり、本法案は、国民の知る権利、報道と取材活動の自由を侵害するという本質的な欠陥を有し、これは、法案に対して多少の修正をしたとしても解消される余地がないのであって、本法案は速やかに廃案とされるべきである。以 上
2013年(平成25年)11月15日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 鈴 木 尉 久

2013年(平成25年)11月13日
集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明
兵庫県弁護士会
会長 鈴木尉久
1 政府は、従前より、自衛権を「国家に対する急迫不正の侵害があった場合に、その国家が実力をもってこれを防衛する権利」であると定義し、このような自衛権を我が国も保有しているところ、自衛権発動のためには我が国に対して急迫不正の侵害があったこと、これを排除するために他の適当な手段がないこと、必要最小限度の実力行使にとどまるべきことという自衛権発動の3要件を備える必要があると説明してきた。
また、政府は、集団的自衛権を「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」とした上で、独立国である以上、このような集団的自衛権を我が国も保有しているが、憲法第9条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権の行使はその範囲を超えるもので、憲法上許されないとしてきた。
このような集団的自衛権に関する政府解釈は、政府が国会答弁において長い年月にわたって繰り返し表明してきたものであり、国民もそのような政府解釈については、定着したものと信頼してきた。
2 ところが、安倍晋三首相は、これまでの政府解釈を変更し、我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在しない場合にも、集団的自衛権の行使に基づく武力の行使を容認しようとしている。
しかし、このような集団的自衛権の容認へ向けての政府解釈の変更は、憲法上、内容的にも手続的にも問題がある。
3 平和は、個人の尊重や人権保障の前提となるところから、憲法第9条は、戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認という恒久平和主義を宣明しているが、この憲法第9条が、自衛権発動の3要件が具備されない状況下で、外国に対して武力攻撃がなされたということを理由とする武力行使を許容しているとはおよそ考えられない。憲法第9条の文言からは、集団的自衛権の行使を容認する解釈は成り立ちえない。
4 現行憲法第9条のもとでは、集団的自衛権の行使は容認されていない以上、どうしても集団的自衛権の行使が必要というのであれば、憲法改正手続によるほかない。上記のような集団的自衛権行使は憲法第9条に違反するとの政府解釈が50年余の長期にわたって安定的に維持されて、規範として機能し、自衛隊の組織・装備・活動等に大きな制約を及ぼし、海外における武力行使を差し控える根拠となってきたことを考えれば、なおさら憲法改正手続により集団的自衛権行使の容認の是非につき主権者たる国民の意思を問う必要がある。
ところが、安倍晋三首相は、平成25年8月8日、内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、その後任に、集団的自衛権行使を容認する考えを表明している元外務省国際法局長で駐仏大使の小松一郎氏を任命した。
また、安倍晋三首相は、首相、内閣官房長官、防衛大臣、外務大臣のみによって中長期的な安全保障政策を検討する「国家安全保障会議(日本版NSC)」を創設すると共に、内閣官房に国家安全保障局及び内閣情報局を設置し、自衛隊及び警察等を中心として収集した情報を内閣官房に集中・集約させる関連法案を、今国会に提出した。さらに、政府の保有する広範な情報のうち、政府に不利益な情報が恣意的に隠蔽され,都合の良い情報のみが公開されるおそれが高く、国民の知る権利や取材の自由に重大な打撃を与える特定秘密保護法案を、今国会に提出した。
このように、正面から憲法改正手続をとることなく、内閣法制局による憲法解釈の変更を図り、あるいは法律によって憲法の基本原理の一つである恒久平和主義を変容させることは、憲法に違反する。
5 憲法前文及び憲法第9条に規定されている恒久平和主義、平和的生存権の保障は、憲法の基本原理であり、時々の政府や政権与党の判断や法律の制定によって、これを変更することは、国務大臣や国会議員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)に反し、憲法が最高法規であり、憲法に反する法律や政府の行為は無効であるとされていること(憲法第98条)に鑑み、許されない。
以上の次第であるから、当会は、政府解釈の変更や法律の制定のみで、集団的自衛権の行使を容認しようとする政府の行為に強く反対する。以 上

会 長 談 話
本日、当会会員である西村義明会員が、預り金を費消した容疑で逮捕されました。
 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とするものであって、その使命に基づき誠実に職務を行うからこそ、市民に信頼され、その職責を果たすことができるものと考えます。当会会員の重大な非行により、本件の関係者に著しい被害を与えたことを誠に遺憾に思いますとともに、これによって弁護士及び弁護士会に対する信頼が損なわれ、その職責を果たすにつき支障が生じることを危惧するものです。
当会は、このような事態に至ったことを苦い教訓として、本件のような非行が生じた原因究明を徹底し、より効果的な非行防止策を検討し、会員一人ひとりの倫理意識の向上により一層取り組む所存です。
2013年(平成25年)6月6日
兵庫県弁護士会会 長 鈴 木 尉 久

「生活保護法の一部を改正する法律案」に反対する会長声明
1 本年5月17日、政府は、「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」という。)を閣議決定した。
この改正案には、憲法25条による生存権保障に鑑み、主に以下の2点において特に看過しがたい問題がある。一つは、保護開始申請における申請書提出及び書類の添付の義務付けの問題であり、もう一つは、保護開始時あるいはそれ以降の保護実施機関から扶養義務者への通知・調査の問題である。
2 まず、改正案24条1項は、保護の開始の申請にあたっては、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。
しかし、要保護者に対しては生存権保障の見地から迅速な保護開始決定が強く要請されるのであり、生活保護窓口における申請の段階においては簡便さが強く求められる。現行生活保護法24条1項は、保護の申請を書面による要式行為とせず、かつ、保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていない。
また、裁判例では口頭による保護申請も認められている(大阪高裁平成13年10月19日判決・裁判所ウェブサイト、さいたま地裁平成25年2月20日判決・裁判所ウェブサイトなど)。実務の運用においても、厚生労働省は、保護を利用したいという意思の確認ができれば申請があったものとして取り扱い、実施機関の責任において必要な調査を行い、保護の要否の決定をなすべきものとしている。
このような、生活保護の申請について添付書類等を要しないとする現行生活保護法の取扱いは、生存の危機における保護の遅延は、国民の生命身体に対し取り返しのつかないダメージを与えかねないという事実認識に基づいている。現に貧困その他の事情により生存を脅かされている状況にある国民に対し、即時に最低限度の生活を保障して生存の危機から離脱させることは、憲法25条による生存権保障の中核的要素の一つであり、生活保護申請にあたっては申請の意思表示のみで足り、何らの添付書類も必要とされないという現行生活保護法の取扱いは、この憲法の精神を体現したものである。
 改正案では、申請書に必要事項の記載や書類の添付を要する旨が強調されており、記載事項や添付書類の不備に藉口した申請の不受理を招く懸念がある。また、困窮した要保護者に申請段階で過度の負担を課すことで申請を断念してしまう事態を招きかねない。実際に、生活保護の窓口においては、今なお生活保護申請を事実上受領しない「水際作戦」と呼ばれる違法な扱いが散見されているが、改正案はかかる「水際作戦」を合法化しようとするものであって、憲法25条による生存権保障の趣旨に反している。
3 また、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、要保護者の扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。それだけでなく、改正案28条2項は、保護実施機関は、保護開始後も扶養義務者に随時調査を行うことができると定めている。このような改正案による扶養義務者に対する通知・調査の制度の新設は、本来生活保護が必要な状況にある国民に対し、親族間の軋轢やスティグマ(恥の烙印)を恐れて保護申請を断念させるという弊害をもたらす危険性が高い。生活保護制度の利用資格がある者のうち、実際に生活保護を利用している者の割合(捕捉率)は、2割程度であると言われており、このように現状においても高いとは言えない補足率をさらに低下させ、一層生活保護の申請を委縮させる危険性がある改正案は、憲法25条による生存権保障の観点からは、到底容認することはできない。
4 生活保護制度は、生存権保障のための最後のセーフティーネットである。格差と貧困が深刻な社会問題となっているわが国において餓死・孤立死・自死や貧困を背景とする犯罪や虐待などの悲劇を防ぐために、生活保護など社会保障制度が果たすべき役割はますます拡大している。改正案は、経済的困窮者を生活保護の利用から締め出すものであり、憲法25条による生存権保障の観点から到底容認できない。よって、当会は、改正案の見直しを強く求める。
2013年(平成25年)5月23日
兵庫県弁護士会会長 鈴木尉久

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」
に対する会長声明
 政府は、2013年(平成25年)4月19日、集団的消費者被害回復のための新たな訴訟制度の導入を内容とする「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律案」を閣議決定し国会へ提出した。同制度の導入は、これまで情報力や交渉力の格差、被害回復のための費用や手間がかかるために必ずしも十分に被害回復が図られてこなかった消費者被害の実効的な救済に資する画期的なものとして評価できる。
この集団的消費者被害回復制度に対しては、拙速な立法であるとか、制度の濫用のおそれがあるなどといった批判も見られる。しかしながら、同制度に関しては、2007年(平成19年)のOECD理事会勧告で消費者被害救済のための集団的な訴訟制度の導入が提言されており、2009年(平成21年)の消費者庁設置法附則でも3年を目途に必要な措置を講じることが定められていたものである。また、消費者に生じた被害が適切に回復されることは公正な市場の実現に資するものであり、企業活動の視点からも積極的に評価されるべきものである。さらに、これまでの適格消費者団体による差止請求の実情などを踏まえると、本制度の濫用のおそれは杞憂というべきであって、当会は、本制度につき、正しい理解に基づいて国会での審議がなされることを期待し、平成25年の通常国会において本制度の導入が実現されることを強く求める。と同時に、本制度の特徴は、消費者契約に関して相当多数の消費者に生じた財産的被害を集団的に回復するため、内閣総理大臣が認定した特定適格消費者団体が訴えを提起して、事業者がこれらの消費者一般に対して金銭を支払う義務を負うべきことを確認した後に、個々の消費者が簡易確定手続に参加することによって消費者被害の簡易迅速な救済を図るという点にあり、このような本制度の特徴を最大限に活かすため、特に以下の点について、今後の国会での審議においてその是正がなされるよう求める。
1 法律案では、法律施行前に締結された消費者契約に関する請求権等については対象としないものとしているが、このような制限は、現に存在している消費者被害の実効的な救済を放棄することに等しく、また、同一事案につき救済される対象消費者と救済されない対象消費者を生じさせることになる。本制度は、もともと消費者になかった権利を新たに認めるものではなく、情報力・交渉力の格差などにより本来賠償されるべきであるにもかかわらず賠償されないままになっているような消費者被害を集団的に回復していく手続法であり、健全な企業であれば当然なすべきことを求めるにすぎないものであって、企業の「予測可能性」などを考慮して対象となる請求権の時的範囲を制約することは不合理である。
また、このような制限は、本制度の導入を議論した集団的消費者被害救済制度専門調査会では全く議論されておらず、これまでに政府から公表されていた制度案等においても一切盛り込まれていなかったものであって、このような重要な制限がこれまでの議論の経過を踏まえずに突然設けられようとしていること自体問題である。
2 法律案では、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用につき、例外なく申し立てた特定適格消費者団体が負担するものとしているが、かかる費用を特定適格消費者団体が負担するものとすると最終的には対象消費者の負担となってしまい、特に低額被害事案での救済が困難となるおそれがある。簡易確定手続に移行した段階においては事業者に一定の金銭支払義務のあることが確認されており、支払手続に必要な費用の一定の負担を求めても不当ではないこと、事業者側も一回的解決というメリットを享受しうることなどから、簡易確定手続における対象消費者への通知または公告に要する費用については、原則として事業者が負担するものとされるべきである。
3 法律案では、相手方事業者が簡易確定手続における対象消費者への通知に必要な対象消費者の住所・氏名等の情報開示命令に応じない場合の制裁を過料としている。しかし、すべての対象消費者に個別に通知が行われてはじめて本制度が実効的なものとなることからすると、対象消費者に関する情報開示は個別通知の前提としてきわめて重要なものであることから、さらに制裁を強化すべきである。
4 本制度が、消費者被害を簡易迅速に救済するとともに、消費者被害を生まない社会の形成に寄与する公益性の高い制度であることに照らせば、本制度を担うことが予定されている適格消費者団体および特定適格消費者団体に対して、相応の財政的支援を含む積極的な支援を行うべきである。
5 法律案の施行後5年経過時において検討されるべき所要の措置に関しては、対象となる事案の拡大などを検討すべき事項として例示すべきである。
2013年(平成25年)5月23日
兵庫県弁護士会 会長 鈴 木 尉 久

2013年(平成25年)6月19日
兵庫県弁護士会
会 長 鈴木尉久
第1 意見の趣旨
憲法改正手続を定めた憲法第96条第1項の発議要件について、現行の「衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成」との要件を緩和することに強く反対する。
第2 意見の理由
1 憲法第96条を改正しようとする最近の動き
自民党は2012年4月27日、日本国憲法改正草案を発表した。これは、現行の日本国憲法における国家と国民との関係を根本的に改変し、基本的人権の保障に関してもその基本的考え方に変更を加えることを内容とするものである。
また、この草案は、憲法改正の手続要件について、現行の憲法第96条を改訂し、現行憲法では各議院の総議員の3分の2以上の多数の賛成がなければ憲法改正の発議ができないとしている要件を、両議院のそれぞれの総議員の過半数で議決できるとするなど著しく緩和している。そして、安倍晋三内閣総理大臣をはじめ政府関係者、自民党幹部及び一部の野党の幹部から、他の憲法の条文の改正よりも、憲法改正の手続要件を定めた第96条の改正だけを先行して行うべきであるとする発言が相次いでなされている。
2 憲法改正発議要件緩和は立憲主義を後退させる
フランス革命時に採択されたフランス人権宣言が、その第16条において、「人権の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、憲法を有するものではない。」としていることからも明らかなとおり、人権保障を目的に権力分立によって国家権力を制限しようとする原理(立憲主義)は、人類の多年にわたる努力の成果であって、全世界で時代を超えて認められる普遍的な原則である。
そして、日本国憲法は、いわゆる硬性憲法であって、その改正には通常の法律に比べ厳格な改正手続(憲法第96条)が要求されている。このような憲法第96条による厳格な改正手続は、必然的に憲法に通常の法律に優る権威を付与することとなり、憲法の最高法規性を形式的側面から支え、憲法の定める人権保障に法律が適合するよう規律することを正当化するとともに、時の政権与党の恣意的動機による憲法改正を防止し、立憲主義を担保する意味合いがある。
 人権は、過去幾多の試練に堪え、世代を超えて、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであり、現在の国民のみならず将来の国民のためのものでもあるから、現時点での議会ないしは選挙権を有する国民の多数決といった民主主義原理は、立憲主義とは緊張関係にある。だからこそ、憲法第96条は、単に有権者の過半数が賛成すれば国民投票で憲法改正できるとはせず、国民投票を行う前に各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議が必要であるとし、慎重を期したのである。
つまり、憲法第96条の規定の趣旨は、立憲主義を擁護するため、国家権力に縛りをかけ、憲法改正を容易にさせないという点にある。したがって、憲法第96条による憲法改正発議の要件を緩和することは、立憲主義を後退させることになる。
3 日本の改正要件は諸外国と比較して厳格に過ぎるとはいえない
これに対して、憲法第96条の改正を主張する意見の中には、諸外国の憲法に比較して日本国憲法の改正要件が厳しすぎるとするものがあり、さらに、戦後一度も改正していないのは国民主権に反するとまで主張するものもある。
しかし、日本だけでなく世界の大多数の国の憲法は硬性憲法である。たとえば、アメリカ合衆国は憲法改正に連邦議会の3分の2以上の議決と4分の3以上の州による承認が必要とされており、日本の発議要件よりは厳しい要件となっているが、戦後6回の改正をしている。戦後58回の改正をしているドイツも連邦議会と連邦参議院のそれぞれの3分の2の賛成ではじめて改正ができる改憲手続制度を持つ。このように厳格な改正規定を持つ欧米の先進国が多数回の改正をしてきた理由は、日本国憲法と違い、憲法の条文の中に、日本では法律で定めている事項を規定しているからである。また、ヨーロッパの場合はEU統合に合わせて各国の改正が必要だったという事情がある。
つまり、そもそも、日本国憲法における改正要件は諸外国と比べて厳格に過ぎるというものではないし、また、諸外国の例をみても改正要件が厳しくとも必要とあれば現実に改正は可能なのであるから硬性憲法が国民主権をないがしろにするとはいえない。日本で戦後憲法改正が行われなかったのは、各議院の総議員の3分の2が支持をするに至るほど国民が必要とし支持する改正案が提示されてこなかったからにすぎない。
4 結論
以上のとおりであるから、当会は、憲法第96条の憲法改正発議要件を緩和することに強く反対するものである。以 上

小野市福祉給付適正化条例の成立にあたっての会長声明
小野市市議会は本日、「小野市福祉給付適正化条例」(以下、「本条例」という)を可決した。当会は2013年(平成25年)3月8日付「小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明」を発して条例案に強く反対し、条例案の撤回・廃案を求めていた。受給者の人権を侵害し、市民等を監視態勢に巻き込み、生活保護等に対する差別偏見を助長するおそれのある本条例が可決したことは極めて遺憾である。
 当会は、上記声明において既に指摘したとおり、本条例が生活保護受給者その他経済的困窮者の人権侵害を招きかねず、違憲の疑いもあることに鑑み、貴市に対し、速やかに同条例を廃止の方向で見直すことを求める次第である。そして、それまでの間、本条例を制定した貴市においては、貴市在住の生活保護受給世帯や児童扶養手当受給世帯等に対する差別偏見が助長されないよう、また経済的に困窮した市民が萎縮して、申請・利用をためらわないように適切な配慮がなされるべきであることを指摘する。
また、本条例により福祉事務所による受給者に対する違法な指導指示がなされないよう憲法並びに生活保護法の趣旨に適う福祉行政が行われるように求める次第である。そもそも、本条例では要保護者の支援、「漏給防止」も目的とされているのであるから、貴市には、生活困窮者に対するなお一層の積極的な支援を期待する。さらに、本条例を制定した貴市においては、全国の自治体に率先してギャンブル依存症対策の充実に取り組まれることを期待したい。
 今後、当会は、関係各機関と連携しながら生活保護受給者等への相談支援体制をより一層充実するとともに、貴市において生活困窮者に対する人権侵害が生じないかについてより一層注視して行く所存である。
2013年(平成25年)3月27日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

「菊池事件」について検察官による再審請求を求める会長声明
2012年(平成24年)11月7日、いわゆる「菊池事件」について、ハンセン病元患者3団体から、検察官が再審請求することを求める旨の検事総長宛の要請書が、熊本地方検察庁に提出された。
 同事件は、ハンセン病患者とされた藤本松夫氏(被告人)が、自分の病気を熊本県衛生課に通報した村役場職員を逆恨みして殺害した等として、1953年(昭和28年)8月29日に死刑判決の宣告を受け、1962年(昭和37年)9月14日に死刑執行された事件である。
 同事件の訴訟手続は、「らい予防法」により一般社会とは隔離されていた国立療養所菊池恵楓園、あるいは、ハンセン病患者のみの受刑者が収容される菊池医療刑務支所に仮設された「特別法廷」において非公開で行われており、かつ、この「特別法廷」内においては、裁判官、検察官、弁護人がいずれも予防衣と呼ばれる白衣を着用し、記録や証拠物等を手袋をした上で火箸等で扱うなど、ハンセン病に対する差別、偏見に満ちた取り扱いがなされた。さらには、被告人が殺人の公訴事実を一貫して否認しているにもかかわらず、第一審の弁護人は、罪状認否において「現段階では別段申し上げることはない」として争わず、また、検察官提出証拠に全て同意するなど、実質的に「弁護不在」の審理がなされている。このような同事件の訴訟手続が、裁判の公開(憲法第82条)、平等・公平な裁判(憲法第37条1項)、適正な刑事手続(憲法第31条)、弁護人による弁護(憲法第34条)を保障した憲法の規定に反し、被告人の裁判を受ける権利等を侵害するものであることは明らかであり、同事件は、本来人権を守るべき責務を負っている裁判官、検察官及び弁護人という法曹三者が、ハンセン病に対する差別・偏見により、自ら取り返しのつかない人権侵害を犯したものと言わざるを得ない。また、実体的にも、確定判決における証拠関係には多数の重大な問題点が存在し、その証拠構造は極めて脆弱である。
誤った訴訟手続によって判決がなされて確定した場合、これを是正すべきは国家の責務であり、かかる観点から刑事訴訟法439条1項は検察官を再審請求者の筆頭に挙げている。すなわち検察官には、公益の代表者として訴訟手続の過ちを正すことが期待されているのであって、今なお残るハンセン病に対する差別・偏見等から、被告人の遺族による再審請求が困難な同事件においてはなおさらである。
 当会は、このような誤った審理や弁護活動がなされてきたことに同じ法曹としての責任を痛感するとともに、検察官が同事件について再審請求を行うことにより、憲法違反の手続による裁判を是正すべき責務を果たされることを強く求めるものである。
2013年(平成25年)3月22日
兵 庫 県 弁 護 士 会会 長 林 晃 史

小野市福祉給付適正化条例案に反対する会長声明
1 貴市は,今般「小野市福祉給付適正化条例」(以下「本条例案」という)を3月市議会に上程した。しかしながら,本条例案は生活保護受給者その他経済的困窮者の人権侵害を招きかねないものであり当会はこれに強く反対する。
2 本条例案は,生活保護法,児童扶養手当法その他福祉制度に基づく公的な金銭給付の受給者(受給しようとする者を含む)が「給付された金銭を,パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,生活の維持,安定向上に努める義務に違反する行為を防止すること」を目的としている(1条)。そして「受給者の責務」として「受給者は…給付された金銭をパチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消し,その後の生活の維持,安定向上ができなくなるような事態を招いてはならないのであって,常にその能力に応じて勤労に励み,支出の節約を図るとともに,給付された金銭が受給者又は監護児童の生活の一部若しくは全部を保障し,福祉の増進を図る目的で給付されていることを深く自覚して,日常生活の維持,安全向上に努めなければならない」などと定めている(3条1項)。
また,本条例案では,市民及び地域の構成員に,市及び関係機関に対する協力義務を負わせ(5条1項),受給者が給付された金銭をパチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,その後の生活の維持,安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは,速やかに市にその情報を提供する責務を負わせている(5条3項)。
3 しかしながら,生活保護等の福祉制度は,憲法25条の「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」との規定により,基本的人権として保障される「生存権」に基づくものである。福祉制度によって給付される金銭は,貧者への恩恵ではなく,すべての人が自立して人間らしい生活を営むための社会的再配分であり,その使途は受給者がみずから自律的に決定するべきものである。この点,最高裁判所も,生活保護受給者は,支給された金銭の範囲内で,家計の合理的な運営をゆだねられていると判断している(最高裁判所平成16年3月16日判決 ・民集第58巻3号647頁)。
また,生活保護法27条第1項は,「保護の実施機関は,被保護者に対して,生活の維持,向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。」と規定しながらも,同条第2項では,「前項の指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に止めなければならない。」と規定し,同条第3項において「第一項の規定は,被保護者の意に反して,指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」と規定している。
どのような使途にいくらの金銭を支出するかといった家計の運営の問題は,個人の自律的判断にゆだねるべきものであり,家計について他からの監視・干渉を受けない自由は,憲法13条の「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」との規定により,基本的人権として保障される「幸福追求権」及びその一環としてのプライヴァシー権によって,保護されている。上記の生活保護法27条の規定は,このような憲法上の保障を前提に,受給者の家計に対する監視・干渉について,保護の実施機関たる地方公共団体に対し,謙抑的な姿勢を求めているものである。そうすると,受給者に給付された金員の使途について,いちいち監視・干渉することは,家計運営を受給者自身の自律的判断にゆだねていると解される憲法25条及び13条並びに生活保護法等の法律の趣旨に反している。本条例案には問題があると言わざるを得ない。
4 また,本条例案のように,市民等に受給者の行動についての監視する責任を負わせることは,受給者に対する差別や偏見を助長し,受給者の市民生活を萎縮させるものである。そもそも,受給者である情報自体が高度のプライヴァシー情報(センシティブ情報)であり,市民等が,監視対象者となる受給者を認知しているかのような前提自体が極めて不合理である。また,同条例案の「受給者」には,これから生活保護等を受給しようとする者も含まれており,自己の生活が市民の監視にさらされることから,要保護者らの生活保護等の申請を躊躇させかねないし,市民の監視義務により,社会的・経済的弱者全体や生活保護等の福祉制度そのものに対する差別・偏見を助長させる懸念が極めて強い。
そもそも,ケースワークの非専門家である市民等には,受給者による金銭の費消が,「受給者の生活の維持,安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしている」という高度な専門的知見を要する判断を行うことは困難であり,結果として,市民等に,受給者のプライヴァシーに立ち入る過大な義務を課し,市民の監視の名の下,市民等が受給者及びその家族のプライヴァシーをいたずらに暴き出す風潮が作出されかねず,極めて危険である。現に生活保護等を受給している受給者の指導・指示は福祉の専門機関である福祉事務所等の権限と責任のもとで行われるべきものであり,これを市民等の監視に委ねることは行政の責任放棄でもある。
5 その他,本条例案には,生活保護法等法律が定める以上の権利制限を定める「上乗せ条例」として違憲の疑いもあること,「受給者が給付された金銭を,パチンコ,競輪,競馬その他の遊技,遊興,賭博等に費消してしまい,その後の生活の維持,安定向上を図ることができなくなるような事態」や「支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認める」に至る生活状況であるかを判断することは極めて困難であり,「指導又は指示」に関し,恣意的判断がなされるおそれがあること(4条2項),パチンコ,遊技,遊興,公営ギャンブルである競輪,競馬と犯罪行為である賭博の関係が整理されていないこと,受給者に関する情報を提供した市民等に対しても守秘義務が課されること(9条2項),受給者の家計管理の問題をパチンコ等のギャンブルに関する問題に矮小化させていること,犯罪ですら通報義務を負わない市民に対し,何ら犯罪を構成しない受給者の生活状況に関する通報義務を課していること,貴市における生活保護受給者世帯は約120世帯程度と少数であり,かかる条例制定の必要性に乏しいことなど疑問点が多々ある。
6 以上の通り,本条例案は,受給者の人権を侵害し,市民等を監視態勢に巻き込み,生活保護等に対する差別偏見を助長するなど看過しがたい内容となっている。そこで当会は本条例案に強く反対するとともに,貴市においては条例案を撤回され,貴市議会におかれては慎重な審議の上でこれを廃案とすることを求める次第である。2013年(平成25年)3月8日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

会長談話
本日、当会会員が強制わいせつの疑いにより逮捕されたとの情報に接しました。当会としては、現在、事実確認を行っているところであります。被疑事実の真偽については、今後の捜査及び裁判の結果を待たなければなりませんが、被疑事実が真実であるとしますと、弁護士の品位及び弁護士に対する社会的信用を傷つけるものであり、極めて遺憾な事態です。
 当会は、弁護士が市民に信頼される存在であることを目指しており、所属する弁護士に対しても、自覚のある行動を求めております。今後、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人にさらなる自覚を求めるべく、努力を重ねる所存です。
平成25年3月5日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

死刑執行に関する会長声明
2013年(平成25年)2月21日、 3名に対する死刑が執行された。死刑制度については国民的議論が十分尽くされていないにも関わらず、新政権発足後間もないこの時期に死刑執行を継続する方針が示されたことは極めて遺憾であり、強く抗議する。死刑の廃止は、国際的な趨勢である。日本政府は、国連関係機関からも繰り返し、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けている。
また、昨年2月には、当時の小川敏夫法務大臣宛に死刑の執行を行わないよう求める決議が欧州議会において採択されている。そのような中、議論の前提となる情報が充分に提供されず、国民的議論も尽くされず、更にその議論の方針も明確でないままに、さらに死刑が執行された。平成24年3月、それまで法務省内部で行われてきた「死刑の在り方についての勉強会」の報告書が公表され、その中でも国民的な議論が求められているにも関わらず、現状では死刑廃止についての議論がなされたとは到底言えず、その中にあっての死刑執行はむしろ国民の間で議論を始めようという動きに逆行するものと言わざるを得ない。
また、2009年(平成21年)5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっている。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2013年(平成25年)2月21日
兵 庫県弁護士会会長 林 晃 史

オスプレイ配備の中止等を求める会長声明
2012年6月29日、米国は政府に対し、沖縄普天間基地の米海兵隊に垂直離着陸大型輸送機MV22オスプレイ(以下、「オスプレイ」という。)を配備する通告を行い、その後、8月からオスプレイが普天間基地に配備された。今後、配備された24機のオスプレイは①奥羽山脈を中心に阿武隈高地を南端とするグリーンルート、②出羽山脈を中心とするピンクルート、③新潟県粟島を北端に、越後山脈・妙高高原・飛騨山脈を経て、岐阜県高山市を南端とするブルールート、④和歌山県中部から四国山地を中心とするオレンジルート、⑤九州山地を中心とするイエロールート、⑥トカラ列島を北端とし、沖縄本島の北部沖合に位置する伊平屋島を南端とするパープルルート、⑦中国山地を中心とするブラウンルートの計7ルートで夜間も含めた低空飛行が計画されるとともに、普天間基地から、岩国基地及びキャンプ富士への派遣も予定されている。
また、先日、2年後には嘉手納基地に、垂直離着陸大型輸送機CV22オスプレイの配備も検討されているとの報道もなされており、今後、さらに、日本国内に、オスプレイの配備計画が進められる可能性がある。
オスプレイは、従来、配備されていたCH46ヘリに比べ、輸送兵員が2倍の24人、輸送貨物が約4倍の9100Kg、最大速力が約2倍の520Km/h、航続距離が5倍以上の3900Kmとなり、空中給油を行えば沖縄-北朝鮮間の往復や中国への飛行も可能となる軍事輸送機であり、日本の国土を超えた軍隊の展開が可能となる兵器である。
 他方、オスプレイは、オートローテーション(エンジン停止の際でもプロペラが回転し、墜落を回避する機能の機能)の欠陥や、回転翼機モードと固定翼機モードの飛行モードの切替え時の不安定さなど、専門家から構造上、重大な危険をはらんでいると指摘されている。そして、開発段階から墜落事故が絶えず、昨年4月にはモロッコで2人死亡、昨年6月にはフロリダで5人負傷の墜落事故を起こすなど、すでに死者36人と負傷者7人を数え、墜落事故の危険が特に危惧されている。また、オスプレイの騒音は従来、配備されていたCH-46ヘリよりも大きいことから、事故の危険以外にも、7つのルート周辺の広範な地域での騒音問題等も強く懸念される。
しかしながら、日本政府は、日米地位協定並びに航空法特例法によって、米軍が、オスプレイによって、日本の領空内において、航空法が定める最低安全高度(人口密集地300メートル、それ以外150メートル)を大幅に下回る地上約60メートルの低空飛行を認めるに至っている。この点、日本政府は、憲法が保障する基本的人権、とりわけ、生命・身体・日常生活等を害されることなく平和のうちに安全に生存する権利(憲法前文、9条、13条など)を確保する責務を負っており、かかる権利を保障するために、米国政府に対して必要かつ実効的な措置を求めることは、日本政府の責務である。また、日本国内で生活する者の平和的生存権を確保するために、主権国家として、日本政府が、米国政府に対し、必要かつ実効的な措置を求めることは当然のことである。
しかし、日米地位協定第5条並びに航空法特例法第3項により、在日米軍は日本の領空内において航空法遵守義務を負わないため、日本政府が、在日米軍の航空機の管理運営を制約し、活動を制限する権限を有さない。
そのため、日本政府は、オスプレイの飛行について、「できる限り学校や病院を含む人口密集地域上空を避ける」とした日米合同委員会における合意が、既に、宜野湾市をはじめ、那覇市、浦添市などの人口密集地域の上空での飛行が常態化しており、沖縄市・名護市では学校上空での低空飛行が確認されるなど、周辺地域で生活する者らの生命・身体・日常生活の安全を確保する実効的な措置ではないことが実証されているにもかかわらず、米国政府に対し、さらなる実効的な措置を講じることを求めることもできない。
さらに、現在まで、米国並びに日本政府はブラウンルートにおけるオスプレイの飛行を否定していないが、他のルートと異なり、米国政府はブラウンルートの内容については公表していない。兵庫県の県境にある氷ノ山付近から生野ダム周辺が、ブラウンルートの一部に指定されているとの報道もあり、当該周辺地域の住民らは、自らの生命・身体・日常生活等を害するおそれのある極めて重要な情報に接することすらできない中で日々の生活を余儀なくされている。今後も、ブラウンルートの内容が公表されず、飛行区域において合意に反する低空飛行訓練等が継続される事態となれば、兵庫県内において生活する者の生命・身体・日常生活の安全に重大かつ取り返しのつかない被害を招くことにもなりかねない。
 以上のとおり、日本政府が、現在、7つのルートの周辺地域の住民に対する生命・身体・日常生活等を害されることなく平和のうちに安全に生存する権利を保障するための措置を講じることができない状況にある。
 現在の状況に見れば、7つのルートにおけるオスプレイの低空飛行訓練は、周辺地域で生活をする全ての者の生命・身体・日常生活の安全に危険を及ぼし、平和で安全に生活する権利を脅かすものであるといわざるを得ない。
よって、当会は、現在の状況におけるオスプレイの配備・飛行に反対する。
また、日米両政府に対し、日本政府が、米国政府に対し、国民の平和的生存権を確保するために、在日米軍に対し、実効的な措置を講じることを求められるように、日米地位協定並びに航空法特例法の改定・見直しを行うように求める次第である。
2013年(平成25年)2月21日
兵庫県弁護士会会長林晃史

生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明
1 財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は、本年10月22日、財政制度分科会を開き、生活保護の支給額見直しについて、2013年度から物価下落に見合った引き下げが必要との見解で一致した。本年11月末に財務大臣への答申によって、今後、財政再建を理由として、生活保護基準の引き下げが来年度の予算編成の課題とされる懸念が高まっている。
2 しかしながら、生活保護基準は、いうまでもなく国民の生活を支える「最後のセーフティネット」として、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準である。生活保護基準が下がれば、生活保護によってかろうじて日々の生活をつないでいた212万4669人・154万9773世帯(本年7月のわが国の生活保護受給者数)の者だけに影響が出るだけではない。平成22年4月9日付の厚生労働省の発表によれば、わが国の生活保護の「捕捉率」(制度の利用資格がある者のうち現に利用できている者が占める割合)が15.3%~29.6%と推計されていることからすると、少なくとも、今後、生活保護の利用を行う可能性がある約700万人もの生活にも影響が生じることとなる。
また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動する。生活保護基準の引き下げは、これらの施策を利用している低所得層の人の生活にも重大な影響を与えることになる。
3 加えて、生活保護基準の引き下げにより、最低賃金の引き上げ目標額は下がり、「ワーキングプア」と呼ばれる最低賃金の水準で稼働するアルバイト・パートタイム・派遣社員・契約社員など、現在、労働者全体の35%を超える非正規労働者の生活にも大きく影響を及ぼす。
これまでは、正規雇用が中心であったが、昨今の雇用の多様化により非正規雇用が増加し、最後のセーフティネットである生活保護の利用が増加したことは否めない。また、高齢化が急速に進んでいる一方で、年金制度による社会保障機能が脆弱であり、年金のみによる生活ができないため、やむなく就労し、若しくは求職活動をしながら、生活保護を利用する高齢者もいる。特に、就労による給与を得ていても、その額が生活保護基準に満たないことから、やむなく生活保護を利用している者は、生活保護基準の引き下げがなされれば、生活保護費と最低賃金の低下により、両面から収入が低下するという事態も予想される。
4 このように、生活保護は、わが国の非常に多くの者の日々の生活に様々な形で大きな影響を与えるものであり、憲法の定める生存権保障の基盤である。昨今、貧困や格差が拡大し、生活に困窮する人たちの施策や対策が不十分である状況に鑑みれば、むしろ、今こそ、最後のセーフティネットとされる生活保護制度の積極的な運用が期待されるところである。実際に、生活保護は、多くの人たちの生活を支え、生存権を保障する重要な役割を果たしている。
 生活保護基準の見直しは、国民各層の意見を十分に聴取・検討したうえで、多角的かつ慎重に決せられるべきものであって、決して、財務省が、「財政再建ありき」で政治的に決することが許されてはならない。
 以上の次第で、本会は、厚生労働省・財務省が、財政再建を理由として、生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。
2012年(平成24年)11月5日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

姉刺殺事件の大阪地裁判決を受けて、
発達障害がある人に対する理解と支援を求める会長声明
 2012年(平成24年)7月30日、大阪地方裁判所(第2刑事部)は、発達障害を有する男性が実姉を刺殺した殺人被告事件において、検察官の求刑(懲役16年)を超える懲役20年の判決を言い渡した。
 本判決は、「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことには、アスペルガー症候群の影響があり、通常人と同様の倫理的非難を加えることはできない」としながらも、「いかに病気の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば」「被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される。」「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では再犯のおそれが更に強く心配されるといわざるを得ず、」「長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持にも資する」と判断した。
しかし、同判決が、発達障害を有することは個人の責任ではないにもかかわらず、同障害による再犯のおそれを強調し刑を加重したことは、刑法の大原則である責任主義に反する。
また、社会秩序の維持を理由に許される限り長期間刑務所に収容すべきであるとの考え方は、発達障害者を社会から隔離する発想であり、現行法上許されない保安処分を刑罰に導入したものと言わざるを得ない。
 同判決は、発達障害に対する無理解と偏見が存在するとの非難を免れないもので、発達障害者に対する社会的な偏見や差別を助長するおそれがある。平成17年に施行された発達障害者支援法は、発達障害を早期に発見し、発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図ることを目的としており、全国に発達障害者支援センターや地域生活定着支援センターが設置されている。しかし、同判決は、アスペルガー症候群などの精神障害に対応できる受け皿が何らなく用意される見込みもないとの明らかに誤った認識をしていると受け取られかねない表現を用いている。また、発達障害と犯罪は直接結びつくものでないにもかかわらず、十分な医学的検討を加えることなく、社会的に危険視し再犯可能性を強調することは、発達障害に対する誤解と偏見を与えるおそれがある。
 当会は、以上のとおり、同判決の量刑及び発達障害への理解についての重大な問題点を指摘するとともに、発達障害者の社会活動への参加を支援することが国・地方公共団体・国民の責務であることを確認し、広く社会に対し発達障害者に対する正しい理解と支援の必要性を訴えるものである。
2012年(平成24年)9月20日
兵庫県弁護士会会長 林 晃 史

関西電力大飯原子力発電所の運転停止を求める会長声明
政府は,本年6月16日,関西電力大飯原子力発電所3号機及び4号機(以下,「大飯原発」という)の再稼働を決定し,現在大飯原発はフル稼働をしている。
しかしながら,再稼働にあたって実施されたストレステストは,一次評価及び二次評価を併せて実施して初めて総合的な安全評価が可能となるものであり,一次評価のみをもって安全性を評価できないことは,班目春樹原子力安全委員会委員長も認めているところである。しかも,これまで原子力発電所を推進してきた機関(原子力安全委員会)や機能してこなかった規制当局(原子力安全・保安院)が,福島第一原子力発電所の事故の検討結果を反映していない従来の安全審査指針を前提としてストレステストを実施しており,この点からも安全性が確保されたとは到底言えない。
また,福島第一原子力発電所の事故については,本年7月5日,国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(以下,「国会事故調」という)による報告書が公表された。国会事故調は報告書において,事故の原因として,①施設の問題点として,「福島第一原発は,地震にも津波にも耐えられる保証がない,脆弱な状態であったと推定される」,「安全上重要な機器の地震動による損傷はないとは確定的には言えない」と述べ,②規制上の問題点として,「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた」と述べている。その上で,③「今回の事故は『自然災害』ではなくあきらかに『人災』である」と結論付けている。
さらに,福島第一原子力発電所の事故後,各地の原子力発電所の断層について調査が行われているところ,大飯原発に関しても破砕帯が発見されており,専門家から活断層の存在の可能性が指摘されている。このような指摘を受けて,原子力安全・保安院は,本年7月18日,関西電力に対して大飯原発敷地内の断層が活断層か否かを判断するための追加調査を指示したとされる。
 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の傷跡は今も残っており,直下型地震による甚大な被害を体験した当会としては,活断層の存在を軽視する姿勢は到底見逃すことは出来ない。殊に,上述のように,国会事故調は福島第一原子力発電所の事故について,安全上重要な機器の地震動による損傷を否定できないとしているところである。そのうえ,安全対策としての免震棟やフィルター付ベントについては未だ完成しておらず,オフサイトセンターについても大飯原発より約8kmの位置にあり,事故時に機能するのか疑わしい。
 政府は再稼働の理由として計画停電の日常生活への悪影響等を指摘するが,まずはピークシフトなどの節電努力によって回避を図るべきであり,十分な努力を行わずに再稼働を進めることは認められないし,関西電力からの情報開示が十分でない現状において,関西電力から示された15%もの需給ギャップも直ちに信用しがたい。
 上記のような多くの問題点について十分な検討及び対策がなされないまま大飯原発は再稼働を始めている。大飯原発が地震によって放射能漏れ事故を一度起こせば,放射性物質が飛散することになり,琵琶湖も放射性物質で汚染されることが予想される。琵琶湖の水は滋賀県,三重県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県において生活用水として利用され,上水道の給水人口は約1500万人に上っている。兵庫県内においても,神戸市,尼崎市,西宮市,芦屋市において広く利用されているところであり,琵琶湖の水が汚染された場合の被害は計り知れない。
よって,当会は,福島第一原子力発電所事故の十分な原因解明がなされておらず,大飯原発の危険性が指摘されている現時点における大飯原発の再稼働に強く反対し,政府に対し,大飯原発の運転停止を強く求めるものである。
2012年(平成24年)7月26日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

「マイナンバー法」に反対する会長声明
1 政府は、いわゆる「社会保障・税共通番号制」に係る法律(正式名称「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」、略称「マイナンバー法」)案を閣議決定し、国会に提出している。
この法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(共通番号)をつけ、現有並びに将来の当該分野の個人情報を情報提供ネットワークシステムを通じて統合させる制度の基盤となるものである。
 共通番号制は、我が国に居住する個人に関する国の保有する情報を各人の番号により管理するものであり、将来的には、「国民ID制度」或いは、かつての「国民総背番号制」を志向するものである。しかし、既に、共通番号制を実施するアメリカや韓国においては、本人になりすまし、個人情報が入手されるなどの弊害も聞く。
また、最高裁において、個人の内面にかかわるような秘匿性の高い本人確認情報ではないと指摘されたいわゆる「住基ネット」とは異なり、共通番号制が統合する個人情報は、個人にとって極めて秘匿性の高いものであり、これまでの国の個人情報管理のあり方を根本から覆す制度である。
この点から、共通番号制の導入に当たっては、その必要性ならびに統合された個人情報の保護については慎重に検討されなければならない。
2 ところで、複数の機関に存在する個人情報が同一人の情報であることを確認する場合、従前より、「氏名」「生年月日」「性別」「住所」のいわゆる基本4情報により、相当程度、個人情報の同一性確認が可能であった。
しかし、これまでのところ、社会保障分野や税務分野において、特に、これまでと異なる情報連携を必要とする理由、情報連携を行うために共通番号を必要とする理由等の共通番号制の具体的必要性や利用目的については明らかとされず、共通番号制に代わる手段の有無等も検討されておらず、共通番号制導入により構築されるであろうネットワークシステムに関する費用対効果も検討し得ない状況にあり、専ら、共通番号制の導入のみが先行している嫌いがある。
3 また、複雑な情報化社会である現代において、国の保有する個人情報は、基本的人権であるプライバシー権の対象であり、その情報が漏洩されれば、直ちに個人の人格的生存に影響を与え、回復困難な被害を及ぼすことになる。
しかしながら、各人に交付されるICカードに各人の共通番号が記載されるため、同カードの喪失は、直ちに、共通番号で統合された広範な機微情報(治療歴等)を含む個人情報の不正利用並びに漏洩の危険にさらされることを意味する。加えて、将来的には、民間においても共通番号制によって統合化された各個人情報を広範に利用することを予定していながら、具体的にいかなる事務について情報が利用されるかについて、個人が事前に知悉することは困難であり、個人情報が利用される場合にも、原則として本人の同意は不要とされている。
したがって、本人の事前同意を不要とするだけの個人情報保護の措置が講じられていなければならない。
ところが、現在の法案によれば、第三者機関による管理を予定しながら、その機関の権限は不十分であり、担当人員も7名程度であり、その実効性には疑問がある。
また、情報漏洩行為が過失によっても生じることからすれば、罰則強化による個人情報の保護は、十分な対策とは評価できない。
さらに、各人に関する個人情報の利用履歴の事後確認方法は、各人が自らの共通番号を入力し、コンピュータ等の情報端末を操作しなければならず、こうした操作ができない者について自らの情報の利用履歴を確認する術はなく、仮に、操作ができたとしても、不正利用が確認できた場合の利用中止請求等に関する迅速な手続は保障されていない。
したがって、現在のところ、共通番号制によって統合された情報を利用するリスクを十分に検討し、個人情報保護の措置が講じられているとはいえない。
4 以上に述べたとおり、共通番号制の必要性、並びに、共通番号制の導入に伴う個人情報保護措置については未だ十分な議論を尽くしているとは言えず、この点について国民的な理解も不十分であることから、当会は、同法案をもって拙速に法律化することは、最も重要な基本的人権の1つであるプライバシー権を著しく損なう事態を招くものであるとして、強く反対するものである。
2012年(平成24年)5月25日
兵庫県弁護士会会 長 林 晃 史

死刑執行に関する会長声明
2012年(平成24年)3月29日、東京、広島、福岡の各拘置所において、3名に対する死刑が執行された。
国民的議論が十分尽くされていない中で、死刑執行を再開したことは、極めて残念であり、強く抗議する。
 死刑の廃止は、国際的な趨勢であることは間違いない。日本政府は、国連関係機関からも繰り返し、死刑の執行を停止し、死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けている。また、本年2月には、小川敏夫法務大臣宛に死刑の執行を行わないよう求める決議を欧州議会が採択していた。そのような中で、議論の前提となる情報が充分に提供されず、国民的議論も尽くされず、更にその議論の方針も明確でない時期に、死刑の執行が再開された。
 近時、法務省内部で行われてきた「死刑の在り方についての勉強会」が終了し、その報告書が公表されたが、現状では死刑廃止についての全社会的な議論がなされたとは到底言えず、その中にあっての今回の死刑執行はむしろ全社会的議論を尽くそうという動きに逆行するものと言わざるを得ない。
また、2009年(平成21年)5月から開始された裁判員制度においては、裁判員が死刑を含む量刑判断に参加することとなることから、死刑制度全般に関する情報を国民が正確に知った上で、その存廃について国民的議論を尽くすことの重要性は、ますます高くなっている。
そこで、当会は、政府に対し、死刑執行の具体的方法、死刑執行対象者がいかなる手続及び判断基準により選定されたか、死刑確定者の処遇、その受刑能力の存否の裏付け資料等について死刑制度に関する情報を広く公開することを要請するとともに、死刑制度の存廃につき広く国民的議論が尽くされるまで、死刑の執行を停止することを改めて強く求めるものである。
2012年(平成24年)3月30日
兵 庫県弁護士会会長 笹 野 哲 郎

秘密保全法制定に反対する会長声明
1 はじめに
「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が、2011年8月8日に発表した「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という)を受けて、政府における情報保全に関する検討委員会が、国会に提出するための法案を作成中であり、いまだ法案は発表されていないものの、早晩国会に上程されることが予測される。
しかしこの報告書の内容は、以下に述べるように、国民主権原理から要請される知る権利をはじめとする多くの精神的自由権などの基本的人権や憲法上の諸原理と正面から衝突する多くの問題点を有しており、いかなる内容の秘密保全法制であっても国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を拙速に進めることは、民主主義国家の政府の態度として極めて問題である(以下報告書の提案する秘密保全法制を「当該秘密保全法制」という)。
2 秘密保全法制が必要か
報告書では、秘密保全法制の必要性の根拠として情報漏えいに関する事案の存在を指摘し、主要な情報漏えい事件等の概要が資料として添付されているが、いずれも、現行法によって捜査が行われ、法的な対応が行われていることからも明らかなとおり、秘密として保護されるべき情報については、国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるのであって、新たな法制を設ける必要性はない。当該秘密保全法制検討のきっかけとなった尖閣諸島沖漁船衝突映像の流出も、実質秘として保護する必要性が乏しいと言わざるを得ない。
3 現在でも情報公開が不十分である
そもそも政府情報を知る権利は、国民主権の理念に基づき、かつ民主主義の根幹を支える重要な人権として優越的な地位を有する基本的人権であって、秘密保全法制の必要性を検討するにあたっても、なによりも国政の重要情報は、本来、国民に帰属すべきであることを出発点とすべきであり、これら情報を知る権利を制限することには極めて慎重でなければならない。ところが、我が国では、過去において政府が長年にわたり沖縄返還密約を秘匿してきたことなど政府による情報公開が不十分な状況にある。このような情報公開の状況において、政府情報を国民の目から隠すことになる秘密保全法制を作ることは、多くの情報が時の権力者にとって都合が悪いという理由だけで秘匿されることになりかねず、国民主権原理に反し、民主主義の根幹を揺るがせる事態を生じかねない。
4 広範な情報が秘匿される危険性
また、当該秘密保全法制では、規制の鍵となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ秘匿される対象となる情報の分野が極めて広範である。外交や公共の安全及び秩序の維持に関する分野の情報も、特別秘密の対象となりうる情報とし、また、一定の要件のもとで民間事業者や大学が保有する情報までも「特別秘密」の対象としているため、極めて広範な情報が「特別秘密」の対象となる。
5 許される取材活動などと処罰される行為の区別が曖昧である
当該秘密保全法制は「特別秘密」の漏、 えいや取得行為を処罰の対象としているが、処罰規定に、「特別秘密」というような曖昧な概念が用いられることは、処罰範囲を不明確かつ広範にするものであり、罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれがある。
また、当該秘密保全法制では、「特定取得行為」と称する秘密探知行為を処罰対象とするが、いかなる行為が当該行為に該当するかについて、報告書の説明では、現行法では、犯罪に至らない「社会通念上是認できない行為」としており、極めて曖昧である。更に、漏洩行為の独立教唆、扇動行為、共謀行為を処罰対象としており、そこでの禁止行為は曖昧かつ広範であり、この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾するものである。そして、単純な取材行為や取材行為の協議をすること、市民による行政監視のための情報収集行為やそのための協議をすること、なども処罰対象となりかねず、本来自由であるべき取材活動、報道や市民の活動に対する萎縮効果が極めて大きく、国の行政機関、独立行政法人、地方公共団体、一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由、市民の知る権利や表現の自由が侵害されることとなる。
6 国民のプライバシーが侵害されるおそれがある
更に、報告書では特別秘密の管理を徹底するためとして、「特別秘密」の取扱者となり得るものを対象者とした適性評価を実施するための事前調査と評価の制度(適性評価制度)を導入しようとしている。しかし、調査対象者には配偶者など家族が含まれており、極めて広範になるとともに、調査事項も対象者のプライバシーに関わる情報や、運用次第では同人の私人としての活動全般にまで及ぶおそれもあり、調査方法も、第三者機関への照会まで含んでおり、調査対象者が関係していた私的な団体にまで照会という方法で当該団体の活動内容までも調査が行われる危険性がある。その結果、当該調査対象者のみならず、その配偶者などの家族や当該調査対象者が関係していた団体など、広範な関係者のプライバシーが侵害される可能性があり、また、適性評価調査を口実に思想調査などが行なわれ、思想信条の自由が侵害されることも危惧される。そして、調査の実施主体も情報によっては各都道府県警察本部長が含まれており、警察による個人や団体の私的な活動に対する過度の介入を招く危険性もある。さらにこのようにして収集された膨大な個人情報がどのよう
に管理され利用されるのかも危惧されるところである。
7 結論 以上の理由から、当会は、当該秘密保全法の制定には反対であり、国民の間で議論が充分に行われていない状況下で秘密保全法を立案し、国会に提出されないよう強く求めるものである。
2012年(平成24年)2月23日
兵庫県弁護士会会長笹野哲郎

会 長 声 明
-被疑者・被告人と弁護人の秘密交通権の侵害を許さず取調べの可視化を-
福岡高等裁判所は,本年7月1日,佐賀県弁護士会所属の弁護士が担当していた被疑事件につき,弁護人と被疑者との接見内容を,検察官が被疑者取調べにおいて聴取し,供述調書化したうえ,公判において証拠として請求したことが,弁護人の秘密交通権を侵害するとして提起していた国賠訴訟について,佐賀地方裁判所判決を破棄し,国に55万円の支払を命じる判決を言い渡した。
 原審である佐賀地方裁判所判決では,秘密交通権の権利性を一応は認めたが,捜査機関の捜査権に優越するものではないとし,検察官が接見内容を聴取することが違法かどうかは「聴取の目的の正当性,聴取の必要性,聴取した接見内容の範囲,聴取態様等諸般の事情を考慮して」判断すべきと判示した上,結論において本件検察官の行為は違法ではない,としたものであり,このような聴取しうる条件は取調べの可視化がなされていない現状では条件として機能しないものであるとして控訴をしていたものであるところ,本日の控訴審判決では、本件検察官の行為は刑事訴訟法第39条第1項の趣旨を損なうものであり違法であると判示した。
 被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権については,既に鹿児島接見交通権侵害訴訟(志布志選挙違反事件の接見侵害国賠訴訟)において,捜査機関が,立会人なくして行われる被疑者・被告人と弁護人との接見内容を事後的に聴取することが,双方の情報伝達や援助に萎縮的効果を生じさせるものとして秘密交通権の侵害となることが明確に判示されているところであり,本判決は改めて秘密交通権の重要性を再度確認したものである。
なお,本件特有の争点として,被告国側は,相弁護人が報道機関の取材に応じて被疑者の言い分をコメントしたことが秘密交通権の放棄にあたるとして,接見内容の聴取も許されるとの主張をしたことに対して,裁判所は秘密交通権が放棄されたとは認められないものの秘密性が消失したとして許される場合があるとしているが,この点は問題であると言わざるをえない。
 本件は,捜査機関側の報道発表により被疑者の言い分と食い違う報道がなされていたことから,相弁護人は,弁護活動の一環として,被疑者の言い分を報道機関に公表したにすぎない。
 弁護人が接見により得られた情報を第三者に話すことにより,秘密性が消失したとするならば,弁護人は接見により得られた情報を報道機関の取材はもとより,家族等にすら伝えることができなくなり,弁護活動に重大な支障をきたすことは明らかである。
 弁護人と被疑者・被告人との秘密交通権の絶対的保障は,充実した情報伝達を確保することで相互の信頼関係を形成するとともに,有効かつ適切な弁護活動を可能ならしめるための最も重要な基本的権利の一つである。
 当会は,検察庁その他捜査機関に対し,今回の判決を真摯に受け止め,被疑者・被告人と弁護人との秘密交通権が憲法に由来する最も重要な権利の一つであることを十分に認識し,本件と同様の秘密交通権の侵害行為が繰り返されることのないよう強く求めるとともに,このような違法捜査や秘密交通権侵害を防止し,事後的な検証を可能ならしめるためにも,直ちに取調べの全過程の録音・録画(可視化)の実現を求めるものである。
2011年(平成23年)7月1日
兵庫県弁護士会会 長 笹 野 哲 郎

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則
に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める総会決議
 当弁護士会は,わが国における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則」) に合致した,真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。
【提案の理由】
1 個人通報制度について
個人通報制度とは,各人権条約の人権保障条項に規定された人権が侵害されているにも拘わらず,国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合,被害者個人等が各人権条約上の機関(委員会)に通報し,その委員会の「見解(Views)」を求めて条約上の権利救済を図ろうとする制度である。
この個人通報制度は,国際人権(自由権)規約,女性差別撤廃条約においては条約本体とは別の選択議定書に定められており,人種差別撤廃条約,拷問等禁止条約においては条約本体の中に受諾条項が定められている。従って,個人通報制度を実現するためには,各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書を批准し,または条約本体上の個人通報制度を受諾することが必要であるが,わが国は未だに批准または受諾宣言を行なわない。
ところで,残念ながら,日本の裁判所は,国際人権保障条項の適用について積極的とはいえず,しかも,刑事訴訟法・民事訴訟法の定める上告の理由において,国際条約違反が含まれず,国際人権基準の国内実施が極めて不十分な運用となっている。
そのため,各人権条約における人権保障を実現する個人通報制度が日本で実現すれば,被害者個人が各人権条約上の委員会に見解・勧告等を直接求めることが可能となり,そうなれば,日本の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得ず,その結果として,日本における国際人権保障水準が国際基準にまで前進し,また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの著しい向上が期待される。
2 国内人権機関の設置について
国連決議及び人権諸条約機関は,国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され,その回復が求められる場合には,司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
 国内人権機関を設置する場合,1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。具体的には,法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことが必要とされている。
 日本に対しては,国連人権理事会,人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関の各政府報告書審査の際に,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており,また,国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。
 現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の点からも極めて不十分な制度である。
このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。
3 当弁護士会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く採用し,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。
以上のとおり決議する。
2011年(平成23年)3月15日
兵庫県弁護士会

人権侵害事件についての警告等
2016年7月5日付加古川刑務所宛勧告
本件は、受刑者の面会に関する刑務所の裁量の範囲が問題となった事案です。
 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」といいます)第111条1項では、受刑者の親族等について面会を原則許可するものと定め、同条2項では、前記以外の者でも、交友関係の維持その他面会をすることを必要とする事情があり、かつ面会によって刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ、又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生じるおそれがないと認める場合には、刑務所長の裁量により面会を許可することができると定めています。
 申立人は、加古川刑務所に入所し、入所から1年半ほどの間に、申立人の母の内縁の夫であるAさんとの面会を申し出たところ、加古川刑務所から3回について面会を不許可とされ、2回について面会を許可されました。
なお、申立人とAさんとの間で許可された2回の面会は、いずれも法111条2項により刑務所長の裁量で認められたものであり、不許可とした3回の面会について、刑務所はその理由を「面会の許否判断をするため申立人の母とAさんとの内縁関係を疎明する公的資料等(住民票など)の提出を求めたが、提出されなかったため、判断を行うことができなかった」としています。
 社会と隔絶された刑務所内で受刑する受刑者にとって、面会や信書の発受等といった外部交通は、家族との絆、社会との繋がりを確保するため、また、それにより釈放後に円滑な社会復帰をするためにも非常に重要な権利です。
 上記のような外部交通の重要性、また、受刑者の信書発受等に関する過去の裁判例をふまえて検討した結果、当会は刑務所側が申立人とAさんとの面会を3回にわたって不許可としたことは、刑務所長に認められた裁量の限度を超えた処分であると判断しました。
そこで、加古川刑務所に対して、今後受刑者と親族等以外の者との面会の申出については、①面会によって拘禁目的が阻害される現実的危険性が発生し、その危険を排除するために最小限度の制限として、面会を不許可とすべきことが個別具体的な根拠により確認できる場合でない限り、面会を許可すること、②法111条2項に基づき「面会することを必要とする事情」を判断する際には、刑務所側が既に保有する客観的資料などで記載内容が真実でないことが明らかでない限り、「親族申告票」「親族外申告票」の記載や公的な資料の提出の有無にかかわらず、面会申出者や受刑者の説明、面会申込書の記載内容を尊重すること、を勧告したものです。
2016年3月11日付加古川刑務所宛て勧告
本件は懲役刑の受刑者にも裁判へ出廷する権利が保障されるかが問題となった事案です。
 申立人は、相手方加古川刑務所における服役開始後に、服役の原因となった刑事事件の被害者とされる人物から損害賠償請求訴訟を提起されたため、 同訴訟の口頭弁論期日への出頭のため3度にわたって刑務所へ出廷許可を求めたものの、いずれも不許可とされました。
 裁判を受ける権利は、自力救済が禁止される我が国において、憲法及び法律上の権利・自由を実効的に保障するものとして重要な権利であり、「基本権を確保するための基本権」として法の支配の不可欠の前提をなすものです。このような裁判を受ける権利の重要性に照らせば、出訴の権利のみならず、公開の対審手続(当事者双方が裁判所の面前で自己の主張・立証を行う機会が十分に与えられること)まで保障されなければなりません。
 確かに、懲役刑は、人身の自由を制限する刑罰ですが、それを理由に他の権利・自由に対する制限が当然に正当化されるものではありません。
 当会としては、裁判への出廷は保障されるべき権利であり、本件において、相手方が具体的事情を考慮することなく、一般的抽象的に申立人の出廷をすべて不許可としたことは申立人の権利を侵害したものと考え、勧告を行ないました。

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教えて!ニュースライブ 正義のミカタ 2018年02月03日 180203 [政治]

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